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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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324.終わってみれば、全部良い思い出だ part1

飢え。

吐き気を催すような飢え。


血と肉を尽く燃やし尽くして、水も糞もひり出して、

痰のような黄色おうしょくの何かも嘔吐えずき捨て、

とうとう皮の裏っかわが、骨を直々に撫でてしまう。

地に指を這わせる度に、内と外の感覚が同時に触れ、

鈍くも鋭くもこすられて、

痛く、

いたく心地が悪い。

肌は、もう生類しょうるいのそれでなく、使い古した布のよう。

もうとっくに命が失われていて、

ここには代わりに抜け殻となった、

衣が掛けられただけなのか。

それでも風を感じるのだから、おかしな話である。

自分の物とは思えないこれが、かつてはあれだけ瑞々しかったのだから。


飢え。


飢える。

食う物は初めから、一欠けらも与えられる事無く、

少し前から渇きを訴えても、何も寄越さなくなった。

汗一滴の所有すら、もう許されない。


飢え。


眩暈がするような。


何処かで弦が鳴っている。

不快な高さから移ろわず、

切れ間無きほど執念深く。

闇に瞬く病みついた星々。

目蓋の下でも頭を刺して、

立てど座れど責めさいなんで。


板間に爪を立てても、赤色が滲みすらしない。

風とも吐息ともつかぬ怨み言を募らせる。

声に出せているのかも分からない。

教えてくれるようなだれぞも無い。

歯で頬を噛み切り、それすら嚥下出来ずに咳き込み、

胸の力が足りず、異物が喉に居残り続ける。


飲むも吐くも、満足に出来なかった。


口を動かして、どの耳にも届かぬ言葉を、何処の目にも入らぬ叫びを、


一言、


せめて一言、


自らにだけは轟くように、


うらめし、


そう言った。













「で、そこでミヨちゃんが来て、命拾い、って流れ」

「じゃあススム君、本当にZ型一人で倒しちゃったの?スゴイね……!」

「先生達にも訊いてみたんだけど、外見とか能力とか一致してるから、まず間違いなくそういう事、らしい」

「そ、それであんなにボロボロだったんだね……。ちょっとびっくりしちゃったよ」

「でもその代わり、配信で喋れる特大のネタが出来た!って思ったのに、混乱を避ける為に、イリーガル事象について外部へはオフレコとか………腕斬られ損だあ……!」

「腕斬られちゃったら、何があっても損だと思うけどね?」


 甲都から丁都まで、帰りの新幹線の車内。

 来た時と同じく、左隣にミヨちゃん。

 ただ何となく、行きより距離が近くなってるような気がする。いや心のじゃなくて、物理的に、なんか俺のスペースの3、4割くらいがミヨちゃんに侵食されてる。

 ただそれを指摘すると、女の子に耐性が無くて一々気にする情けない男みたいになるので、あんまり強く言えない。はいカンナ、「もう取り繕える余地無いだろ」みたいな顔しない。

 え、待って、なんでこんなに近いの?距離で言ったらゼロどころかマイナスだよ?ちょとびっくりしちゃってるのは今の俺の方だよ?




 Z型を倒した後、精神力の限界が来て、俺は気絶し出血を止められなくなった。

 あの時の俺は例えるなら、ギリギリ届く遠さに手を伸ばして、そこにある針の穴に糸を通しながら、もう一方の手で刺繍模様を描き、更に足先で綾取りをして、口で咥えたペンで数学の問題を解いて………というのを、針山地獄のど真ん中で、致命傷にならない体の位置を調節しながら、やってるようなものだった。そりゃ頭の一つや二つ、使い果たそうというものである。死んでないだけオーケー。


 で、ぶっ倒れてた所を発見したのが、俺と同じく一人逸れしまっていたミヨちゃんだったらしい。

 急に内部の地形やら道順やらが作り変わったあの現象に、案の定他のみんなも巻き込まれていたらしく、それぞれなかなかにピンチだったと聞いた。

 ただそこは流石の対応力で、死人は出ずにめでたしで終わり。勝手に一人で全員助けるつもりでいた自分が、ちょっと恥ずかしい。


 その後、あのダンジョン内に居た全生徒を一度引き上げさせて、管理者側と共同で内部の総浚いが行われた。結果、地形は元に戻っており、モンスターの異常行動もそれ以上確認出来ず、収穫は無いに等しかった。

 まあ例えば“靏玉エンプレス”の奴なら、ダンジョンの内装を好きに変えられるような口振りだったから、模様替えも原状復帰も思いのままなのだろう。変に証拠とかは残さないか。


 ただ悪い事ばかりでなく、うちのメンバーのうち二人の深化が重なり、それぞれ大きく成長したのだと言う。危機を切り抜けられたのも、そのお蔭が大きいんだとか。

 特にニークト先輩の変化が目覚ましく、完全詠唱をしても正気を失わなくなったと聞いて、「え?!そんなん無敵じゃん!今度見せてくださいよ!」と思いっきり食いついたら、鬱陶しいとはたかれた。ひどい。先輩のかっこいいとこ見てみたいだけなのに。


 ただ魔力消費はやっぱり激しいらしく、使うかどうかはケースバイケースみたい。

 あと先輩がパワーアップしたその場を見ていて六本木さんに、色々と聞いてみようとしたら、「ハッズ……!軽く死ねる~……!」なんて事をずっと呻いていた。何があったのか、狩狼さんあたりに今度聞いてみようと思う。


 そういった嬉しい誤算もあって、生徒の側だけで問題を解決出来たのだが、先生方、特に同行していたシャン先生と八志先生の二人は、面目無さそうにしていた。身の安全を保障する立場なのに、一番危うかった時に不在だったからと、責任を感じていたのだ。


 ダンジョンを相手にしている以上、そして俺というややこしいのが居る以上、先生方に落ち度は無いと思うが、それでは気が済まないとの事で、何か希望は無いかと聞かれた。だからダメもとで、部屋割りの変更をお願いしてみた。仲の良い人達とのお泊り会を諦めきれていなかったのである。まあ旅館側にも迷惑掛かるし無理だろうなあ………


 と思ってたら何故か通った。

 

 流石に男女が同じ部屋は普通に無理だったが、クラスや選択教室、学年の垣根は無くなった。宿泊最終日には全員で話し合って、思い思いの部屋割りで配置し直して良い事になったのだ。

 

 というわけで後は一部屋分の友達集めである。学園とは関係無く部屋を取っている八守君は除き、ニークト先輩と………そこで思い出した。それ以外の同性の友達は、みんな遠征に付いて来ていない!と、人脈の浅さに絶望し掛けた俺の下に、何人か駆け付けてくれる事となる。

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