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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
断章:黄昏少女は直結中毒

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断章その十:二つ目の「奇跡」 part1

「どうして、わるくなっちゃったの?」


 きっと、諦められなかったから。


 したいことを、絶対に遂げたいって、そう思ったから。


 何がしたいかも分からないのに。

 

 だから、不覚悟な悪者として、退治されなきゃいけないんだ。


 ここに居るのは、怪物達も含めて、命を懸けて勝ち取ろうって、戦っている者だけ。


 でも、その狐は違った。

 何かを信じる事も、

 何かを貫く事も、

 何かを変える事もない。


 何も無かった。

 無かったのに、諦められなかった。

 

 何かがある筈だって思って、

 

 でも願っているだけで、何としても見つけるって、無ければ作るって、そう決められなかった。


「どうして、わるくなっちゃったの?」

 

 どうしてだっけ。

 何でだっけ。

 きっと狐にも、分からないんだ。


 分からないから——




——違う




 あの狐は諦めなかった。

 諦めなかったから、悪者になった。

 ちょっと痛くて、ちょっと苦しくて、ちょっと死にそうになって、

 それでも諦めなかった。

 希望どころか、地獄行きが分かってて、

 首を落とされるまで抵抗した。

 石にされても戦った。


 何の為に?

 狐は何を諦めなかった?

 何が欲しかった?

 何に縛られて引きずり込まれた?


——やがて彼らは恋に落ち、

——結ばれて、

 

 彼女が愛するあまり、

 彼と彼女が想い合うあまり、

 

 彼は彼女の為に、彼女は彼の為に、

 国も地位も捨てられず、破滅の道を歩んだとしたら、

 愚かにも生の道を閉ざして、執着に内からむしばみ滅ぼされたとしたら、


 ああ、

 嗚呼ああ

 なんて——




——()()()()()()()()()

 

 


 両手で縄を掴む。

 爪と肉が削られるのも構わず、指を挟み入れ隙間を作る。

 流石深級。

 黙っているだけで、魔力が回復していた。

 でも完全詠唱をもう一度、なんて水準には届いてない。


 ()()()()()()()使()()()()


 出口が多いから、それだけ燃費が悪い。

 それはそうだ。

 だけど同時に、無理をして取り繕っていたから、

 だから無駄なエネルギーを使っていたんだ。

 善人ぶりたいのも、私の本心。

 だけど、理性という蓋の下の、もっと根源的な“私”。

 それに従えば、それだけに絞れば、浪費はもっと安く済む。


「アあ…!わた、しは…!」


 何処までも自分本位なのに、

 ずっと彼の事ばかり気にして、

 その矛盾が、分からなかった。

 私は自己を優先して、彼を一番に考えていた。

 どっちかに嘘があるんだと思って、

 どっちも否定できないって苦しんで、


 でも違う。

 私はずっと、同じ欲に囚われてただけ。


 縄を掴む両手を、人差し指と小指を立てた、キツネサインの形にする。

 体内を流れる魔力、その気配が変わったのが分かった。

 縄が押し返され、

 それを伝ってW型の戸惑いが感じられた。


「アハ…!わたしは…!」

 

 お腹が、おへその少し下あたりが、熱い…!

 本能が、

 デロデロに煮詰められた動物的本能が、もっと暴れたいとうるさくけ回って、

 熔鉱炉みたいになった乙女の中身を、ぐるぐると掻き混ぜる!


 分かった、

 私は、




「ススム君と、恋がしたい!」


——身を滅ぼすような、

——くらくて熱い恋を!




 そうだ。

 言葉にして確信した。

 内臓があるべき場所に、ストンとハマったように感じた。

 さっきまで全身に巣食っていた懊悩が、

 情炎じょうえん一波ひとなみでキレイに焼き払われた!

 体も頭も心も軽くなって、

 晴れ晴れしくんでいた!


 九つの尾を持つ狐のように、

 恋がしたかった!

 愛してみたかった!

 破滅しても、地獄で永劫に責め苦を受けていても尚、

 それを忘れられないような、

 それに縋らずにはいられないような、

 痛くて甘くて苦しくて気持ち良くて、


 そんな相思相愛が欲しかった!


