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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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310.許せないのは、きっと本人自身だ

「傭兵部隊は総勢で10名。護衛や伝令、ダンジョン攻略の助太刀等を、細々とやっているようなグループだった。メンバーは主にランク5~7。リーダーのみランク8。ただこれは加点となる社会貢献をほとんど無しでの評価だ。戦闘能力に限った話で言えば、グランドマスターに認定されていてもおかしくはない人間も、一部混ざっていた。


 対してルカイオス家が潜行用人員として寄越したのは、周囲に翻弄されるだけで、威張り散らす事でしか自分を強く見せられない世間知らずなガキ一人と、それが個人的に雇い入れていた護衛兼使用人一人。計2名。

 

 今我々が攻略している“御怨恩オン・ノン・アイオン”は、常日頃からコアの獲得ついでに、五十妹と政十の人達が適度にモンスターを間引いている。特に深級遠征時には、万が一にも死人を出さない為、グランドマスター複数がパーティーを組んで、深階層に至るまで常時巡回、厄介過ぎる集団は戦力を削るといった、安全策が取られている。

 

 それに対し、12人が挑んだダンジョンは、民間開放されているというだけの深級だ。勿論フラッグの水準に達しそうになるか、或いは短期間に膨大な電力を調達する必要がある時などは、管理企業が潜行課や防衛隊と連携して、大規模な掃討潜行作戦を行う場合がある。

 だがそうでない時は、経験の浅い学生が5層以深に潜れるような、そんな甘い場所ではない。どんなに少なく見積もっても、ランク6以上が20人は必要になる。そして数だけ揃えても、グランドマスター以上が居ないなら、まず踏破は不可能だ。


 質も、量も、全てがプロに死を思わせる高レベル。別型のモンスター同士が組んだ際の相乗効果が、更に戦闘を多彩に、複雑に、致命的にする。


 ルカイオス家はそこを一日貸切った。出来損ないが潜る直前も直後も、誰も入らないようにしたのだ。助けや事前の露払いは、偶然であっても期待できなかった。

 内部の情報はD型が居る地点まで、地形含めて完全に把握されており、それら全てが一行に提供された。

 名目上はガキがK(キング)で、だから成功率を上げる為に、白痴でも分かる攻略プランが組まれたんだ。撮影係は使用人が担い、地上に残ったルカイオス家の家臣団に、リアルタイムで映像を送った。


 カメラはD型が倒れガキに止めを刺される所を、ルカイオス家は出来損ないでも常人には届かぬ荒業を遂げる事を、克明に記録する手筈だった。

 プロパガンダ映像作品は、完成一歩手前まで行った。

 こう言うのもなんだが、それなりに絵になっていたと思う。


 だが、

 だが………、


 ………………


 D型は、下級モンスター達を従えている事が多い。それは分かっていた。その場に潜伏させ、体内に匿い、兵数を確保した上で待っている。

 それは分かった上で……いいや、分かっていなかったんだ。

 難攻不落の装甲と生命力を持ち、高火力な攻撃能力を持ち、同士討ちを避ける知能も持ち、素早く相手を攻撃する手札も備えている。それ程の相手が、修復能力を持った手勢を庇いながら、組織的な攻め手を見せる、その脅威が。

 

 それでも彼らは、傭兵達は、良い腕をしていた。

 歯応えが想定よりほんの少し硬い、その程度なら対処可能だった。


 しかし奴らの狡賢さは、その対応力を上回った。

 穴を見つけたんだ。


 奴らはD型を最優先、次点でL型を殺させないという、それだけの優先順位を決めておく脳があった。必然的に、敵側にもそういった序列があるのではと、その発想が生じる余地があった。

 一つ違うのは、モンスターは自分達の中で最強、最優のユニットだから、D型やL型を守っていたのに対して、ディーパーの側は雇い主だから、一番死にそうだったから、そいつを守っていたという事だ。


 攻撃対象が、一箇所に絞られた。

 彼らは自らの仕事に真摯で、故に命懸けでそいつを延命した。

 そのちっぽけな一人に集中砲火するだけで、勝手に射線上に強敵が割って入り、バタバタと倒れていくのだから、奴らからしたら面白かっただろう。

 

 そこでガキが自ら囮を買って出て、すぐに新たな作戦に移行出来れば、まだ良かったかもしれない。

 だがそいつは、あろうことか、D型に睨まれて怯えるだけだった。

 舌の一枚、動かせなくなった。

 愚かで臆病、救えない話だ。

 倒すつもりでいた相手から、殺気をぶつけられたというだけで、ガタガタ震えて使い物にならなくなった。単なるお荷物、それも指揮権を持って、価値だけは高くて、しかし一言も物言わぬ重荷。


 隊は全滅だった。

 全員が死んだ。高ランクのディーパー10人全員が。

 天秤が向こうに傾いた後は、数十秒、あっと言う間だ。

 従者が時間を稼ごうとして、孤軍奮闘し命を散らしたその間、ガキは小便を漏らしながら、その場にへたり込んでいた。助ける為に戦う事も、仲間の死を無駄にしない為に逃げる事も、しなかった。出来なかった。


