335.どうも、「時の人」です
「まず自分らに頼みたいんは、明胤さんトコと当たるであろう準々決勝まで、ワシ抜きで勝ち進んで欲しい、言う事や」
12月に入った。
47都道県の代表が集い、一番を決めるトーナメント大会。
全国ギャンバーU18が開幕した。
いつも通り、打ち合わせ室と化した第一視聴覚室に集合したメンバー達を前に、政十はまず大会の勝ち進み方針について説明していた。
「対明胤パーティーは、当初の予定通り“六福シフト”で行こ思う。ワシ、志摩子、極辷君、水鏡君、寿君、此云慈君の6人や。その内ワシと、此云慈君と極辷君。まだ公に魔法行使の瞬間を公開していないこの3人は、本命まで出来る限り温存しときたい。
ワシが使う政十の継承魔法については、ある程度情報が出回っとるやろうが、その中のどの切り口の能力を、どの程度の強さで使えるんか、それを隠せるんはドデカいメリットや」
「一つ良いか…?」
挙手したのは極辷。
「能力の詳細が広く知られていないのは、来宣も同じ筈だ…。万全を期すなら、こいつも出さずに明胤戦まで辿り着くべきだ」
「全面同意」
「確かに来宣先輩の能力は、作戦の要になりますからね。見られれば見られる程、成功率が低まってしまいます」
勝ち残りがより困難になるが、やってやれない事はない。
自分達を信じて任せて欲しい、彼らの瞳がそう弁を振るっているのを承知の上で、
「いや、そうやない、逆や」
日和見などでなく、何処までも勝利に貪欲なままだと、政十はそう示す。
「志摩子にはじゃんじゃん前に出て貰うわ。一部の能力はオフレコのままで、やけども一番目立たせるんや」
それは、賭けの分を良くする一工夫。
「理由を聞こう…」
「明胤さんトコはシャレにならんのが多過ぎる。全部の対策するには時間が足りん。やから、山ぁ張って対策を絞らせたやろ?」
「肯定」
「やったら、当然ワシらが狙ってた相手さんに出て来て貰うんが、いっちゃんオイシイわけや」
「……ああぁ~、そういうことですかぁ~…」
こちらが多彩な手札を匂わせて、相手がそれに対抗して、それを全パターン網羅した上で、その中から一つを言い当てると言うのは、流石に気が遠くなってしまう。
が、天上パーティーの選択肢が、ある程度狭いと向こうに知らせたらどうか?
当然、その戦術に対応しやすいメンバーを選んで来る。
範囲が制限された編成を、狙い撃った人選。
つまり、そちらもまたピンポイントに、予想が容易になってしまう。
「来宣先輩なら、頭一つ抜けてる分、釣り餌として申し分ない、って事ですねぇ~?」
「良いよ良いよ、どんどん良くなるね。見違えた」
「ムッカムカぁ~~~~!!」
「少なくとも辺泥は釣れるだろうゼ。来宣はそれだけ相手方にとって脅威だ」
「強力な駒を揃えるなら、カミザススム、詠訵、ルカイオス、そして辺泥…。これで残り2枠…」
更に向こうの通信手段兼ブレインとして、六本木も外せないと思われる。
残り一人。
「バランス的に、遠距離を埋めようとするでしょうからぁ~、登録されてる中だとぉ~……」
「『くれぷすきゅ~る』名義が詠訵三四である事は確定している……。よってそれも消去法から外していい…」
「とすると、狩狼家の長男……長男……?まあいっか、長男と、亢宿の御曹司、って所ね」
「丁都大会やと色々試しとったみたいやけど……ま、あちらさんも、ワシらの事を警戒しとる筈や。とすれば、変に冒険する事はせんやろ」
「辺泥以外は特別指導クラスメンバーって考えりゃあ、まあ残り一人は手堅く息を合わせやすい、慣れた相手を指名するだろうゼ」
「必然必定、狩狼六実」
だから政十は、その6人への対抗策を、入念に張らせたのだ。
「勿論、ある程度予習はして貰う。やけども、この6人をぶつけられる想定で行く。ぶっちゃけギャンブルや。ようけ祈っとけ」
「現実的な話をするなら、そうならざるを得ないわね」
「だから来宣先輩に、活躍させるわけですねぇ~」
「その条件で考えるなら、目下の脅威は3回戦で当たるであろう、壌弌の庭たる乙都の将平教育学校……。それ以外には、容易に勝利出来るだろう……」
