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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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317.帰るまでが遠征です

 結局、D型に攻撃したのはほとんど、砲塔係の3人と、俺達斥候班くらいだ。

 他の人達は、最後らへんで多腕と打ち合ったくらい。

 ローカルがあるから、少ない手数で倒したい。だけどD型だから、とてもしぶとい。

 だったら、D型を何度も殴る係と、D型の攻撃を受け止める係を、別々にすればいい。

 敵側の火力は、出来るだけ楽な状態で対峙するに限るのだ。


 というわけで、誰がD型に攻撃して良いのか、誰がD型から攻撃されて良いのか、しっかりとした分業が大事だったんですけども………


「あなたねえ…!」

「パイセンさあ…!」

「何かしら?無駄にチマチマと石を投げるより、よっぽど早くて確実に終わったわよ?」

「確かに速い方が被害は抑えられるけども…!」

「素直に喜べないじゃん…!」


 これをどう注意したものか、苦虫を嚙みしめてしまう纏め役二人。

 ま、まあ今回は結果オーライと言う事でいいんじゃん……?


「マジ相談無しで突出は二度とやんなー?寿命縮んだから。これガチ」

「詠訵さんも乗らないでよネ!」

「ご、ごめんなさい。いつもの事過ぎて慣れてたので、咄嗟に身体がその……」

 

 動いちゃったんだね。

 分かるよその気持ち。

 俺も何の違和感も無くあの流れ受け入れてて、トロワ先輩の刃がD型に切れ込みを入れたくらいの所でやっと、「あれ、これってマズくない?」って思い始めたもん。


 取り敢えず、D型のコアも回収出来たし、後はあの建物に入って、第8層に足を踏み入れて終了だから、詰めるのはそれから後にしません?一応ここ7層なんで、油断出来ませんし。

 という空気もあったので、二人もそこらへんで切り上げて、全員の再配置をしようと「全員集合の後に退避!ラポルトまで下がれ!」

 

 叫んだのは八志先生だった。

 動いたのは辺泥先輩とニークト先輩。

 他の皆も順々に走り出しK(キング)である六本木さんの元に集結しようとする。

 俺も数拍遅れて駆け出して、


「があ゛っ!?イッタァっ!?」


 壁にぶつかった。


「え?」


 壁。

 いや、ガラス窓、か?

 空中に亀裂が入る。


「どうして、こんな所に…?」


 そうじゃない。原因究明は後。ただでさえ俺が孤立するのは良くなくて、そしてここはダンジョンの中。邪魔な物があるなら破壊してでもみんなと合流しなければならない。


 俺は反応装甲を纏った拳で思いっきりそれをぶん殴り、


 割れた。


 ()()()()()()()()


「あ、れ……?」


 何も無い黒。

 黒?

 そうだ。さっきまで濁った色をしていた空が、見当たらない。

 周囲の低い壁や道や変な突起だけがボウっと浮かび上がり、先にはみんなの姿やモンスターは勿論、音も光も臭いもゼロで。

 

——なんだ?


 空気がガラリと変わった。

 酷くシンプルに、何処か心細く。


 何も居ない。

 独りだ。

 ここには何も無い。

 

 そんな言葉ばかり泡のように。


 俺はまず、どっちがラポルトに続いていた方向か、思い出そうとした。

 簡単だ。さっきみんなが居た方向だ。

 だけど、

 それはどっちだったっけ?

 

——あ、あれ?


「あれ……!?」


 分からない。

 分からなくなった。

 さっき俺はどっちを見ていた?

 俺は四ツ辻の真ん中に立っていた。

 周囲を見渡し、塗り埋められた道の先を見通そうとして、

 で、どれも同じ形をしてて、

 特徴が無くて、


 あの突起、棒?紫っぽい旗?みたいなのも、四方に立っている。

 升目を形成する家だか倉庫だかよく分からない建物も、全部同じ見た目だ。

 ちょっと、瞬間的に頭が真っ白になって、

 左右と後ろを確認して、どちらかの足を後ろに一歩下げて、


             た  

           っ   っ

         失   あ   た 

       見     れ     そ

     を    どっち?はここ    れ

       覚     で     だ

         感   何   け

           向   で

             方

          

「ひ」


 一つ一つ。

 一つ一つ確認しよう。

 観察して、思い出して、探すんだ。


 俺はみんなと一緒に居た。

 真っ直ぐ前には暗闇と突起物。

 横にミヨちゃんが、前にテニスン先輩だって。

 右に行った先にもぶつかりそうな暗がりと棒。

 予測能力を持つ八志先生が警告した。集合しろって言ったんだ。

 後ろにも終わりがあると思わせてくれない景色。

 何かが起こるって、大変な事になるって分かったんだ。

 横でも黒の手前に紫色が垂れ下がっている。

 そして走った先には誰も居なかった。


 間違い探しでもするように、俺の目は特徴的な突起へと寄って行く。


 細い棒のように見えたそれには、深紫こきむらさきの布が掛かっていた。

 棒を更によく見ると、茶色っぽく見えた表面は、汚れた白帯でぐるぐる巻きになっていると分かった。

 壁から松明のように立てかけられているのかと思って支点に注意が移る。

 崩れかけた土の側面をガッチリ掴む木の根、そこから伸びる幹が二本。それを思わせる木製の飾りが紫の中へと入って、棒切れを支えているようだった。

 視線はそれを追って、這うように再び上へ。

 布から外へ出た先端、突起部に穴が開いていた。

 後ろまで貫通しているかは分からない。その中も墨を流し込んだみたいに暗いから。

 何故か、酷く痛ましい物を見た気分になった。

 その時そう感じたから俺は、それを見て人を前にしたような態度になっている、そんな自分に気が付いた。

 

                                うらめし。


 耳元で聞くようなノイズも混じらない淡々とした声が言った。

 少し低めの、普通の男の人のものに聞こえた。

 俺は右を見た。突起が少し近くなっていた。

 俺は反対側を見た。棒が壁を離し地に伸びて、そこで初めてそれが角の向こうまで続いているのだと気付いた。

 俺は背後を振り返る。深紫の衣が、瘦せぎすの何かに引っ掛かり立っていた。

 俺はまた前を見た。                   うらめし。

 家が音を上げた。

 細っこい何かが万力の如き力で壁を握り込んでいるのだと、

 ようやく分かった。


 そう、ようやくだ。


「な……お、まえ……!?」


 「お前」。

 相手。

 つまりそれは何者か意思や欲求を持つ者で、

 ただの置物などではなくて、


 覗いていた。

 角から身を伸ばし、

 ずぅぅぅっと、

 じぃぃぃっと。


 だけど何も感じない。

 視覚以外の全てが、そいつが敵である事を否定している…!


「なん、だ、って……?」


 俺はあろうことか、

 ここが何処であるのかも忘れ、

 それが何かを知ろうとしていた。

 自分の中の不協和を解消しようと袋小路に陥った。

 攻撃して、それが報復に繋がったら?

 いや、それ以上に、こちらのアプローチがそいつをすり抜けて、何も居ない事がより裏付けられてしまったら?

 不安になった。

 一つ一つ。

 確認しようと思った。

 俺はあの時、先生に言われてすぐ、数秒待たずに走った。

 右を見て、左を見て、

 他のみんなはちゃんと集まれていたから問題無い筈で、うらめし。


 振り向いたすぐ前に深紫が垂れていた。

 うらめし。

 よろよろと後ろへ倒れそうになる体を支えるように、鈍い足取りで背中側へずれながら癖で左腕を前に出した。

 



 肘から先が消えた。

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