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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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322.晴らしてやる! part2

 墜ちる!




 誰もがそう思った。

 彼は銅色、いや、あかがね色の魔力を放出しながら、ただ落下していた。

 このまま地面に叩きつけられる。

 自らが砲弾になってA型を倒す腹積もりかと、そう思った者も居た。

 

 彼らの耳に届いたのは、肉が潰れる音でなく、


 遠吠えだ。


 モンスター達までもが、一斉にその発信源に気を取られた。

 そしてその魔力の中から、

 一陣の突風。

 W型とF型が反応し躱す。

 だがA型は半ば程から断髪され、C型とV型が巻き添えで負傷。

 風の先、抉れた地にはもう何も居らず、

 そこから続く赤金の軌跡の先、G型達に護衛されたM型弓兵達が次々と両断される。

 

 符を丸め針型にして糸の先端に付け、それを飛ばして軌道上に幾つか打ち込むW型。その緋色の一つがようやく目的の物を巻き掴んだ。


 膂力の拮抗で、風が止まる。


〈グゥルルルルルルル………ッ!〉


 唸り混じりの呼吸音。

 僅かに前傾姿勢、立派で分厚い毛並みを持った、二足歩行の大狼おおおおかみ

 金に輝く変形対応・伸縮性アーマーを纏った、赤金の獣。

 牙を見せ狐頭のW型と睨み合うそいつに、


「サトジ!大丈夫そ?話せる?」


 六本木が聞いた。


〈当たり前だ馬鹿()!〉


 狼は答えた。


〈オレサマがやると言ったんだ!やれるに決まっている!〉

「たし蟹!」

「関係性…!マブー…!」

「ちょい!シュロっち!気をしっかり!今はNOトリップで!」

 

 彼はその口に緋色の繊維を咥え、噛み千切る。

 

〈波遊びシャチィ!オレサマがこっちを引き付ける!〉


 A型の黒髪が殺到!

 空からF型の急襲!

 だが空を削り取るだけ!

 そこにはもう居ない!


〈押し返せ!〉

〈全く無茶なヤツ!〉


 背後に無視できぬ脅威が現れ、W型の指揮からも一時見放されたC型の列。その一体を引き裂きながら、辺泥が喊声を上げる!


〈いいわヨ!ここまでされて日和るなんて、SSS(トリプル・エス)の名が廃るわ!やるワよおおお!〉

「私より目立たないで頂戴!」


 その横でトロワがC型2体の首を落とす!

 テニスンがV型に障壁を突き立てる!

 A型の髪が狼を捕らえようと躍起になる!

 W型は統率を取り直そうと味方に糸を打ち込み、


 それを守っていたC型が横から破られる!

 L型2体が符を出す前に裂き殺される!

 W型は符を構えてそちらを見る。

 狼がそこまで来ている。

 その両手首から長い牙が生え、その刃の上で細かい牙が回転している。

 V型が起き上がった直後に鋭角三角形に貫かれ果てた。

 前に居たC型はこちらに来ようとして、その勢いで自らを縛っていた伸びる剣先に食い込み解体された。

 扁平な状態へと変じて逃げようとしたW型は、

 狼の手首から伸びる二つの湾曲に横から挟まれていた。

 



 ギィィィイイイイ!ガリガリガリガリ!!


 


 また一本を削り斬って、

 魔力爆発。

 自分で自分を殴って位置を調整しながら、敵が作った網を潜り抜ける。

 俺の魔力は相手に斬られ、相手の体は俺の回転刃に斬られる。

 互いにローカルを積み上げ、より一撃の致死性を高め合って、

 シールドに喰わせるコアはもう底を突いた。

 制服もボディースーツもあちこち裂けて、さっき右耳が半分欠けた。

 だが敵もどんどん小さくなっている。

 逃げようと藻掻く度に露呈する全体像が、短さを増しているのは明らかだ。

 右から十字に2本、左から横3本、上からも前からも、背後からも空気を割りながら迫る。

 爆破。

 爆破爆破。

 くるくると景色が回る。

 Z型本体を目指して突き進む。

 外から他の誰かが見ていれば、素人が操ったせいで糸がこんがらがった人形のように、不気味で危なっかしく思った事だろう。

 右腿を幾らか剥がれながらベリーロールのように身をよじって回避。

 更に前から来た避けきれない縦1本をナイフで挟んで、


 バキリ。

 

