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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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301.学習にも都合が良いという隙の無いダンジョン part1

 深級ダンジョン、“御怨恩オン・ノン・アイオン”。

 白い折り紙みたいなモンスター、“ゴースト”共が棲んでいる、併安へいあん時代風味な内装の高難易度スポット。

 ローカルはちょっとおどろおどろしく、「うらみ晴らさでおくべきか」。


 攻撃された者は、攻撃してきた者へ、より大きなダメージを与える事が出来る。

 攻撃は呪いの効果等による物も含まれるし、威力や効力が強いほどローカルの適用も強力になっていくので、攻撃してし返してでどんどんインフレする。

 ただし、自分が強くなっていると言うより、相手が自分からの攻撃限定で弱くなる呪い、という感じなので、味方同士で殴り合ってメッチャ強くなってから敵にアタック!みたいなズルは使えない。

 またローカルなので、そこらの解呪では勿論効かない。こういう系の常套として、一度ダンジョンから出ればリセットされるが、そうでない限り半永久的に効果が継続するだろう。いやもしかしたら、出ても解除されないくらい強い可能性がある。分かりにくいから後遺症扱いされていないだけで。


 ここで重要なのは、戦闘を長引かせない事だ。


 ゴーストは中身が詰まってるんだか詰まってないんだかよく分からない。

 奴らが俺達を殴ったり、その重さで押し切ったりしてる時は、肉体らしき物を持っているので殴る蹴るが効く。しかしそうでない時は、本当に紙のようにヒラヒラと衝撃を逃してしまい、切断するのも一苦労。燃やすとかグルグル巻きにするとか力任せに引き裂くとか、そういった攻撃でないと通らなくなる。

 つまり、殺しにくいのだ。

 で、そうやってワタワタグダグダやってると、いつの間にか敵からの攻撃が恐ろしく強くなってて、急にズバーッ!と行かれたりする。


 ただその時、味方が庇う事さえ出来れば、傷は軽微で済む。

 自分がどいつに攻撃を与えたのかを覚えておき、シャッフルされたりしても情報をしっかり追い掛けて、「こいつはそろそろ決めきらないとヤバイ」だとか、「こいつからやられてもあんまり痛くない」だとか、そういった事を脳内で常に管理しながら戦わないといけない。

 

 更に残念なお報せ。深級のモンスターなので、普通に強くて攻め手も多彩なのだ。単なるG型一体であっても、ランク5くらいのディーパーと互角にやり合えそうとか言われるし、それが集団になった時には、あの陽州サッカークラブばりのパスワークが始まるのである。


 有効な攻撃が変化するという面倒臭さと、段々こっちの防御力が下がる厄介さ、その程度が相手によってバラバラという分かりづらさ、一体一体の練度の高さ。


 はっきり言います。クソです。マジで面倒くさいです。潜ってる時間が長い程、頭が痛くなってきます。

 だからこそここは、甲都遠征の行き先となっているのだ。

 戦況把握、状況判断の訓練場所として、これ以上の適任は無い。

 それは分かる。

 分かるけども。

 

「はい、おつー。まあ安定はしてきたんじゃね?知らんけど」

「あれだけやって、やっと4層到達ですかあー……!」

「しんどー……、ねむみー……」

「私を出し惜しむ意味はあるかしら?もっとバッサバッサと行きたいのだけど?折角私への畏敬を思い出させる絶好の場なのに、まだ満足に剣が振れてないわ!」

「何度も話した筈だぞ脳筋!警戒して延命に走ったら数倍殺しにくくなる連中だ!お前の殺傷力はギリギリまで伏せて相手の本命に確実に当たるようにするのが一番良いんだ!」

「どの道途中から、全員参加じゃないとキツくなるタイミングがありますよ~。それまではオアズケですねぃ。中毒って我慢した分だけ、後々きもちいモンらしいですぜ?」

「例えが悪過ぎるよこもりちゃん……」


 甲都の歴史学習や史跡見学の期間も終わり、深級攻略が始まって、今日で3日目。ダンジョンから宿泊施設に戻ってからの、食堂で夕食も兼ねたミーティング中である。

 浅い層ではモンスターの詳細も分かっていて、毎年同じダンジョンに潜っているのだから道順なんかも分かり切っている筈で、その前提で行けばスローペースであると言わざるを得ない。


 理由は簡単で、俺達にはほとんど蓄積が無いのだ。


 本来は昨年参加した2年の先輩方が先導して、情報を次の世代に引き継ぐという形なのだが、肝心のニークト先輩がそもそもハブられ体質だった事もあり、同伴の教師と二人で1層を探索した経験があるのみ。

 教室存続の為の栄誉として、将来の為に名を売る手段として、「最深到達」を目指す他のパーティーが、こっちに情報を流してくれる筈も無い。

 “御怨恩オン・ノン・アイオン”は五十妹と公家出身の政十グループが共同管理しており、一般開放はしていない為、外から情報を仕入れる事も出来ない。

 ディーパーのマナーとしても、今回の遠征のルールとしても、他のパーティーを尾行するのは禁止。


 ここに、情報格差問題が発生した。


 え?トロワ先輩?逆に聞くけど、あの人が自分で道順とか管理してる所、想像出来る?先輩と同級生に雑用を任せて、戦闘ではほぼ自分頼りだったという武勇伝は、勿論本人談。モンスターの特徴について幾つか教えてくれたけど、それ以外の細かい事は「どうだったかしら?まあ、私より弱い奴しか居なかったわよ?」で終了だった。微妙に役に立たn……睨まれたので黙っときます。

 

 で、トロワ先輩が説明を省く、と言うか適当過ぎて忘れてるせいで、ちょっと危なくなった事が何回かあった。


 特に(ヴァンガード)型だ。


 あいつがヒラメみたいな手口を使うのは教えられてたけど、あんなにややこしい事になってるとは思わなかった。やたら敏感扱いされる俺でさえ、潜伏状態のあいつを見つけるのは難しい。あいつが一番上に被っているのは、床に落ちているダンジョンの生成物としての布で、モンスターとしてのボディではない。魔力も気配も散らばらせ、消すのでなく満遍なく床上に漂わせ、どれがあいつの潜んでいる布か、遠くからでは見抜けない。

 で、知らずに踏んずけたり、近くで戦闘してたりすると、隙を見てばあっ!というわけだ。


 あの命を持った十二単じゅうにひとえみたいな奴の中には、G型とかも一緒に圧縮されて隠れている事まであるので、引っ掛かった途端に包囲を敷かれる。奇襲の攻撃力がバカデカい。中級踏破が可能なパーティーを、1回の油断で全滅に追い込める。


 対策として、あの臭い息の流れを仔細に把握して、その出処を探る事が挙げられるけど、結構な集中力が要る。戦ってる最中に誘い込まれたりしたら、まず気付けない。


 って事を、トロワ先輩は全く問題だと思っていなかったらしく、一度六本木さんが呑み込まれかけた時があった。ミヨちゃんと訅和さんの素早い防御が無ければ、どうなっていた事か分からない。


 それ以来、俺達の進行は慎重に慎重を重ねるようになり、何なら床に落ちてる物全部ひっくり返すくらいの構えに。対処に慣れてきてからは少し加速したけど、正規ルートを探しながらの潜行という事は変わらず、そして潜っているのは広くて複雑な地形を持つ深級ダンジョン。その結果こんなに遅々とした進み具合になっている。こっから空飛ぶF型とか主力のC型とか足されるの、頭が痛いですね……。

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