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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二章:高校受験ってこんなに辛いんだな…

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33.思っている万倍ヤバイ所業

 牲歴 2059年。

 6月21日。夏至。

 

 12時55分。

 明胤学園中央棟、第3応接室。


「ああ!シャン先生!ここに居たんですか!」

「うお!なんだお前か!驚かせるな!」

「またこんなところでゴロゴロして!」

「良いんだよ。この学園、応接室が無駄に多いだろ?一つや二つ無断で使っても困りゃあしないぜ」

「外部からのお客様が多いんです!それと!学園内で教師がだらしなく寝そべらないで下さい!」

「こうやってラジオ代わりに配信流すのが、俺の昼下がりのルーティーンなんだよ!ほっとけぇ!」


 来客用のソファの上で寝転ぶ巨漢と、それに注意する小柄な少女、否、体格が小さいだけで、彼女は成人女性、教師陣の一人である。


「シャン先生が何かやらかすと、私が怒られるんですからね!何で私がこんな人の補助役に…!ああもう面倒臭い…!」

「おいおい、少しは本音を隠せよ」

「今更意味あります?」

「ま、ねえわなあ」


 忌々しげに睨まれながらも、男は態度を改める気が無い。

 イヤホンから流れる音声を耳に、今日も自堕落に転がっている。


「教師って、こんなにぐうたらしてたらいけない物なのに…!やる事山積みなのに…!」

「そりゃお前、俺は招待された側だからな。気に入らないなら、追い出しゃいいだけだぜ」

「なんでこんなのに類稀なる才能が…クソクソクソクソクソクソ………」

「ハ!あんまり溜め込み過ぎるなよ?」

「誰のせいですか誰の!と言うかいつまで見てるんですか!」

 

 堪忍袋の緒が切れた女が、男の手からスマートフォンを引っ手繰たくる。

 弾みでイヤホンジャックが抜け、音声がスピーカー発に切り替わる。


「おま!俺のプライベートな昼休みを!」

「知りません!いまどきワイヤレスにしない方が悪いんです!というかイヤホンジャックが挿し込める機種って、(おっく)れてるんじゃないですかあ!?」

「お前な、俺が完璧だからって俺の持ち物に攻撃するなんて、やる事が陰湿だぞお?そんなんだから婚期を——」

「私の方が強かったら絶対殺してやるのに」

「マジの殺気出てんぞ」

「で?この子をどうしようって言うんですか?“理事長室バックランク”に口添えでも?」

「は?」


 女が男に示した画面では、中学生くらいの少年が、ダンジョンに潜行するリアルタイム映像が流れている。

『こう!腹からこう!腹の底からこう!ああ!また外に!う~んやっぱりまとめてやろうと横着すると、一気に崩れますねえ』

 丁都内にある深級ダンジョン、“爬い廃レプタイルズ・タイルズ”だ。

 あそこのG型は、数と再生力が厄介だったと、女はそう記憶している。

「魔具とか魔法とかの試し撃ちに使われたりしますよねえ、このダンジョンのG型」

「おい、お前、俺を何だと思ってんだ。流石に配信者と会いたいからって、上に推薦したりとかしねえよ」

「は?何言ってんですか?」

「いやお前がさっき——」


「この子、来年ウチの編入試験受ける子ですよ?」


「あ?知らねえぜそんな情報!?」

 遂に男が跳ね起きた。

「いや、去年の末頃に話題になってたじゃないですか。TooTubeにも映像溢れましたし、何でご存知ないんですか」

「去年の末ってーと、あれか、ナイトライダーの」

「その時の生き残りの、中学生ローマン君ですよ」

「はー!なんてこったい!目撃者が生きてたってえ話は聞いてたが、ローマンだったのかよ!しかも中坊かい!小学生にしか見えなかったぜ!」

「何も知らなさ過ぎでしょう!?」

「しかも知らずに目を付けるなんてな!俺の見る目も、まだまだ捨てたもんじゃねえなあ!」

「いやアンテナせま!?流石にあんな大事件の関係者くらいは顔と名前知っときましょうよ!しかも今その子がウチ目指してるって、それ見てたら分かる情報でしょう!?」

「いやあ、こいつの配信見始めたの最近だしな。俺はそれまでくーチャンくらいしか見てなかったぜ?」

「うわキモ、自分が居る学校の生徒推してるよこのオジサン」

 誰も「推してる」とは言っていない。が、聞く耳を持ってもくれなさそうである。

「ススムの配信はBGM代わりにしてる事が多くてな。いつもはもっと淡々と、質問回答とかしながら試行錯誤してるから、聴き心地の良さで流してるっつーか…」

 

 「しかしそうかあ」、男はそこで改めて、「ローマンとしては」良い動きをする少年をつぶさに観る。


「“理事長室バックランク”は何を考えてんのかねえ。成長性の天井なんて、見えてるようなもんだろうに」


 彼に編入試験のチャンスを与える、その判断が何に由来するものか、それを掴めない。


「あのナイトライダーとの接触者ですから。おそらく三都葉ミツバあたりが、「欲しい」と駄々をねたんでしょう」

「仲のよろしいこって」


『え~と、水金地火木土天海冥夢の順番で、水星と金星が内惑星だから夜には見えなくて、冥王星とおうせいが意外と重くて——』


「ダンジョン配信で、しかも戦いながら筆記の暗記とか、そこそこ無茶をやっている筈なのに絶妙に力が抜けますね…」

「それがいいんだろうがよ」


『あ』

「あん?」

「へっ?」


 突如、画角から少年が消えた。

 一瞬、余所見をしていた最中だった為、何があったか二人とも把握できない。

 