 壊れた。

 刃が持たなかった。

 俺を開きにする線が来る。

 咄嗟に左手を、魔力で出来たそれを前へ。

 人差し指と中指を立てる。

 じゃんけんで言うチョキの形だ。

 指の側面、骨の形を取っているそこに沿って、

 魔力回転刃を発動。

 糸を挟む。

 指の間を糸鋸で磨かれてるみたいだった。

 削られた所への魔力供給を集中させ破壊と修復を反復させ、

 切れた。

 魔力爆破で退かす。

 今ので右肩から胸までに斬撃を入れられ、

 それを止めようとした右手のお兄さんとお姉さんが死別するも、

 今そっちは必要なくなったばかりだ。

 Z型は逃げている、事まで探知して知っている。

 回り込む。

 糸状態になっているそれを左手で挟み切る。

 他の糸での攻撃が代わりに入る。

 右の脇腹に深々と切れ込みを入れられる。

 まだ逃げる。

 追う。

 衣の糸を使った攻撃で肉を削ぎ落とされる。

 挟み斬る。

 逃げる。

 追う。

 根競こんくらべ。



 Z型は、これまで見つかるという経験が、あまり無かったのかもしれない。

 触れ合う事で位置を確認し合う、みたいな事を想定していたのかも。

 俺がやってるのも厳密に言えばそれだ。

 ただ、相手からは見えづらい、透明な魔力でやっているに過ぎない。

 相手から自分は見つかって、自分は相手を見つけられない。

 そういう事が、これまで無かったのだろうと思う。


 

 俺が左脹脛(ふくらはぎ)を失い、魔力の制御や力の入れ方をミスって転んだ時、とにかくそれを逃すまいとミイラ姿に戻ってまで高速連続斬撃を仕掛けたのも、そういう不安から来る物だったのかもしれない。

 俺は何本か切断して、転がりながら屋根上から落ちて逃れる。

 Z型は追い掛けようと下を覗き込み、


 その首に糸が食い込んだ。


「きれてないんだな、これが…!」

 

 まだ自分の衣に繋がっていたそれの端っこが俺に掴まれた時、単に絡まっただけかと気にしなかった。俺の左腕がそれによって刻まれる事を、得だとすら思った。

 

 だが俺は、攻撃しているチョキ部分だけに、その糸を絡めて掴んでいた。

 糸と指は互いに削り合ってる最中で、つまり俺の左腕は切られていない。

 そして今、俺の体重で張られた強靭な繊維によって、本体の糸束を丸ごと掴まれた。

 そしてその細い線上には当然、


「かいてんじん!」


 指を使って抓もうと、糸に戻って逃げようと、


 もう遅い。


「よし!()()()()!いとも、うらみも!」


 


 首が落とされる。



 

 それを見て上方に張っていた糸の一本に跳び乗って逃げる狐頭。

 それを追って糸を見切りながら足場に使い跳び回る狼。

 符の形をした誘導弾で牽制しつつ線から線へ。

 空中立体戦闘。

 そしてまたひらりと足を乗せた一本。

 

 が、くたりと緩み落ちた。

 糸の先を見る。そこは端となっている。

 鋭角三角形の連なりに、橙熱とうねつする丸い歯列、四角い耳に挟まれ運ばれて来た、コピー&ペースト製のわにあご。それらが咬み切ってしまったから。


 糸を通した符の針を地面に撃ち込み、それを引いて地上に向かおうとする。

 けれどもその前に牙に挟まれる。回る犬歯を持つ狼に、頭を噛み削り砕かれる。


 3体居たW型が、全員活動不能になった。

 赤金の風がまた衣服を煽り、

 地から跳び壁を蹴り無尽に吹き荒れる。


 “スピード”!

 このダンジョンにおいて、モンスター達が最も恐れるのは、頭幾つも飛び抜けた敏捷性だった!


 空気抵抗に煽られる布と紙である彼らは、重量を利用して大気を抜ける、本物の最速に付いて行く事が出来ず、それが伴う破壊や切断に弱い。

 筋力と、野性的に鋭敏な感覚と、何らかの弾力を持ち、走れば走る程に速さが青天井に突き抜けるその獣は、彼らの天敵と言って良かった。


 だがそれにこの場で対処できる武器が二つ。

 W型の符と、A型の髪。

 その内一つ、W型は死んだ。

 A型が狼を追うしかなくなった。

 鋼鉄をも通す毛筋が振り乱され、嵐が荒れ狂うが如く建築を一掃する。

 方々に張り巡らせ、蜘蛛の巣のように受け止める態勢を作り、

 

 その時本体に向けて石像が降って来た。

 

 涙に顔を歪め、老人のような皺を作る赤子の姿。白い魔法陣を通って大きさを増したそれが頭から取り付いて、まるで重さを増すように下へ下へと向かう。髪は慌ててそれを引き剝がそうとして戻る。

 その肢体の、下半分の防御が薄れた。

 波がそこに打ち寄せる。

 シャチが飛び出し取り付く!


〈トゥイェエエエエエエエエ!!〉


 額から高圧の潮吹き!

 超音波により高周振動する水分子!

 そこには液体人間の雲日根も含まれる!


〈〈S(スーパー)S(ソニック)S(スカープル)!!!〉〉


 二つの声を重ねてからの縦切り上げ!

 繭を割り虫の胸を割り複眼を持つ頭部を割る!

 内部に入り込んだ雲日根が水圧の方向を操作し内側を縦横斜めに切り刻む!


〈キィィィィィィィィィィィィィ!!〉


 絹を裂くような悲鳴!

 斬断され久寿玉くすだまのようにパカリと開く全身!

 あさられ飛び散りくうを飾る布と糸切れ!


 艶やかな黒髪は水分を失ったようにパサパサと朽ちていき、


 残ったのは、親を失った哀れな逸れ者達だけだった。

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