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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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312.はい全員整列!作戦会議です!

「遅いわヨ!アータ達!」

「知らねー!あんたらが勝手にちんたらしてただけだしぃ!」


 ってなわけで、6層まで退避してたら、八志教室勢力全部で10人も来ました。


「と言うよりあなた達、あっさり負け過ぎじゃないかしら?あれだけ大きくしたり顔しながら突っ走ったと言うのに、何も勝算が無かったわけ?」

「うるさいわネ!外に顔を出して来るなんて事、去年は無かったのヨ!」

「苦しい言い訳だ。SSS(トリプル・エス)が聞いて呆れるな」

「言っとくけどマジよ?マジであれ、なんか強化されてるわヨ?」

「えぇー……?」


 モンスターの強化って、例が無いわけでもないけど、でもかなり珍しい部類の現象だ。嫌だなあ、なんで今年に限って………ちょっと、皆さんその眼はなんです?


「アータ、本当にツイてないのネ?」

「ここまで来ると何も言えんな」

「異議あり!これは流石に俺のせいじゃないですって!」

「そうですよ!ススム君は関係ないです!」

「微妙に否定しづらいんだよねぃ」

「原因とかじゃあないんだろうけど、引き寄せられてる所はあるわよねん」

「諦めなさい。あなたは間違いなく厄介事に愛されているわ」

「気まずいな……?分かるぞ……?」


 両陣営合わせて敵だらけなんだけどぉ!?明確な味方がミヨちゃんしかいない!あと和邇さんは何を理解したんですか!?全然事実無根ですからね!?

(((流石ススムくん。素晴らしい天運です。常に事態を面白い方向に転がしてくれます)))

 シャラップ!何か本当に俺のせいな気がしてくるだろ!そういう思考は出来る限りやめるって決めたんだよ!


「さて、どうする辺泥・リム・旭?」

「……『どう』って?何が言いたいのヨ?」

「お前の予定では、そちらの手勢で勝てる算段だったのだろうが……」


 ま、一から計算し直しだよね。


「あれだけの大きさ。単純に考えて、それだけ生命力を増しているということだ。L型に全力で治療されるあのデカブツに、何発当てれば倒せる?ローカルでどれだけ強化される?」

「頭痛いワー…!安全安心分業プランが台無しヨぉ!ダメージは足りてると思うけど、防御が持たないわネ…!」

「地上に戻って、追加戦力を引っ張って来るか?お前達の教室は全部で20人強。3年を除いて、それでもあと数名は居た筈だ」

「………いいえ、それは出来ない相談ネ。あの子達がこの深さに挑むのは、流石に足りなさ過ぎるワ。いい経験云々以前に戦いに参加できないし、最悪致命か後遺症を貰うワネ。百害あって一利ナシ!だから、先生とも話し合って、このメンバーなのヨ?」


 他の数人に関しては、最初の数日で一緒にそこそこ潜った後は、もう一つのパーティーとして切り分けて、五十妹の人間に見て貰いながら、浅い層をゆっくり攻略させてるらしい。

 安全も潜行実績も全員の強化も、あれもこれもを取れる体制。

 非の打ち所がない運用だ。D型が急成長していなければ、だけど。


「それでは、このまま帰って、ここで終わりにするか?」

「そうするしかないワね……。妙案も特に思い付かないし、頭を冷やしてじっくり考える事にするワ」

「とは言ってもぉ、時間切れまで色々やってみるわよぉ?あれを倒して8層到達になるっていう、八志教室の伝統を絶やしたくないものぉ」

「そんなのあるんですか?」


 横から入って来た雲日根先輩に訊ねると、


「そうなのぉ」

「うぉんッ!?」


 ヘッドセット同士を擦り合わせるように頭を乗っけて、ほっぺをプニプニ揉み込み始めた。


「毎年欠かさず成して来た恒例行事よぉ。私達の代で途絶えさせるなんて、めっ、でしょう?先生の能力に疑いを抱かせてしまうものぉ」

「あの……ひょっとだふぇ、近……!」

「ちょっと!やめてください!ススム君が困ってるじゃないですか!」

「あらぁ、ごめんなさぁい?」

「もう!ススム君も!ああいうのはちゃんと『NO!』って言わなきゃダメだよ!分かった!?」

「ひやっ!にゃんでミヨふぁんも揉んでりゅのっ!?」

「返事!」

「ふぁい!」


 と、俺の顔が好き放題玩具にされている間にも、本筋は更に進んでいる。

 

「お前達。そういった能書きに拘り過ぎるなと、私はそう教えた筈だが?」


 諫めたのは、白髪を纏めゴーグル越しの目つきを研ぎ澄ませ、黒いケープを羽織っている初老の女性。杖を突いていても背は全く曲がっておらず、その立ち姿を見ているだけで首筋に刃の冷たさを感じてしまう。

 彼らの担当教師で高等部の長でもある八志先生だ。


「記録としては喜ばしい事だ。だが義務ではない。誇りに縛られ本質を見失うな。お前達の義務は、いつだって生きて帰る事だ」

「よっ!ヤゴコロセンセイ!良い事言ったぜ!教育者の鑑!」

「それと、この小僧の口から出る雑音は8割方聞き流せ」

「おいおいそりゃねえぜ!これでも俺も教師だぜ!?」

 

