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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
断章:黄昏少女は直結中毒

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断章その2:“推し” part1

 最初は単なるハラハラだった。

 危なっかしくて目が離せないと思った。


 別に私に何が出来るわけでもない。彼の命の責任は、彼自身にある。危険行為をやめさせたいなら、コメントで一言二言注意……それも無粋かもしれないから、ただ通報とかして去ればいい。

 けれど私はそうせず、その日の配信を最後まで見て、チャンネル登録と通知設定をした上で、床に就いたのだった。

 布団の中でも眼が冴えて、心臓はずっと鳴りっぱなしだった。


 一応言っとくと、この時は人として特別な感情が芽生えたとかじゃなくて、ある種のスリルを楽しんでいたんだと思う。

 きっと何処かで私は、「無害である事」に退屈していて、それを埋める何かを探していて、彼がそれをくれるんじゃないかと、そんな期待を抱いただけだ。

 サーカスとか、そういうのを見る感覚に近い。

 

 悪趣味だけれど、でもそれを刺激的に感じる私も確かに居て、だから彼の——“日進月歩チャンネル”の“ニシン君”の——配信の常連となった。


 不思議な事に、彼は日にちが経っても、モンスターを討伐しても、弱いままだった。

 大抵は保有魔力量が増えて、身体強化が使えるようになって、浅級の上層なんて簡単に踏破出来るようになる。それがいつもの流れ。

 けれど彼はそうじゃない。

 どんな相手でも、1体殺すだけで命懸け。

 ダンジョンは常に危険と隣り合わせだと、私達にいつも思い出させながら、あの手この手で各個撃破をして、少しずつだけど歩みを進めていた。


 魔法の詠唱をする所を見せないのも、不自然と言えば不自然だった。

 けれどそれに関しては、そんなに変には思わなかった。

 毎回見せる、驚異的な精度での索敵能力。あれが魔法効果なんだと思っていた。

 きっと、持続力が高いタイプの魔法で、身バレ防止とかの理由で、配信が始まる前に詠唱を済ませているのだろうと。


 魔法そのものが見えないのも、疑問点ではある。だけど、まあ、珍しいだけで、無い話でもないので、引っ掛かる事ではなかった。例えば地面の下とかを進行してるとか、カメラを内側に収める程のフィールドを展開してるとか、そういったタイプなのかもしれない。魔力は元々映像じゃ見えないし、そんなものかと思っていた。


 とにかく、彼は弱かった。

 潜行もスローペースで、対複数のような無理をせず——そもそも彼が単独潜行をしてる事自体が「無理」な話なんだけど——、各種潜行用グッズの紹介や使い方解説も挟みつつ、彼なりの戦い方で進んでいた。


 中々見ないスタイルだと思う。


 基本的に、弱いディーパーはパーティーを組む。と言うか、大抵のディーパーがそうで、ソロ潜行をメインにしているような強者は、少数派。有名な人間ばかり見ていると感覚が狂うが、「潜行は複数人で行う物」というのが、少なくとも明胤学園では「いろはの“い”」だった。


 それで考えると、弱い上に一人という無謀そのものなスタイルは、滅多に見れない映像と言えた。

 でも別に、難しい話じゃない。実力を過信してる初心者とかだったら、ありがちなのかもしれない。


 じゃあなんで、そういう映像の供給が少ないかって言えば、それをやったら現実に返り討ちにされたり、時には命を落としたりして、全然続かないから。そして才能ある一部は、トントン拍子に強くなって、能力を遺憾なく振るい始める。


 彼はそういう自信過剰や才人とは、また少し違う感じがした。

 自分がそこでは一番弱いって、何か一つ欠けたり見落としたりしたら死ぬって、知ってるように見えた。成長の遅さもしっかり自覚して、別の物で補うように努めていた。


 道具の用意や整備、ダンジョンの下調べを入念にやっておいて、どの敵から倒すのか、どういうルートを選ぶのか、その判断も適確だった。

 自分の身体地図についても、指先までしっかり引けていた。身体強化が無くとも腐らず体を鍛え、自分流の格闘術みたいなのを実戦で編み出した。


 一人でダンジョンに潜るっていう、大変な挑戦をしてるのに、リスクとリターンの計算が出来ている感じ。

 堅実そのものな冒険者チャレンジャー

 健気で努力家なギャンブラー。

 危な過ぎる事は徹底してしないけど、そもそも絶対に危ないやり方で潜ってる。

 ムジュンしてるって言うか、アンバランスって言うか。


 知れば知る程、内面に対する印象さえグラついて、だから余計に目が追いかけて。

 

