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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

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338:作戦その1 part1

「日魅在君を倒す手として、一番簡単なんが、水鏡君と極辷君のコンボや」


 天上高校、第一視聴覚室。

 伝馬立ち合いのもと、六福シフトの構成員のみによる打ち合わせ。


「水鏡君の魔法、“鯨付き寄り神回し(ヒルクウェビス)”。水溜まりがあれば、それを元に作ったカツオを釣り上げる。漁獲量、もとい、召喚数は液体積の大きさや流れの強さに左右され、一定数を超えると合体して鯨を作れる、いう()()()()()能力や」


 波や急流といった、自然発生する力を借りて、何かを為す事を主眼にしたもの。

 水鏡家の継承魔法である。


「条件はキツい。やけど、鉄砲水みたいな急な圧力を生じさせ、更に水場の規模や形態によって威力の上限が青天井。釣った魚を別の水溜まりまで引っ張って合流させ、良さげな場所に流して勢いを増させ、言うお膳立てをしてやれば高威力攻撃成立。魔力の押し合いで勝てる相手やったら、敵体内の水分をカツオに変えて引き出してやる事も可能や。

 ピーキーなだけでごっつう()()()()効果やで。砂漠にでも行かん限り弱いって事は無いわな」

「恐悦至極」


 さして喜ぶ事も恥じ入る事もなく、水鏡は淡々と評価を受け入れる。


「日魅在君の事やから、直接脱水しようとしても弾かれるやろう。それが出来るくらい追い詰める為にどうすんのか、言うんが今問題になっとるわけやし」

「そうね。まず針を打ち込めるかが分かんないし」


 来宣が頷いて先を促す。


「やから、逆のやり方でとっちめたる」

「『逆』、『逆』か……。鯨となった水塊に閉じ込め、溺死させる、という事だな……?」

「言い方が剣呑過ぎるけども、まあそういう事や」


 鯨の肚の中に入れ、押し潰す。

 幾ら嵐を呼べるとは言っても、人一人を沈める事の出来る深みが作れるか、それは別の話。それを解決するのが水鏡の魔法だ。


「ですけどぉ~、そもそもあのカミザススムに、鯨を当てるのが難しいですよねぇ~?」

「彼一人と戦っているのではありませんし、彼が囚われた瞬間から、他のメンバーが全力で救出しようとしてきます」

「その通りや。そこで、もう一つ魔法を混ぜ込んで、回避も救助も不可能な攻撃を作らなあかん。それが——」

「俺の“酔いどれ水先案内バジュラユシ・カナパス”、という事か……」


 「せや!」、

 政十は満足気にホワイトボードをノックする。


「極辷君の魔法、“酔いどれ水先案内バジュラユシ・カナパス”。液体内に情報保存能力を持ったナノ粒子群を溶かし、水辺にネットワーク空間を構築、任意の対象をデータ化してインストールする………あー………早い話が、液状化変身魔法やな。これの便利な所は、変身したモンでないと入れん領域を作った後に、誰を入れるか、誰を入れんか、それをある程度こっちで選べる、っちゅー事や」


 そして魔法空間に入った変身体達は、外部からの認識を阻害される。

 特に敵意を持てば持つほど、意識が戦闘状態の中にあるほど、

水溜まりの中の海が、そこに浮かぶ船が、かすみが掛かったように直視出来なくなる。

 味方全員をそこに乗せて、輸送する事も可能。


 6人全員でソッと忍び寄り、ワッと襲い掛かりパッと逃げる。

 そして“敵”からは追われない。

 立ち位置の有利不利など無い。


 エリア取りの概念が、戦いから消失する。


「日魅在君は魔力で防御するやろうが、その魔力の層ごと鯨に呑ませ、纏めて情報に変換するんや」


 魔力による改変への抵抗すらも、「そういう情報的エネルギー」として能力に取り込んでしまう。一部残存に成功したとして、その部分は本体から引き剥がされる事になるだろう。


