表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十三章:まずは国内!目指せ世界一!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

507/984

334.夜の学校って、なんかドキドキするよね

「おーい、まだ見てんの?」

「んあっ、なんや志摩子か」

「なんやとは何よ。私で悪かったわね」


 ノートPCと睨めっこをしていた政十。

 その後ろから首筋に缶ジュースを当てた来宣。


 時刻は18時を回ろうとしていた。

 窓の外はもう暗く、その向こうで灯りに塗られて、別棟の壁から白く刳り抜かれた廊下を見ていると、何故だか淋しさを感じてしまう。

 もうじき最終下校時刻だ。


 休日であっても、学校が開かれている時間は変わらない。

 土日にここを利用する時、子どもの要求で大人の休みを潰しているような感じがして、来宣は心のどこかで罪悪感を覚えてしまう。

 伝馬に言わせれば、「どうせ将来コキ使われんだ。ってかお前らは今からちょこちょこ使われてんだろ。コセコセした気遣いなんて後でいーんだよ後で」、だそうだが。


「みんなちょっと潜ってから帰るって。あんたは?」

「ワシは、今日はこれを見とくわ」

「そんなに面白い?それ」


 画面に映るのは、カミザススムの潜行配信だ。

 浅級巡りをやっているだけなので、本気の彼についての情報が取れるとは、欠片程にも思えない。

 けれど政十は、食い入るように見入っていた。

 

「なにか」

 

 集中している為に、少し途切れ途切れの返答。


「何かを、見落としてる気がしてならん」

「それは……カミザススムについて?」

「それも分からん。なあんも、分からん」


 それっきり、また沈黙が下りる。


 病的なまでの漂白への拘り、その結晶であるLED電灯が、太った虫の羽音みたいな音を発している。

 いや、静かすぎて、そういう気がしているだけかもしれない。

 彼女の実家の一室にある煤けた蛍光灯が、そんな風に鳴っていたから連想したのかも。


 来宣は隅に相合傘が刻まれた机の上に座って、指で名前でも書くように表面をなぞり、ただならぬ気配を漂わせる政十を見ながら、つまらなさそうに足をプラつかせていた。

 それに飽きると、左手を肩くらいに持ち上げ、右手は腹のあたりでくうを掻き、ばちで何らかの弦楽器を弾くような仕草をし始めた。


 が、やがて思い出したように、自分用に買っておいた缶飲料に手を付けた。

 「薬品みたい」と同級生からのウケが悪いそれの栓を開け、その炭酸で喉を弾いて、

 

「にしてもさ」


 破裂の勢いに乗せて、言葉を叩き出す。


「やれ『家名に寄り掛かった怠惰』だの、やれ『七光りを発する昼行灯ひるあんどん』だの、散々言われてたあんたの、表舞台実力全開デビュー戦だってのに、負け戦なんてね」


 笑ったように見える彼女の、その表情が晴れて見えないのは、伏せられた睫毛のせいか、眼鏡レンズの屈折故か。


「普通やと勝てん、そういう勝負に呼ばれんのが、ワシの、ごっついディーパーの役目や。『お偉い家』の面目躍如やな」


 彼は自らの懸念に引かれ、どこか上の空で話している為、誇りと諦観、どちらの言葉かは推し量れなかった。


「それ言うんやったらお前かて、『許嫁(ゆえ)の依怙贔屓』やとか、『女売ってメンバー枠買った』やとか、よう言われとるやろ」

「私は別に良いのよ。ただの小娘だし、普通に勉強して普通に遊びもする、何処にでも居る学生ディーパーだから」


 罵倒されて傷つく誇りや殊勝さなど、持ち合わせてはいない。

 強いディーパーである事は求めたけれど、それに伴う名誉に興味は無かった。

 彼女にとって、ディーパーは単なる手段だ。そして早いうちに、健康上の都合で一線からは退く、その予定まで決められている。使命だとか生き様だとか、カッコつけるものでもない。


 彼女を認めてくれるのは、たった一人で良かった。


「でもあんたはさ、私とは違うでしょ?一族の責務なんて、歴代が積み上げて来た荷物をちゃんと背負って、国とか政十せいじゅうとか五十妹とかの為に、戦ってきたのに、これからも戦い続けるのにさ」

「それが今の時点で広く知られとったら、それこそコトやで。政十家直轄、“十影とかげ部隊肝煎(きもいり)”の名が泣くわ」

「そうなんだけどさあ…。なんか、アレだなって」

「何や、『アレ』って」

「『アレ』は『アレ』よ」


 「察しなさいよばか」、

 彼女は追加の爆剤を求めて、再び缶に口を付ける。


「ワシはなあ、」


 その間に、今度は彼の方から言葉が出た。


「ここ数年、気の良い先輩やら、気の合う後輩やら、ほんで極辷君や、お前みたいなんと、誰にも見えん所で、勝手放題さしてもろとったからなあ」


 「不満なんて持っとったら、バチぃ当たるわ」、

 PCを閉じる。

 下校チャイムが校舎内を練り歩く。


「それなりにええ高校生活やった、そう思っとる」


 「閉店、仕舞いや、帰るで」、

 彼はそう言って、スクールバッグに荷物を纏め始める。


「ばーか、まだまだこれからよ。受験だってあるんだから、高校生やめれるかも分かんないわよ?」

「せやった~!思い出させんといてや~!せわしさにかまけて忘れようとしとったのに~…!」

「しぃらないっ」


 みっしりと満ちる夜の中、無機質に引かれた白い道を、二人は並んで歩いていた。


 もうすぐ今日が終わる気がした。


 もうすぐ今が、終わる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