 私はその一方的な悲願の相手に、ススム君を選んだんだ!



 私は私が一番好きだし、

 ススム君を一番愛してるんだ!



「アハ♡」


 両手のキツネ、その口先にキスさせて、親指を離さずに下へ広げ、ハートマークを作る。

 身体強化に使っていた魔力をも魔法に回して、「その効果」を成立させる事に使う。

 

 愛が人を堕とす。

 人が愛に狂い死ぬ。

 その様に心奪われた事を、認めたくなかっただけ。

 良い子で、世の中に従順で、好かれて、報われる女の子で居たかっただけ。


 今は違う。

 私の物語は、もう見つけた。

 私は夜を行く。

 一寸先が闇であっても、暗い夜道を選ぶと決めた。


 月一つ無い夜空の下、

 新しい私の生誕に、こんなにぴったりな情景は無い。




            「“一途な私の恋を見てターム・ア・モノス・マエノス”」




 魂が弾き出した完全詠唱。

 青と黒、二色の魔力が私から発散され、囲んでいた敵を押し払った。


「ふううう~~~……♡!」


 ああ、息が楽だ。

 空気がんでいる

 満員電車から降りて、秋の朝日の中で、深呼吸してるみたいだ。

 こんな真っくら、真っくろな夜が、私を自由にしてくれる。


 尻尾としてのリボンは、変わらず9本。

 白かった部分が、黒く反転してる。

 どういうわけか、ボディースーツが無くなっている。

 なんだか布面積が狭く感じる衣装だ。

 青地に黒ライン。

 首からお臍までと、両脇から先、それに両脚、それらを守るのはボディストッキングのような、目の細かくサラサラとした薄い生地だけで、純白が光るように透けている。

 スカートは長いものの、太ももの上辺りからシースルーになっていて、腰布程度にしか機能してない。

 鼻から下を覆うフェイスベール。頭上には狐耳型のリボンが載せられる。

 中東の踊り子衣装を、もっと過激にした、みたいな。

 これも一つの変身なのかもしれない。


 だって、まったく心細くない。

 恥ずかしくもない。


 これが私の完全武装、

 最強の勝負服だって、

 そう言い切れる。

 

「フフフ、アハハ、アハ、ハハ………」

 

 私が一人で薄ら笑いを浮かべるのを、どう思ったのか。

 離れた所に着地していたW型が、動く。

 符を投げながら他に指令を出して、飛び道具群で再度の封殺に掛かる。

 私はリボンを1本だけ自分の前に回し、


 一周回。


 360°を薙ぎ払わせる。


 全ての攻撃が止められ、或いは軌道を変えられ、何も私に向けて飛ばなかった。


「アハ、フフフ、フフフフフ…アハハ……」

 

 斉射はまだ続くけど、私には触れない。

 私の肌は、そんなに安くない。

 F型が上から突っ込んで来るのを、リボン3本で3方向から包み抱く。

 もう遅い。

 逃げられない。

 鳥籠の中の鳥は、哀れ急加圧に耐えかねたペットボトルのように、ベコベコに潰れて死んでしまった。


「どうして……、どうして……、」


 どうしようか?

 どうするべきか?

 どうしたいか?


「どうして、あげよっかな…?あなたの事……」


 俯けていた顔をゆっくり上げて、W型と向かい合わせる。

 そいつは一歩引いたけど、

 だめ。

 もう逃がさない。

 私と彼が結ばれるのを邪魔したばかりか、

 私の肌に触れ、傷つけた。

 後で治せばいいけど、そんな事は問題じゃない。

 彼を夢中にさせる為に、磨き上げておいた私の宝を、こいつは誰の許可があって、その汚れた手で傷物にしようと言うんだろう?

 そんな傲慢、無恥、無神経、


            許せるわけがないよね?


「でもきっと、あなたは幸せだよ?あなたが最後に見れる、綺麗な物——」



——それが私なんだから。



 私の愛の証明を、穢そうとした。

 私は愛を貫く為に、それに報復しなきゃいけない。

 私のそんな生き様が花開くのを、これからこいつは一番に見れるんだ。

 なんて、贅沢な末期まつごなんだろう?

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