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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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324.終わってみれば、全部良い思い出だ part2

 まずは狩狼さん。

 ………うん、何て言うか、深くは考えない事にした。知らなくても良い事って、世の中にあるよね。


 それとテニスン先輩と虎次郎先輩、和邇さん。

 なんかD型討伐で目立ってたり、Z型を倒すまでした俺に興味があるというのと、仮にも数日間共闘して知らぬ仲でも無くなったから、とのこと。


 この3人はてっきり、八志教室の他のメンバーと一緒になると思ってたから、意外だった。みんな俺と関わるとヤバイ事になるって学習して来て、前以上に距離を取り始める人が多かった中で、有難い事に俺と関わってみる事を選んでくれた人達だ。

 特にテニスン先輩は俺に触れられるのをどこか嫌がっていた側だったので、同室を希望された事に加えて握手を求められて、テンション上がってブンブン振ってたら普通に引かれた。距離を詰める段階で躓くのは、コミュ障の悪い所である。

 

 で、あと………萌黄色の短髪に三白眼、鼻も顎もシャープな………誰だこの人?


「枢衍教室の亢宿勻だ!よろしく!」


 スウエン……?アミボシ……?えっ……とぉ……あ!確かルール無用寮長こと万先輩の教室だから………木を生やす人だ!例のインチキについても真面目過ぎて一人だけ知らされてなかったらしい人!俺はあの時朱雀大路君の魔法で寝込んでたから、こうして会うのは確かに初めて。

 この感じだと、未だにあの時の裏工作について、知らなさそうだけど……何でここに?


「君とは前々からお近づきになりたいと、出来ればやり合ってみたいと思っていたんだ!君に会いに行こうとすると万先輩が良い顔をしないから躊躇っていたんだが、しかし何事も自分の耳目で触れてみない事には正しい判断は出来ない!ギャンバーのU18選抜もあるしな!この機を逃さず一念発起!というわけさ!一つ屋根の下でとこを同じくする事で分かる事もあるだろう!」

「言い方ァ!って言うか『一つ屋根の下』は修学旅行なら当たり前でしょ!」

「うん?まあそうかもしれないな!」

 

 ああ……。なんかこの人にだけ悪巧みに抱き込まれなかった理由も、トロワ先輩がこの人を苦手だって言ってた理由も、ちょっと分かっちゃったかもしれない。少なくとも隠し事とか無理だわこの人。

 カンナ、皆まで言うな。「お前が言うな」、だろ?さっきから言葉にせずとも目だけで分かるぞ。以心伝心だな?嬉しくはないけど。



 こうして異色過ぎるメンツによる、ワチャワチャお泊り会が開催された。

 ニークト先輩と虎次郎先輩が腕相撲でバトってたり(ニークト先輩の全敗)、和邇さんが持って来ていたトランプで適当に遊んだり(俺の全敗)、お土産用に買ってた筈のお菓子を賭けたポーカー大会が勃発したり、突如部屋が筋肉品評会場に変わったり、布団を敷いてたら枕投げ戦争開戦からの怒られ終戦したり、夜布団の中で怪談話に花を咲かせたり………


「これこれこれだよ!俺はこれを心の底から渇望してたんだよ!」

「ヤバイ性癖持ちの悪役みたいな事言ってるな……気まずくないのか……?」

「そうか!良かったな日魅在君…!」

「ウケるー……」

「どうでもいいが全員黙れ!オレサマが寝れないだろ!」

「ぐごごごごごごごぉぉぉぉぉぉ………!」

「シィィィット……!誰かそいつの息の根を止めてクレ……!」


 

 みたいな感じで、マジで楽しかった。

 結果だけ見ると、イリーガルに感謝したいくらいだ。いや、友達殺しかけたのは許さないけどね?


 そして今日、全日程満了という事で、悠々帰っているわけである。

 なんか駅の構内に入る寸前で、政十さんが追いかけて来て勧誘攻めが再開されたのが怖かったけど。ご当地スイーツの話とかいっぱいされて、なんで食い物方向なら行けると思われてるのか聞いてみたら——


「いやいや何を今更。日魅在クンが甘いモンに目え無いのは常識ですやんか?配信でのユニーク食レポ、人気コーナーでっしゃろ?最近は一人称配信の為に、飛び回らないで戦う企画が増えたぁ言うて、持って行けるスイーツの種類が多なった事を自慢げに言うとりましたやろ」


 成程。

 俺がご主人に貢ぎ物を献上している所は、外からだとそんな感じに見えるのか。

 ごめん。それ俺の趣味じゃないんです。

 申し訳ない。俺が食いしん坊を飼ってるばかりに。


(((飼われてるのはあなたでしょう?減点です)))

(否定できねえー……!)