「油断は禁物ですが、気負う必要はあまりなさそうです」
御三家が育てた教育機関、その看板は伊達ではない。
彼らには本来、国内に敵らしい敵はほぼいない。
他の御三家が並ぶくらい、という構図になるのは当然だった。
壌弌と明胤が潰し合わなかった事は不運だったが、その程度に勝てない人間が遂行できる任務ではない。
「まずは将平に勝利、志摩子は能力の有用性を見せつつ大事な所は隠す、準々決勝までにローテを仕上げる。以上や。何か質問は?」
見渡した所、特に異論は無いようだった。
「よっしゃ!そいじゃあ、まずは腹ごしらえや!ワシの奢りやから存分に……っておーい?」
両手を打ち付ける音と共に、全員が山盛りのたこ焼きやお好み焼きに群がっていた。
「ハフッ…!過熱ッ…!フーッ…!フーッ…!フーッ…!……美味……!」
「冷める前に喰わねば…!」
「ちょっと!おバカちゃん取り過ぎ!」
「ムカぁ~!私の前にご馳走置いとくのが悪いですよぉ~!」
「喉に詰まらせんなよー?ゆっくり食えー?」
「先生、そう言いながら抜け駆けはやめてください。一度に食べられない分を盛り付けるのはマナー違反です」
もう誰にも話を聞く気が無い事を悟り、政十は頬をひくつかせながら溜息一つ、肩を怒らせながら争奪戦に参加したのだった。
決起集会は終わり、今日中に宿に移動する。
後は、明日の刀庫県で開かれる大会本番、そこで万全のパフォーマンスを発揮するだけだ。
12月11日、水曜日。
刀庫県、枝申大運動場、第3模擬戦闘用ホールにて。
全国ギャンバーU18大会の第三回戦が進行中であった。
対戦カードは、甲都の天上高校と乙都の将平高校。
優勝候補である2高の激突ともあって関心も高く、会場が満席になるのは勿論、中継の視聴率も本年度最高水準に達していた。
しかしその試合内容は、予想を裏切り両者の優劣明暗を、はっきり画すものとなった。
政十家出身者という大本命の温存。将平側にとって、二軍をぶつけられるような屈辱。しかし試合が始まって見ると、それは決して根拠無き増長ではなかったと分かった。
下町風のフィールドに魔法で人工河川を作り、それに囚われた相手の位置を正確に把握、水鏡三上の眷属の召喚にも利用と、制圧力に素人目でも分かる程の差があったのだ。
地上は一挙手一投足に到るまで支配され、ならばと高所へ逃げ込もうとしても、寿小染に制空権を握られている。
派手な魔法が乱舞する戦いに見えて、有効打は常に天上高校からだった。
ただ、幾ら岡目八目と言えど、非ディーパーの観客には、レベルの低いディーパーでさえ、分かっていない事がある。
全国大会出場メンバー達なら、見抜けるくらいの戦術的価値。
来宣志摩子。
来宣家長女にして、あの政十への嫁入りが内定している少女。
水辺も水中も、彼女の体内に等しい。
位置関係を暴き、水に触れた仲間達全員に共有。
その上本人からも、魔法による遠距離攻撃が飛んで来る。
観測手であり通信手であり狙撃手であり指揮官であり。
甲都大会の際には姿を見せなかった彼女が、パーティーの中心的存在である事は疑いようもなく、強い衝撃と共にその名と能力を記憶された。
こんな3年生、今までどこに隠していたのか。
音楽の一部界隈で名が知れているだけで、ディーパーとして無名なのは不自然極まりない。
ランク5など、戦力詳解するまでもなく不当な低評価。
全国大会が始まった当初から、ライバル校や企業・大学のスカウトマン達は、突然現れた才に惑い乱れ、各所に電話を掛け回り、方々に足を使って駆け回る事になる。
見る目のある人間達は、誰もが確信した。
登竜門と認識するような強敵相手であれば、天上高校は必ず彼女を投入する。
大本命のメンバー。
そしてその相手と目されている中の一つ、今大会の目玉と言えるパーティー。
天上高校の快勝をして、注目度「最高」ではなく「最高水準」に留めた原因。
ここ10年程で異様なほど“天才”が発掘される、潜行界のゴールドラッシュ世代の中にあって、信じられないような圧勝を続けるもう一校。
