表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
断章:黄昏少女は直結中毒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

486/984

断章その3:沼

 それからの私は、餌を貰う為に喉を枯らす雛鳥みたいだった。


 一つの配信につきコメント一回、その予定は早くも破られた。

 連投にならない程度に、しかし出来るだけ多く、名前を忘れられる事を怖がるみたいに、強迫観念に片足を入れてるレベルで、何度も何度も彼に声を掛けた。


 戦闘中は気を散らしてはいけないので、シンプルな応援コメントだけに留め、合間合間に挟まる雑談タイムで、彼の気を引こうとし続けた。

 しつこくならないように、という自制心はあったけど、彼の目に実際はどう映っていたかは分からない。

 少なくとも拒絶の意思が表出する事は無かったから、これできっと大丈夫だって、私はそう言い訳しながらまた一言を書き込んでしまう。


 その内ラジオのハガキ職人みたいに、どういう話題を振ったら強い反応を引き出せるか、そのコツをどんどん掴んでいった。


 彼が特に食い付いたのは、潜行用グッズの性能や使い心地についての質問。

 それを聞かれると高確率で目を輝かせ、そして早口でその利点や快適さについて饒舌じょうぜつに語り出す。

 私はそれに耳を傾け、彼との「会話」を堪能する。

 小柄で声が高めで、可愛らしい面もあるけど、武器やガジェットに夢中になって、嬉々として喋りたがる所なんか、彼もしっかり男の子だと分かる。


 その頃はある意味で充実して、ある意味で飢えてる感じだった。


 彼からの供給、彼からの認知で高揚し、それが切れると次を待ち侘びて、また得られたらきんえつに浸って。禁断症状に追われる薬物常用者みたいに、不足と充溢じゅういつのサイクルを繰り返して、その快楽は日常の一部になってた。


 これはまずいって、自分でもそう思った。


 今はまだ、彼が配信を辞める気配は無い。だから勉強とか友人関係とか、そこに支障を来すまでにはなってない。

 だけどもし、チャンネルの更新が途絶えてしまったら?

 次がいつになるのかも分からず、長期間音沙汰無しになったら?

 それともある日心が折れた彼に、はっきり引退を宣言されてしまったら?

 もしくは彼が判断を誤って、綱渡りを踏み外し、そのまま帰らぬ人になってしまったら?


 最後の未来は、想像するだけで本当に吐き気がこみ上げた。

 その時私は、上手く日常を送れるだろうかと、酷く不安になった。



 でもそれこそ、私にはどうしようもない。



 例えば彼が辞めないようモチベーションを上げるのだって、ただコメントで話し掛けるのが精一杯。無責任だけど、それがリスナーだ。


 切り抜きとかで布教する事は出来るかもだけど……その分野では素人な私が今から参入して、技術を磨き知名度を上げて、全くみんなに知られていない彼を押し上げられるまでに影響力を拡大させるには、一体どれだけの時間が掛かるか分からない。今、説得力を持って彼を支える、その手段にはならない。


 色付きコメントでお布施したり、広告収入の為に再生回数を回したり、そういうのは「収益化申請」が通ってから。

 まず登録者が1000人以上な事が条件で、しかもダンジョン配信者が急増している昨今、申請待ちの列は多分長い。まだまだ無名な日進月歩チャンネルは、1000人達成に時間が掛かるし、申請承認も後回しにされるような気がする。


 その間も彼が続けてくれるなんて、言い切れる材料は持っていない。

 あまり見られてない、お金も貰えない事に、根気強く取り組める人は、そんなに多くない。

 

 そして彼の命に関しては、見てるだけの人間では、本当に手を加えられない領域。それが消えそうになっていても、見ている事しか出来はしない。

 

 天気や気候が臍を曲げないように、毎年祈る農家の皆さんって、こんな気持ちなのかもしれない。いつ何が、知らない所で牙を剥いて、私から糧を奪ってしまうのか。私自身は、そこに一切干渉出来ないのだ。