 気付けば私は、彼のチャンネルに入り浸るようになっていた。


 その頃には、物珍しさからか人がチラホラ立ち寄り、同接が2ケタ行くか行かないかが、当たり前くらいの賑わいになっていた。

 大手から見ると、風に吹かれる枯れ葉みたいな規模の小ささ。

 だけど、普通に無名で特段強いわけでもビジュアルで売ってもいない人が、TooTube始めてから1、2ヶ月で生放送にこの人数が付くのは、ダンジョン配信界隈だとしても、丹本ではそこそこ稀な事だと思う。

 登録者数と同接の比率で見れば、その異常さがよりくっきりと分かる。


 それは彼もそう感じているみたいで、初めて同時に10人以上に見られた時は、「ちょっとしたライブハウスみたいな集客だ」って、変な緊張をしてたのがおかしかった。もっと怖い事やってるクセに、今更人に見られるのを気にするなんて、って。


 彼は私と同じように、中学生くらいだと思うのだが、平日昼間からでも配信を始める。だから全部を見れるわけじゃなく、家に帰るともう配信が終わっていて、アーカイブを確認するしかない時もある。

 ある日そこに、別の視聴者から一つのコメントが書かれていた。


『2ヶ月やってこれって(笑)才能無いからディーパーやめた方がいい(ノД`)・゜・。学校行け不登校児(@_@;)』

 

「は?」

 

 これも、思わず声に出た。


何を的外れな事を言ってるのかちゃんと配信内容見てないでしょうニシン君の良い所は強さに恵まれない中でそれを克服しようと色々あの手この手を考えて無駄とかどうせ出来ないとかネガな所を見せずに全力で取り組んで行くその心の強さとちょくちょく見せてくれる抜けた性格や愛くるしさであって強い人がサクサク踏破するのが見たいならそういう映像なんてありふれてるんだからあなたなんて全然お呼びじゃなくて


 ………みたいな言葉が、頭の中にバーッって広がって、顔が熱くなった。ネットスラングで悔しがってる人の事を、「顔真っ赤」とかってバカにする文化があるけど、その時の私はまさにそれだった。


 コメントには反応が1件。

 ニシン君本人から、


『ご視聴ありがとうございます。期待通りに出来なくてごめんなさい』


 そう返信されていた。


 私はニシン君が大人な対応をした事に胸を張りたくなる一方で、何も悪くない、ただ頑張っている、私に楽しみをくれる彼が、理不尽な言葉を掛けられている光景に悲しくなった。


 結局、自分では返信や反論をせず、コメントに低評価をつけ、通報し、ユーザーをブロックするだけで済ませた。

 だけどそれじゃあ、胸の閊えは晴れない。

 でも私に出来る事なんて、これ以上何も——


——コメント……!


 ハッとする。

 コメント欄は、感想を書く場所だ。

 決してアンチ専用ご意見スペースじゃない。

 つまり、プラスな感想だって、好きなだけ書ける。


 前にSNSで、誰かが言っていた。

 “推し”を持ち上げるファンは見苦しいかもしれない。だけど、人から賞賛されるという事は、無視できない原動力、生きる為の資本になるって。特に、人が人を面と向かって褒める事に抵抗がある現代丹本で、リスナーがコンテンツに肯定的な意見を気軽に発信する、その文化を根付かせる事自体に意味があるって。


 理不尽なクレームで変なルールが出来る事がある。それが発生している原因として、クレームを言う人の存在と同じかそれ以上に、いつも満足している人達の発信力不足がある、みたいな意見も聞いた事がある。

 「私は今の状態が好きです」、それをちゃんと言葉にするべきだって。


 その日、私は生まれて初めて、ネット上に文字を投稿する側になった。

 閲覧の為のツールを、発信側として使ったのだ。


『いつもドキドキしながら見てます!応援してます!ガンバって下さい!』


 30分以上掛けて文面を考え、それから送信ボタンを押すかどうかでもう30分悩み、ベッドの上に置いたスマートフォンに向けて、震える指を押さえながら遂に画面をタップ。

 書き込まれたのを確認したと同時に電源を消して、そのままバクバクうるさい心臓を落ち着かせようと、スマホを胸に抱きながら暫く仰向けで横たわり、少しして枕に顔を押し付けベッドの上をゴロゴロと往復した。

 

 その日はそれで寝てしまい、次の日起きて、スマホの通知を確認していたら、コメントへの返信が来ていた。


『ありがとうございます!頑張ります!』


 たったそれだけ。

 それだけだけど、心がほんわか温かくなって、昨日の憂鬱も飛んで行ってしまった。

 だけどそれ以外に、何か肌がピリリって、痺れたような感じがした。

 その時は、でもそんなはだ心地ごこち、すぐに忘れてしまった。

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