 とまあ政十さんに対しては再三再四丁重にお断りして、そこで今度こそ本当に交渉終了。じいちゃんへのお土産を買った事もしっかり確認し、ついでに自分用も探して、シンプルなデザインの木刀に一目惚れし、購入。周囲から何故か微妙な顔をされながらも、所定の新幹線に乗り込んだ。

 後ろに座席が無いのを良い事に背もたれを軽くリクライニングして、心地良い疲労感と共にダルダルと溶けていたのだが——




 ………うん!ここまで思い返してもミヨちゃんが近くなる理由が無い!!

 何が起こってんのコレ!?

 ミヨちゃんが優しいから心配してくれてるにしても、なんか度が過ぎてない!?


「ススム君の手、元に戻って良かった……」


 そう言ってミヨちゃんは俺の左腕を両手に取って、赤ん坊を扱うみたいに優しく撫でている。くすぐったいと言うか、熱い。体温がヤバイ。あったまり過ぎる。カンナ、引いといてくれ。(((ツケじゃないんですから)))


「ま、まあ、最悪魔力で何とかすれば、ディーパーは続けられるって分かったから……」

「だからってそれを前提に戦うのはやめて」

「おん……、ご、ごめん」

 

 濡れたように光る瞳と強めの口調で、ぴしゃりと窘められてしまった。ダンジョンの中で俺を見つけた時から、ずっとショックを受けていた彼女を前にして、流石に軽率な発言だった。反省。

 

「ひゅ゜っ!?」


 と、自らをいましめていたら、急に左手の指がじっとりとした乳肌にゅうきいましめられた。

 手の甲側から左手に絡まる、婀娜あだっぽい五指。指の股をキュッと絞めて、爪の先まで動かせなくなった俺の目の前に、搦め取られた獲物が持ち上げられ、見せつけられる。


「ほら、ススム君、気持ち良いでしょ?」

「きもち……!?」

「ね?むにむに、って、人肌の温かさを感じられるでしょ?」

「う、は、はいぃぃ……!」

 

 ほかほかした甘酸っぱい聲に、ぽしょぽしょと頬をそそのかされ、とんでもない質問にも、正直な心を吐露してしまう。


「これ、簡単に捨てちゃ、ダメだよ?」

「う、うん、うん………」

「もっと、大事に、ね?」

「わ、分かった、わかったから……」

「約束?」

「するから、約束するからぁ……!」

 

 な、何、が……!?

 何が起こってッ……!!?


「み、ミヨちゃん、なんか、ヘンだよ……?」

「ええ~?なぁんにも、ヘンじゃないよぉ……?」

「よ、酔ってる……?」

「さあ、どうでしょう……?」


 言いながら顔が…!ああ!顔があ!

 と、彼女の瞳が、その焦点が、僅かに斜め上に逸れた。

 俺はそのチャンスに飛びつくようにして、その視線の先へと頭を回そうと「ダぁメ」半分固まり切っていないのりのような、10本の白く肉感的なあみひも。それは念の籠った鎖のように、俺の頭を雁字搦めにして、意識の脱走を許さなかった。


「ちゃんと、こっち見て?」

 

 窓の向こうから、キラキラに塗られる睫毛。

 その下から注がれる、惚悦こつえつとした反射光。

 ほんの緩やかに下へと膨らむ、つやの差した唇。


「ね?」


 爪が立たないように、やわいほうだけで口に触れられる。

 ホイップクリームのような肌が、リップみたいになぞり伸ばされる。

 ふわついているその温感が、交感神経をコトコト煮崩す。


「み、ミヨちゃんって、俺の事、お、お色気で釣れば、何でも言う事聞くって、思ってない……?」


 俺の煩悩が溶け出した空気に、冗談めかした色を付けようと、とにかく軽口を叩いてみるも、


「ん~?どうかな……?そうかも……?」

 

 鎖は首の後ろに回る。

 ほとんど抱き合ってるみたいになる。

 口と口が、布一枚ほどしか離れていない。


 そうなると頭を引けもせず、

 前に倒れるわけにもいかず、

 同じ座標に固定したまま、

 カタツムリのようにねっとりと進む時間の中、

 丁都につくのを待つしかなかった。

 


 肺が熱い。

 彼女の吐く息がそうだから。


 なら、自分の吐く息も、彼女の喉を通っていて、


 まるで一つの循環系になったみたいで。


 それを自覚した時、

 

 二人分を打とうとするかのように、


 鼓動が深くなった。

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