「何だ?」

「やられた?いえ、違いますね」


 すぐにカメラが引き、より広い範囲を映す。スピードの急変に、一時的に追えなくなっていただけだ。

 少年はすぐ見つかった。さっきまで戦っていたG型の後方、2m程の場所に立っていた。


『え、今、まさか』

「急に加速した?魔力を利用した空中制動ですかね。確か彼は使えるらしいですし」

「いや……」


 少年の様子がただならぬ事を、男は見て取った。

 確かにそれでも説明が付く。けれど画面越しに見える彼は、「当たり前」が起こったリアクションをしていない。


『……え?今のが?』


 斜め上方を見上げながら何かを呟いた少年に、G型レプトの鋭い牙が襲い掛かる。

 少年はそれを敢えて正面から受け、下顎を刺し、地面に縫い付けるように貫通させる。

 そして止めも刺さず、何を思ったか足蹴にし始めた。


「?え、いや、G型とは言え、ローマンが遊ぶの、危なくないですか?」

「脳ミソまでチビか?お前」

「アアン!?」

「こえーよ。そんで、そうじゃあねえ。こいつ、何か試してやがる」


 そして数発、効いているのかいないのか分からない、ショボい蹴りが挟まった後、


 一撃。


 敵の頭骨を砕いたと音だけで主張するその脚は、右下から振り抜かれ、予想以上のパワーだったのだろう、止まることなくスッ飛び、少年の側が振り回されるようにバランスを崩す。

 間の抜けた絵面だが、立ち上がった少年は興奮しており、それどころでは無さそうだった。


『い、今、今!』

「どうしたんでしょう?彼」

「今の威力、スピード…まさか…」


『今!感覚が掴めました!身体強化使えました!』


「はあ!?」

「あ、そう…はぃぃい!?」

 今度こそ信じられない言葉が耳に入り、一つのスマホの画面を覗こうと、押し合いへし合いしてしまう二人。

「あ、あり得ません!ローマンが魔力による身体強化なんて、不可能です!」

「うるさい少しだまってろ!」

 互いの頬を潰し合いながら、一寸たりとも情報を逃さぬよう、必死になって食らい付く。が、冷静に考えれば、女が自分のスマートフォンを出せばいいだけの話である。


『よっっっっしゃああああ!ようやく魔力を小さな単位で知覚する事ができました!で、今、それを、何て言うんでしょう、砂粒を手で掬って、でも、それを塊としてでなく、一粒一粒別々に感じて、それを足に巡らせるようにして——』


 鼻息荒く捲し立てるのを聞きながら、男は脳内を休憩モードから仕事用モードに転換、回転数を上げていく。


 身体強化とは、魔力溜まりから肉体の各部位に、魔力が供給される事で成り立つ。が、低ランクのディーパーでは、部位を選んで発動、という事ができない。発動しようと思えば、魔力溜まりから大雑把に消費し、人体の機構によって全身に巡らせる、といった形になる。体内の魔力を感じるという行為は、それだけハードルが高い。

 逆に手練れのディーパーになってくると、強化を繰り返すうちに、必要魔力が直感で分かるようになり、ロスを少なく済ませ、燃費の良い魔力運用が可能になる。そこから、魔力の体内での動きをこれまた感覚で覚え、特定の部位ごとに振り分ける、といった芸当も可能にしていく。


 つまり、身体強化という技能は、一定以上の魔力保有を前提とする物なのである。しかも最初の発動に到っては、人体が自然に魔力を吸い上げる、といった反応を待たねばならず、所謂いわゆる“不随意運動”扱いされている。

 その気も無いのに身体強化が発動し、急な万能感に見舞われ、魔力が失われた後に全身がガタつく、“強化痛”という現象は、よく知られた通過儀礼だ。


 不随意強化が始まってもいない、感覚的に何一つ分からない状態で、身体強化を自らの意思で発動する。ローマンであるから、余剰魔力など存在しない。

 必要魔力を必要な場所にだけ、血の一滴一滴に宿らせ、血管やニューロンを使い、適切な配分で振り分け、正しい効果で発動する。これを意識的に行う必要がある。

 

 心臓の鼓動をBPM誤差小数点以下クラスで自在に操れるか?血管や筋、神経系一本一本の配列を、一から十まで、否、一から億まで把握できるか?

 それと同レベルの事をしなければ、身体強化の自発的習得など、起こり得ない。


「それをやったってことか?中坊が?頭ん中が焼き切れるレベルの超高精度処理だぞ?」

「い、いや、冷静に考えてくださいよ!無い!ないない!無いでしょう!?」

『僕の体は魔力の状態で体内に保持する事ができないので、強化に使える魔力量的に、ほんの数秒程度の効果時間しか確保できないっぽいですから、皆さんから見るとしょうもない事のように見えるかもしれませんが…』


「「んなわけないだろ!!」」

 

 とうとう声が重なってしまったが、無理もない。

 どう考えても、魔力を溜められない人間が身体強化会得なんて、歴史に刻まれるレベルの快挙である。

 

『よっし!よおし!やった!やった!やったー!やりました!日魅在進、活動を始めてから1年と1ヶ月、中級で詰まってから4ヶ月かかりましたが遂に!ディーパーとして基本的な攻撃力を手に入れました!』


「「そんな『基本』があるか!!」」




 この日、一人の少年によって常識が書き換えられ、

 そしていよいよ、世間が彼を無視するのも、無理が出て来るようになる。

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