 茶化したシャン先生が普通に釘を刺されてしまった。あんな小学生みたいな合いの手を入れていたら、そりゃそうなりますよ。


「そういうわけだから、ここでお別れネ?アータらも頑張んなさい?」

「教えてやろうか?」


 考えを練る為に地上に戻ろうとした辺泥先輩達の中に、ニークト先輩がいきなり言葉を放り込む。


「………」

「成長したD型に勝利する方法だ。簡単な解決策がある」

「………本気で言ってるわけ?」

「D型が戦闘状態に入った時点で、第7層の何処に居ても奴と相対する形になる。7層を同時に攻略するパーティー間において、D型討伐レースは成立しない」

「………どちらにしろ、ノーコンテスト、ってことネ?」

「え?……え?」


 なんか分かんないけど、勝手に了解し合ってない?

 ど、どゆこと?


「馬鹿ね。あの高慢男はこう言ってるのよ?」


 教えてくれたのはトロワ先輩だった。


「うちと八志教室、合同作戦でD型を倒しましょう、ってこと」


「ああ!……あ?あぅううん?」


 それはまた結構………結構思い切りましたね?


「それともなんだ?『“唯一の”D型討伐班になる』、そこまでが伝統なのか?」

「いいえ……、一二を争う上位で、且つゴール地点であるD型撃破まで進む。それを以て伝統と呼んでるワ」

「ならば、理は通っている」

「そうね。イヤミィな事にネ」


 確かに、プロの潜行者で構成された部隊を退けた、深級D型。それと戦うのに、しかも相手は前例から逸脱した強さになっているのに、戦力が学生7人は心もとない。もっとはっきり言えば、危険だ。さっきあいつの魔力の圧を近めに感じて、余計に実感した。強くなる為に挑戦したいが、深入りすると結構な確率で死人が出そうだと、そう思えてならない。


 辺泥先輩達が合流してくれるなら、人数は倍以上、実力で言えば百人力、大船に乗った気になって存分にチャレンジできる。まあ大船はさっきぶっ壊されてたんだけども。


 そして反対に向こうからすれば、ここまで2番目に早く着いているというこの結果が、俺達の能力の証明になる。さっき言ってた「付いて来れない」みたいな心配は、しなくて済むって事だ。


「こっちは特に、10人以上の大人数潜行の経験が薄くてな。良い機会だ。お前達に付き合ってやる」

「いつでもどこでも目線が高いヤツだわねー。やんなっちゃうワ」

「まあ、ありよりのありではある」

「因みに、これって遠征のルールには違反しないんですか?」


 一応先生方にも伺いを立てておくと、


「全く問題ねえぜ。その場で互いの利益をトレードして、即席でパーティーを作る、それか複数のパーティーで連合を組む。ディーパーの世界じゃ日常茶飯事、っつーかこの国の職業ディーパーはそういうパターンの方が主だ。大いに結構」

「そういった折衝を学ばせるのもまた、私達の一つの在り方だ。何を否む事があろうか」


 と、前面許諾の姿勢を見せてくれた。

 じゃあ、あとは………


「………どうしたのかしら?今の私を凝視するくらいだったら、剣を振っている時の私に見惚れなさい?」

「いや、こういうのトロワ先輩が嫌がりそうだなって……」

「あら、どうして?」

「『私がいれば大丈夫!これ以上戦力は必要ない!それとも私を疑ってる?』みたいな事言ったりしません?」

「私へのイメージがよぉっく分かったわ。無限素振りコースと底無し稽古コース、どちらが良いかしら?」

「大変申し訳なく思っておりますので有限な物をお願いします」

「何人居ようと、一番活躍するのは私よ!そんな事も分からないなんて、あなたこの数ヶ月何を見て来たわけ?」


 はい、すいません。

 俺の想像の斜め上を行っていました。

 俺如きがトロワ先輩を量ってしまい誠に失礼いたしました。

 

「こちらは反対が無さそうだが、そっちはどうだ?イルカ擬き」

「………まずは帰るワね」


 辺泥先輩は全員にハンドサインを送り、自らも殿しんがりの位置に列して撤退を開始。


「安全な所で心を鎮めながらじっくり考える。それまではオアズケ」

「良いだろう。色好いろよい返事を期待している」


 そうして、その日の潜行はお開きとなった。







 同日の夕食時、辺泥先輩がまた一人でこっちの食卓に乗り込んで来て、ニークト先輩と対するように胡坐の形で畳に座った。


「……討伐者の名義は、『特別指導クラスの協力を得た八志教室』。これで良いかしら?」

「お前達の手勢が、許し難いほど使えない案山子でなければ、異論は無いな。互いの規模的にも頷ける表現だ」

「はいはい……」

 

 辺泥先輩が肘を立てた状態で右手を差し出し、ニークト先輩が叩きつけるように握る。

 まるで腕相撲でもしているかのような構図と、力の入りよう。

 かと思えば同時に握力を緩めてからの、ハイタッチ。

 彼はそこで立ち、踵を返した。


 多分、「交渉成立」って事だ。

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