 敗因は、そいつだ。他に無い。


 死ぬのだと思った。だが、そうはならなかった。

 兄が居た。腹違いの兄が、ガキを死なせない為にやって来ていた。

 

 出来損ないの状態で任務を達成しても、或いは極限状態の末に深化し、ルカイオス家の秘奥に目覚めても、どちらでも成功だった。だから、自分で勝つ以外に生き残れないと、ガキがそう理解するまで、キワキワまで待っていた。

 だが無様に死なれると、それこそが家名にとって多大なる迷惑だ。それを許すわけにはいかず、ガキに変化の兆しが見られない事で仕方なく、直属の部隊と共に姿を現し、D型達を殲滅した。

 

 自分を見下し、愚弄し続けて来たその男に、兄を始めとする家の者達の鼻面に、『どうだ、やれるぞ』と証明を突き付けてやるつもりで、ガキはこの地の土を踏んだ。

 そして、負けた。

 モンスターにも、兄にも、家にも、


 自分にも。


 それから未だに、ルカイオス家はその末弟の処遇を決めかねている。

 何かしらの成功をさせなければならず、しかしその能力が無い。

 魔学研究・ディーパー育成で名が知られ、そいつが生まれた場所であるこの国で、最も優れているとされる養成機関。そのガキの国籍を丹本に移し直し、権力と人脈をフルに活用して、その名簿の中に捩じ込んだのも、劇的な変化を期待しての事だった。

 それが叶わずとも、『明胤学園卒』という経歴があれば、それなりに非凡扱いはされる。


 当人を丹本国内であちこち転々とさせながら、裏で何度も交渉を進め、八百長そのものな形だけの試験を経て、例外的に中等部2年から編入させる事に成功した。


 全てにおいて、そいつが足りていなかったが故に、本家が乗り出してそのような無茶を通すしか………これは、本題ではなかったな。今はどうでも良い事だった」



 先輩は窓の外に顔だけのぞませ、星の光で満たされた空を目に映す。



「D型を侮るな、という話がしたかったんだが、余計な事まで喋ってしまったな。乗研の奴に影響されたか」

 

 ロビーから入ってすぐ、お茶とかコーヒーとかを淹れられるようになっている、カフェテリアスペース。窓際のテーブルに3人で座って、静かに話を聞いていた。

 

「知性を持つモンスターとして知られるのは、W型以上だろう。しかしD型もまた、それに類する物を持つ。自らの身体の一部のように群れを操り、耐久頼みの打ち合い一辺倒ではない、敵の動きへの対応までして見せる」


 単純な戦闘用AIを積んだ、大型兵器。

 D型を表現するならそんな感じだと、先輩は言う。

 

「………先輩、あの、」


 気になった事がある。


「どうして俺に、俺と八守君だけにそんな話を……?」


 パーティー内で共有するわけでもなく、

 カンナの事を知る3人の中で打ち明けるでもなく。


「オレサマが弱気になっているのを、他者に見せるのは業腹だ。特に、折角乗せた六本木に余計な重圧を掛けるのは、面倒臭い事になりそうで望ましくない」

「俺は、良いんですか?」

「D型について警戒するべきだというのも、無視出来ない考えだった。だから、オレサマから見てパーティー内で最大戦力であるお前にのみ、改めて釘を刺しておく事にした。本当だったらお前にも話したくはなかった」


 先輩が俺を頼りにしてくれたのは嬉しい。

 それは喜びたい所なんだけど、全然心が浮き立ってくれない。

 それに、


「じゃあ……」


 俺は隣に座る八守君を窺う。

 彼は目一杯の涙を溜め込みながら、唇を噛んで机の上を凝視している。


「ついでだ」


 先輩はそれに気付いてないわけでもないだろうに、心配そうでもなく淡々と答える。


「どうせいつか、聞かせてやろうと思っていた。仕えている相手がどれほどの人物か、しっかり教えてやろうと。D型到達直前のタイミングで、この3人があの場に集まったのを見て、丁度良いと思っただけだ」


 先輩は空になったティーカップを置いて、席を立つ。


「頼んだぞジェットチビ。無論オレサマは手下共を一人でも、モンスターにくれてやるつもりはない。が、オレサマ一人では全てを守り切れない。お前が居れば、奴等に滅多な事は起こらないだろう」


 そう言って部屋に戻ろうとする。


「あの!」


 俺は慌てて呼び止めた。


「先輩が、判断ミスとか、怖くなったとか、そういうのがあったとしても、」


 そんなの、


「そんなの先輩のせいじゃないですよ!7歳にそんな事やらせる方が悪いんです!そんな馬鹿な計画なんて——」


()()


 たった3音で、時が止まったように感じた。


「………え?」

「俺が言ったんだ。威光につけた傷を、修復するチャンスをくれと。見返してやりたくて、強硬に主張した。深級に潜ると言い始めたのも、俺からだ」

「あ……の…それは…」


「あの惨劇は、俺が原因なんだ。どうしようもなく」

 

 そう言い残して、俺達を置いて去ってしまった。


 八守君は小刻みに震えながら、だけどそれ以上動けないようだったし、


 俺ももう、何も言えなかった。

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2話っておニク先輩の話ことだったんか
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