そこはディーパーの名門だった。
だがそのメンバーは、異常値と異端の混成。
ランク8が2名。
うち1名は、あのルカイオスの系譜。
国内有数の人気潜行配信者が2名。
うち1名は、あの漏魔症罹患者。
それ以外もビッグネームの数々、かと思いきやよく知らない名前も挟まる。
その実力は、もう論じる必要が無いくらい、丹本国内に鳴り響いていた。
天上高校は今や、「下剋上」を期待されている側。
彼らの負け姿は、想像の中ですら捏造し難い。
丁都代表、明胤学園パーティー。
「聞いてた通り、芸能、特に音楽系の神様ネ」
彼らの側でもまた、天上高校を大敵として睨んでいた。
「あたしの魔法と似てるワ。水の中の振動、波、そういう物を操る、って感じ」
「レーダーとして使う事も、無線として使う事もできる、って言うのは、そういう事ですか……」
「なかなか倒し甲斐がありそうだ!なあ!そう思わないかトロワさん?」
「そうかしら?コトブキとかいう人と二人きりなら唆られるけれど、それ以外は真っ向挑むのを避けてるみたいで、気に入らないわね」
「他はともかくとして、政十天万を隠されたのは中々に痛い……」
「ニっくんの言う通りよぉ「おい!それはオレサマの事か!?」それ以外にも、まだ顔見せが済んでない、極辷って3年生も怖いわぁ」
「相手が水の振動を使うなら、相殺出来るベッチ先輩を使うのは確定で良いですよねぃ?」
「それがあたしの事なら、そうネ」
「索敵の対抗は日魅在!通信の対抗は六本木!これでよかろうよ!ワガハイが入水などしたら半秒で沈んでしまうわ!」
「イェア。このデカブツは水気厳禁だ。錆びちまう」
「そうですね。政十さんの能力も考えると、私は居た方が良いと思いますし、残りのメンバーと配置は「ヨミチさんヨミチさん。ちょっとッス」うん?八守君どうしたの?………あれ?ろくちゃん?」
小さき従者の声によって、浮かない顔をして一人の世界に溺れた彼女に、一同は漸く気付く事が出来た。
「ちょー……?ろくピー……?」
「……あっ、ごめんムー子……!」
「よきー……?つらぽよー……?」
「じゃないじゃない。ただその……」
「何か気付いたのか?」
「気付き、ってか何も分からん、って感じなんけどさ」
サイドテールを斜めにぶら下げ、彼女は言う。
「そのクリノブっての、ちょいピカピカ過ぎくない?」
「……あー………、それ言っちゃうノ?」
「ピカ……?目立ってるって事?でもそれって天上高校のレベルが高いからじゃあ……?」
「いやそうなんよ。それはそうけどさ」
「言いたい事は分かる。明らかに伏せ札を温め続けている奴らが、来宣に関してのみ禁を解いたという所に、引っ掛かっているんだろ?」
「それって、将平が強そうだったから出した、とかじゃないんスか?」
「それにしては、妙に余裕を持って対処してた感じだよね。しかも、全国大会では毎回使ってるんだよ?」
「んでしかも、出してんのがパーティーの軸になるっぽいメンだし。あれが透けるだけで、作戦ガン見えになんの、ビビったやり方の割に行動がイミフってか………キモいー……!なんかモヤるー……!」
「考え過ぎじゃないの?そんな事ばっかりクヨクヨくよくよ、よく神経が持つものだわ」
「全くだな!ワッハッハッハ!」
「脳筋組は少し黙れ!」
何かを誘っているのかもしれない。
しかし来宣を使われた時、こちらの布陣に解決札が無いと言うのも、結局余計に不利に落ちるだけ。
あれを見せられた時点で、持って行く編成はほぼ決められる。
それを誘っている?
だが初見殺しを捨てるというデメリットまで享受して、そこまでするのか?
彼らが出ても対処できる、そんな具体的な勝算があるのか?
「………みんな、聞いてくんない?」
選択は決まっている。
なら彼女が考えるべきは、その先だ。
1か0かで1を取った。
ならばその1に0.1でも0.2でも、加算して補強していくしかない。
「あーし、アレについて考えてるんけど、みんなは?感覚的によさげ?」




