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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

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336.激突の時は来た!

「っしゃあ!ドンピシャや!」


枝申大運動場、第1模擬戦闘用ホールの選手控室にて。

対面でのオープンロール宣言時から、ずっと皮膚一枚の内側に閉じ込めていた喜色を、政十はとうとう爆発させた。


壁に掛けられたスクリーンには、編成内容が映し出されている。

彼が言った「当たり」とは、まさにそれの話である。




          水鏡三上  P  日魅在進


           寿小染  N  辺泥・リム・旭


          政十天万  B  狩狼六実


          此云慈契  R  ニークト=悟迅・ルカイオス


          極辷猩星  Q  六本木天辺


         来宣志摩子  K  くれぷすきゅ~る




 オープンロールで許されているのは、ロールを一度入れ替える事のみ。ベンチのメンバーとの入れ替えについて、宣言後は一切許されない。



 いざメンバーを発表し合ったら、相性が最悪な人選になってしまったり、という事も普通に起こる。

 そこの読みや情報収集、そして運。それらも含めて「ディーパーの能力」とされる。

 試合がBO1(一回こっきり)で決着するというルールと共に、“競技”の中にも色濃く残された、実戦の手触り、色合い、香りだ。

 

 ギャンバーをもっと軟化させ、死の臭いを消してスポーツ化しよう、という向きもある。特にエンタメ界隈が無ければ、大部分のディーパーが追い出しの対象となっている、先進国社会の数々から、そういう圧が掛かるのだ。

が、丹本国内に限って言えば、運動はあまり影響力を持てていない。


 人は興味がある物にしか金を払わない。だから仕方なく、最低限娯楽として見れるよう、場を整えて行っている。

 けれど本来は、「一度きりしかないチャンスの中で、どこまで準備ができて、どこまで出し切れるか」、それを問う高レベルな演習なのだ。

 

 無論、スポーツに命を懸ける人間も居る。しかし全体の切羽詰まった緊張感は、失われてしまう。

 ディーパー社会脱却を目指すならいざ知らず、丹本がそれを容認出来るわけがない。


 魔学・潜行分野で発言権を持つ丹本がその調子なので、ギャンバーは殺伐としているのが常識のままであり、それが逆に集客にプラスになっていたりする。


 潜行配信が流行るのと同じで、「見目麗しい殺し合い」という物に、人はすこぶる弱いのである。



 話を戻せば、政十が「来る」と見ていたメンバー全員、「来る」事が間違いなく確定していた。

山は大当たり。

 彼らの蒔いた種、その最初の一つが芽吹いたのだ。


「六本木さんのQ起用はどう思う?」

「ハッタリやろなあ。ワシらが川を使うて来る事は、どないなアホでも分かっとる事や。それは当然、ワシらの陣地から伸びて来る物だと見んのが自然」

「機動性が特別優れているわけでもない彼女は、こちらから出来る限り遠ざけるのが鉄板だ……。防御方法が無いでもないが、重いリソース消費が伴う……」

「まぁ~、詠訵さんと入れ替えで、ってなるでしょうねぇ~」

「至極同意見」

「後は………」


 寿が一度大きく息を吸い込み、


「後は、勝つだけ、ですね」


 苦戦しながらもそう吐き出した。

 力が入った彼女を見る機会は、そう何度も無い。

 だけれど、誰もそれを嘲笑しなかった。

 皆が同じようなものだったから。




 だから顔を見合わせて、獰猛に歯を見せ笑い合う。




 それぞれが装備の最終チェックを行い、悠々と待機スペースにまで進んだ。

 職員からの合図。

 あと1分程で会場。


「円陣でも組もうかしら?」

「良いですねぇ~それぇ~」

「やるか……」

「縁起は担いどくに限るわ」

「鼓舞(のち)士気高揚」

「仕方ありません。お付き合いします」


 全員が肩を組み、頭を突き合うくらい近くする。


「見えん奴がナンボのもんじゃい!こちとら深級のZ(ゼロ)さんで、そういうの相手は鍛えられて慣れっこなんや!軟弱な丁都モン共に甲都育ちの過酷さ見せたらあっ!ええなっ!」

「「「「「おうっ!」」」」」

天上あまのうえぇっ!!」

「「「「「応っ!」」」」」

天下てんげぇっ!!」

「「「「「応っ!」」」」」

唯我ゆいがぁっ!!」

「「「「「応っ!」」」」」

独尊どくそぉぉんっ!!!」

「「「「「オオオオオオオッ!!!」」」」」


「っしゃ!行くで!!」


 ゲート上のランプが青色に点灯し、階段が解放される。

 足取りに闘志を滲ませて、彼らが登ったその先には、


「なんや、」


 紅葉や針葉樹、首無し地蔵が並ぶ中、

 所狭しと入り組んだ寺院群。

 斜面や崖も多く、背の高い竹藪もあり、塀は無いのに遮られている。


「ある意味ワシらのホームやないか」


 広く視界が悪い山寺のような場所に立ち、政十は何か、「流れ」とでも言うべき風が、背中から押し抜けて行くのを感じた。


 それぞれが決められた位置につかされる。

 カウントダウンは正常に進んでいる。

 これがゼロになるまでに問題が起こらなければ、そのままここは戦場になる。


「ああ、あかんな」


 指抜きグローブの填まり心地を確かめながら、政十はひとりごちる。


「これはあかん。楽しみ過ぎる」


 どうしてか、彼は今を謳歌していた。

 お務めであると言うのに、彼は2ヶ月前から今日まで、一時も苦痛を感じていなかった。

 相手が倒せそうにないと分かれば分かるほど、彼は増々《ますます》張り切っていた。

 

「やっぱ男は、自分より強いモンと戦ってこそやな」


 どうやって倒すか。

 どうやって勝つか。

 そういう困難を考え、答えを出せた時の高揚。

 必要な公式を忘れた証明問題で、自力で道筋を見つけた時のような。


 「分かった」と閃くその刺激。

 「出来た」と叫ぶあの爽快感。


 詰まった喉がスッと通る瞬間。


 彼が一番好きな物。


 ブザーが鳴った。


——日魅在君

——君はワシに、

——どんな問題を出してくれるんや?


 彼は即座に完全詠唱を開始した。

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