307.肌色女子会………なんかこの字面ヤラシイな………
「えぇーーーっ!?二人っきりで会ってたの!?夜に!?」
「しぃぃぃぃぃ!声がデカいって……!」
「あ、ごめぇん……」
「カワヨイてへぺろした所で許されないかんなー?」
幸い現在の露天風呂は丁度、トクシの女子陣による実質的な貸し切り状態であった為、詠訵の驚きはそれ以上拡散されずに済んだ。
「で?で?何の話してたの?」
「言ってみぃ?ロクっちゃあん?ほら!吐けば楽になるぜ~?」
「ちょ、よぉるぅなぁ~!」
しなやかな褐色を挟み込んで来る、熱で赤みが差した白。
ただでさえホカホカな湯けむりの中であるのに、一枚も隔てず暑苦しい体温を押し付けて、のぼせ上りそうな話を追及して来る二人に、汗のような湯滴を肌に滑らせながら、六本木はジタバタと抵抗する。
「ねー!ねー!教えてよー!」
「だーーーッ!だから!今日のあのフォーメーションの事!それだけ!」
「でもなんでニクっち先輩はチミにだけ相談したのかねぃ?おかしいよね~?パーティー全体に関わる話だったのにねぃ?」
「それはあーしが拒否るっぽいって思ってただけっしょ!ポジションの振り幅が一番えげちいのあーしだし、予め話しとくのはおかしくないってゆーか」
「で?それじゃあロクっちゃんは何で承諾したのかねぃ?むふふふふふふふ」
「前は嫌がってたよね?変だなあって思ってたんだけど、まさか……キャー!」
「違うから!」
「おやおやあ?ヨミっちゃんはまだ何も言ってませんぞぉ?」
「そうだけど!でも違うから!」
今朝から六本木の態度が、特にニークトへのそれがおかしい事、そして大胆なローテーション変更がすんなり決まった事。
もんやりと立ち込める湯気の中で気を抜いて伸びをしていたら、それらに違和感を持った二人からチョコチョコと質問攻めにされ、ついつい口を滑らせてしまい、そして今こうなっている。
心の何処かで人に聞いて欲しいという衝動があったのも自覚している六本木は、自分の浅慮や浮かれ具合を恨めしく思ってしまった。
「まったく……あの男がねぇ……。そういう浮いた話からは、最も縁遠い存在に思えたのだけれど」
少し離れた所で同じ浴槽に浸かりながら、涼しい顔で空を見上げているトロワは、「ヤレヤレそれで燥ぐなんてお子ちゃまね」みたいな態度を装っているが、内容をしっかり聴き取って会話にも参加している。部外者のフリをしていても、間違いなく冷やかしている一員だった。
「でも昨日、顔を真っ赤にしながら戻って来たって、聞いたけどなあ…?」
「は!?誰に!?」
「同室の人達」
「あ、あいつら~……!ゆ、ゆうてあいつにそーゆー感情とかないから!急に夜に呼び出しとかされたから、驚いて変な顔面になっただけだかんね!」
「む!これは駄目ですねぃ!いけません!『良い女』のかほりがしますな~」
「え、キモ、なに?」
「『噓つき』、って言いたいんだよ~」
「正直になれーえいえいえいえい」
「やーめーれー!こしょばいぃー!」
友人グループによるまさかの裏切りによって、追撃用の弾薬を得た二人に際まで追い詰められ、むぎゅむぎゅと押し潰されそうになる六本木。トロワはのびのびと足を伸ばしながら頬杖を突き、その様を鑑賞して楽しんでいるようにも見えた。
「はあ……いいなあ……」
が、詠訵が急に溜息と共に威勢を吐き出してしまう。
「な、何がだしぃ?」
「だってニークト先輩、ろくちゃんの事よく見てて、個別に構ってくれたって事でしょ?」
「んなファンサみたいに……」
「あなた、あそこまで人前でベタついておいて、まだ足りないって言うの?」
「トロちゃん先輩の場合だと、好きな男の子との距離感、どれぐらいが満足なんですかねぃ?」
「こもりちゃん!」
「あーしのはそんなんじゃないから!」
「男とそういう関係になるなんて、想像するだに反吐が出るわね!」
「そう言えばそういう人でしたね」
「パーティーになるくらいなら許してあげるけど、それ以上を求めてきたらパテにして豚にでも食わせてやるわ」
「聞く相手間違えてる感ある」
「みたいだねぃ」
六本木が筋金入りで過激発言気味なのはいつもの事なので、もう気にしなくなっている一同であった。
「私はその、ススム君とそういう感じになりたいって、思ってないって言うか、思っちゃいけないと言うか」
「?どゆこと?分からんげ」
「ちょっと、色々とね。だけどもっとお話ししたいとは思うから、どうやったら振り向かせられるかなー、って?」
「ゆーて、今でも意識させてはいるっしょ?あいつ情緒ガキだけど、そのうちいけるって。そんな焦らんでもおけじゃない?高卒くらいのタイミングでゴールインしてるっしょ、知らんけど」
「他人事だと思ってぇー!彼氏持ちの余裕かー?」
「あーしに好きピはいないから!」
「あと『ゴールイン』って何さー!」
「知らんけどさ!」
六本木が言う事は、しかしそこまで投げ遣りとも言えない。今の所、彼女があからさまにロックオンしている少年の周りには、そういう影がちらついてはいない。体質のせいで第一印象にマイナス補正が掛かる為、これから新たに現れるとも思えない。
精々が画面越しに欲情している変態がいるくらいだ。ライバルなんて存在しない。彼が色恋にイマイチ疎いと言うのも、彼女相手以外にも同じ話。
具体的な根拠は無く、期間はあと2年と少しあるのに、このままだと逃すのではないかと、焦って先に進展させようとしている。人それを杞憂と言う。
「ふーんだ。大きい人には分かんないよ」
「今それ関係ナイっしょ!」
「こんなもの、抵抗が増えて邪魔になるだけよ?攻撃も当たり易くなるから、うんざりするわ」
「この中で先輩が一番あるの、納得いかない!」
「それはわかる」
「なぜ?」
「そこで首を傾けるような人だからですー」
「要らないヤツのとこ行くのマジイミフ……!物欲センサーってヤツ?素直にこっち来ればみんな幸せだと思われ……!」
「ま~ま~ヨミっちゃあん。こういうのは一周回って逆に癖に刺さったりするもんだよ~?」
「『逆』って言ってる時点でだよね」
赤裸々なガールズトークに花を咲かせる4人。
主に六本木が標的だが、それぞれが自らリミッターを緩めて、腹の中身を床にぶち撒いていた。
一方その頃、もう一つの浴場では、
「ねむみ…やばばばば……」
「あ、狩狼さん」
「むにゃ……」
「寝たらのぼせるよ?」
「うにゅ……上がるー……おつ…」
「その方が良いね………………………………あれ?なんで狩狼さんがこっちに居るんだ?あれ?今のは???………ま、まさか………蜃気楼………????」
温泉怪談の第二弾が生まれていた。