 何故なら私は、飽く迄遠くから見てるリスナーでしかなくて………


 ………………………………


 悪魔的な誘惑が、背中から胸を抜けていった。


 いや、それはない。

 幾ら何でも、それは違う。


 私が直接会いに行って、繋がりを作ってしまえたら、配信が終わっても彼を見続けられる。何だったら、直接触らせて貰えるかも、なんて。


うん、駄目だよそんなの。ただのネットストーカーじゃん。でも私少なくともニシン君よりは強いしあわよくばお助け枠みたいな感じで参加できないかな。でも良くないよね。一人で成長していくのを軸にしてるチャンネルに余計な手出しで邪魔しちゃうのって、ああでも見てる人がじれったく思ったり飽きたりして離れてっちゃうのは問題だし、アシストを入れてペースアップした方がみんなも面白く見れるし、もっと安全になる事も含めてニシン君にとっても得だし、だけどニシン君が見つかって反応してくれなくなっちゃうのはイヤかもだけど、でも人が少ないままだと活動辞めちゃうかもだし死んじゃうより全然良いから、ああじゃないじゃないそうじゃなくてそもそもリスナーが自我とか独占欲とか出すのが迷惑って言うか、私達は飽くまでニシン君のくれるコンテンツを受け取る側で、それ以上頼まれてもないのに踏み込む権利なんて無いって言うか、



——ヨミっちゃんだったら、

——潜行系のインフルエンサーとかでもやってける気が



 待って?

 ちょっと数秒整理するから数秒待って数秒。

 閃いちゃったかもしれない。



 リスナーと配信者の関係性だからライン越えになるなら、私がリスナーより強い立場になればいいって事じゃないかな?

 例えば同業者とかになって、コラボ相手に偶々選んだってていを取って声を掛けて、そこから仲良くなっていくとか。


 そうすれば()()()()会えるし、コラボなら企画内容に意見出すのは当たり前になるし、一緒に戦えて彼の手助けも出来て成長に一役買えてこの手で守れて、私の収益化が通ってたらその稼ぎを折半する形で貢げるし、更にリアルでもお友達になれば配信の有無は関係無く会えるし、


 ダメ!

 ダメダメダメ!

 ダメだよ!

 出来ないよ!


 どうして?

 どうしてって、だってそれは、何だか恥ずかしいし、自分が見られるのに相応しいって自信があってやる事だし、動機が不純だし、何より危ないし………


 「出来ない」?

 出来ないって、なに?

 私はニシン君の、手段を見つけ出して強い意思で実現する姿に、心を動かされた。彼から色んな物を貰っている。

 これ以上を望むのに、自分から何かを差し出せないなんて、そんなのナシじゃないかな?


 私は彼から何を学んだの?

 恥ずかしい?危ない?

 それを彼に向かって言えるの?

 出来ないと言われた事とも戦う、そんな彼を生き甲斐にしてる。

 彼から来るのを待ってるだけじゃ足りなくて、その人の近くに、隣に行きたいなら、

 私から行くのが当たり前じゃないかな?

 

 私も、「挑む」のが当然じゃないかな?


 「出来ないと思える」程度で、諦めちゃいけない。

 それで彼と対等になりたいなんて、それを望む事こそ、彼への侮辱だ。

 彼と同じように、踏み出すんだ。

 何かが欲しいなら、努力と勇気を示さなきゃなんだ。


 何事も、()()()()

 やってみないと、「出来ない」って事も分からない。


 だから私は、

 TooTubeに配信用のチャンネルを開設した。


 アカウント名は、“くれぷすきゅ~るチャンネル”。


 成功するか失敗するか。

 彼に会えるようになったとして、それを本当に実行するのかしないのか。


 まだ黄昏どっちつかずで迷いのある私に、ぴったりな名前だと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