 それは進も避けたい。彼単体では治療手段を持たないのだから。

 となると、自ら丸ごと引き込まれるしかなくなる。


「日魅在君の全力なら、ワシらを見つけられるかもしれん。やけども、」

「あの状態は本人にも負担が掛かり、初っ端からガンガン使えるもんじゃねえ、って事か」


 伝馬の答えに対し、何度も大袈裟に頷く政十。


「せやせやせっや。そしてぇ?」

「その状態に移行するのにも、相応の時間が掛かる、ですね?」

「せやそうやそいやっ!ほんで、これまでの観察と寿君のインタビューから、日魅在君が使っとる技術、その中枢をワシらは理解しとる」

「呼吸系利用にる魔素魔力高速大量循環」

「襲われてから気を尖らせようとしても、もう遅いって事ね」

「気付いたら鯨のお腹の中じゃあ、普通に息するのもムリですからねぇ~」


 カミザススムを止める方法。

 その呼吸ペースを乱す事。

 水に沈めるのは最適解の一つだ。

 

 詠唱さえ出来れば魔法は発動する通常のディーパーと違い、継続的なエネルギー運用が切れればすぐにでも破綻するという弱点。

 カミザススムが、他から明確に劣っている点である。


「残るは、どういうドッキリやったら、日魅在君に水鏡君の鯨を当てられるか、言う所や」

「誰かが水鏡の糸を引っ張って、本人に巻き付けてやるしかないゼ?勿論、魔力反応装甲を一部でも剥がした上で、その部分を狙って、だ」

「そこについては、ある程度危険を冒さなければいけないでしょう?」


 寿が挙手する。

 

「単なる武道で言えば、この中で最も秀でているのが私です。これ以上の適任は、私をいて他にありません」


 「こう見えて、N(ナイト)ですから」、

 控え目な言い分にそぐわない自信と共に、彼女は奇襲の尖刃せんじんを請け負った。

 



「捕まえたで…?日魅在君……!」


 腹積もり通り、一本釣り。

 犠牲者もなく、相互破壊トレードは発生せず。

 これで順調に5対6。


「水鏡君、とどめはきっちり頼むで?」

「問題発生」


 仮想空間を泳いでいた鯨の背が暴発。

 内部から何かが突き上がる。


「うっそぉ~………?」

「………水鏡君、一応聞くんやが、あれ、鯨の潮吹きだったりは——」

「全面否定」

「——しないわなあ………」


 最初の手は、それで破綻が確定した。


「ど、どうやったわけ……?」

「恐らく詠訵君のリボンやな。ギリ残っとったあれの端が水から酸素をし取り、僅かな時間だけ日魅在君の呼吸を助け、そこから反撃に繋がった、いうことやろうけども……」


 にしても猶予は数秒な筈だ。

 あの少年が鯨の腹を脱したと言う事は、その間に魔力効力の増大と、魔法眷属への攻撃、破壊、その場から水面への浮上に必要なエネルギーの調達、その全てを行った事を意味している。

 

 数秒あれば、あの大きさの眷属を、殺せると言うのだ。


「溺れるんもデカブツに襲われるんも、慣れとるみたいな速さやな。適応能力が高過ぎるわ。ワシら怪獣でも相手にしとるんか?」


 こうなった以上あと十数秒後には、魔力爆破でこちらに飛来しているだろう。


「まあええ、助けは来ん、ワシら相手に逆転勝利クラッチはさせへん。水鏡君!あの()()()()猿に大漁をお見舞いしてやりぃや!ここでゆっくり1v6を」「テンマ!ちょっといい?」「こちらも至急だ……!」


 聞きたくなかったが、そういうわけにも行くまい。


「……外やな?どないした?」

「この感じ、たぶん辺泥さんね」

「慎重にやり過ぎた…!閉じ込められたぞ…!」


 もやに覆われた空から、石ころ一つがポチャリと落ちて、




 水面みなもに波紋が広がっていく。

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