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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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305.あんなに詰まってたのは何だったんだ

 よっしよしよしよーし!

 今朝いきなりローテーション変更を提案された時はどうなる事かと思ったけど、思いの外迷走せずにあっさりハマった!むしろ調子が爆上がりした!普通に6層まで来れちゃったよ!


 攻撃力と安定感!両方向上してる気がする!特に前と比べてミヨちゃんが近めになっているのがありがた過ぎる!ミヨちゃんが前に出て、俺が居ていい安全圏が広がったという事実は、当初考えていた以上に強い意味を持っていたのだ。

 そしてトロワ先輩もガンガン前に出せるから、ほっといても前線が崩壊する心配が無い。だってあの先輩二人だよ?まず抜くの無理でしょ。


 で、ミヨちゃんが中衛になった結果、後衛が咄嗟に中衛に引っ張られる形で逃げられるようになって、前より安全になってる。言われてみれば単純な話なんだけど、それを全然思いつかなかった。


 流石ニークト先輩、頼りになる。

 ただ、六本木さんが思ったよりすんなり受け入れたのが、少し気になった。前にKポジションに行けって言われた時は、結構反発してた気がするけど……いや、あれだな。あの時には無かった信頼関係が構築されてるし、何より六本木さんは先輩のこと「カミザぁ?何ニヤニヤしてんの?ケンカ売ってる?」

「うへっ!?何でもないよ!?」

「嘘つけ!ヘンな事考えてんだろ!」

「へ、ヘンって何が?」

「ち、違うから!全然違うからそこんとこヨロシク!おけ?」

「だから、何の話かな……?知らないなあ……ぷぃー、ぴぃ~」

「おっ、カミザ!口笛上達してきたんじゃないか?」

「あ、そうなんです先生!夏休み中に結構練習しましたから!」

「だろうぜ。最近呼吸法が改善されてた事から、お前の努力はよく伝わって来てる」

「うぇへへへへへへ」

「笑い方キモッ!?」

「む~……!ススム君、私にはあんな笑顔見せてくれないのに」

「お前は本当にあの笑顔が欲しいのか色ボケ女?よく見ろ?」

「可愛いじゃないですか!」

「どうしてそこで怒り出すのかしら?」

「末期だねぃ」


 俺が先生に誉められて気持ち良くなってる間に、なんか他が別の話題で盛り上がっている。ミヨちゃんが珍しくヒートアップしているが、何の話だろう?


 っと、


「ストップ、V型が……多分3。上にもF型が数匹周回してる」

「りょ。一応広めに見といて。CとかMとかがスタンバってる事もあるし」


 上位の教室が通った後で、数が少なくなってる、って事も有り得るけど、まあ念頭には置かない方が良い。そうだったらラッキーくらいの確率であり、敵が少なめな時は大抵何かの罠が張ってある。


「………あ、分かった。あそこの御殿、天井にデカいのが貼り付いてる。多分C」

「あの図体で軽くなるのズルい~。知らずに下を通ったらグシャリ、だからねぃ」

「こわー……」


 こういう事普通にして来て、一瞬で全滅もあり得るから、ダンジョンは恐ろしい。深級は特に。各教室の担当の先生に、高い能力が求められるのも、こういう場面から一人で全員を生きて帰す能力が必要になるから。ただ「強いから凄い」、ってだけの話でも無いのだ。

 生徒をキチンと育成出来てないと責任問題になるのも、面子がどうの以上の理由がある。少しでも優秀な人材の生存率を上げる為だ。


「あ、これしかも重なってる」

「2体かーい!」

「うっわーマジありえんのだけど」

「なんとかして質量を取り戻す前に2体纏めてぶち抜けないかしら」

「2体分の重みに潰されるのがオチだ。やめておけ脳筋」

「即死免れても窒息死しちゃいますよ?」

「ばたんきゅー……」

「分かってるわ。言ってみただけよ」


 本当かあ?半分くらい本気でやろうとしてませんでしたかあ?


 


 頭を潰せばちゃんと活動を停止させられる事が分かったので、C型への対処の定型も作れた。俺が注意を惹いてる間に周囲の雑兵を一掃、ニークト先輩とトロワ先輩がC型の首を落とす、という連携で、結構サクサク行ける事が分かったのだ。こうして考えると俺の戦闘スタイル的に、一つ所に留まって維持するというのは、やっぱり不向きだったのだろう。

 

 それから新たに判明した事については、C型が他のモンスターに角攻撃を撃っても、それで相手を傷つける事はほとんど有り得ない事や、C型の角にF型が火を移す事で勝手に狂暴化して身体能力を向上させる事、軽くなって風船みたいに浮いて上を取ってからストンピングして来るのを結構やって来る、という事くらい。


 残念ながら7層へのラポルトは見つけられなかったが、7層と8層を繋ぐラポルトの前までは、モンスターの種類は増えず数だけが上乗せされる構造。つまり、暫くは生態不明の敵が出てこない、という事だ。

 明日か明後日には、7層の最深部まで行ける見通しだ。


 って事は——



——深級D型



 その階級を持ったモンスターと、再び戦うのだ。

 高級魔具も持っていない。弱体化みたいな幸運も、二度は無いと思う。

 だけど俺だってあの時より遥かに強くなってるし、頼もし過ぎる仲間も居る。

 きっと勝てる。

 今回のオーディエンスは、あの日と比べれば少ないけれど、


(あれ?って言うかカンナ、深級攻略が始まってから馬鹿に静かだな?)

 

 時間も時間だからと引き返している途中で気付いた。

 思えば苦戦していた昨日までの潜行でも、いつものように袖の裏から煽って来るかと身構えていたのだが、なんか普通にフヨフヨしてるだけだった。


(((欲しがりますね?)))

(期待してるんじゃないんだよ)

(((期待、そう、期待しています)))

(何が?)

(((私が静粛にしている、理合りあいですよ)))


 彼女は後ろからスルリと寄り添い、腕を首の前に回して後ろ抱きにし、二つのゴム鞠みたいな物を俺の背中で潰して、


(((楽しみに、しているのですよ……?少し遅れているようですが……)))


 幽かに震えるひやっこいじゅんそくで、耳の奥から全身を貫いた。

 ぷるる、と、体の軸をわななかせてしまう。


(そ、そんなに言われると、やっぱり気合入れなきゃいけn)「でっ!?」


 俺は後頭部に来た衝撃の元を解明しようと振り向いて、待っていた笑顔の寒さに二度震えることになった。


「ごめんねススム君?うっかりぶつけちゃった。でも偵察係なんだし、それくらい避けなきゃダメだよ?『気合』、入ってないんじゃない?」

「………はい、集中します」

「油断とは良い御身分ね!まったく!」


 シンプルに怒られてしまった。

 確かに深級の中だってのに気が抜けてたなと反省。

 しっかりしなければ。

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