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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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449/984

300.これでまだ4割行ってないってマジ!?

 どこからか流れる生暖かく湿った風。

 それに端を揺らされる、地べたに広がる一枚の布。

 否、その下には層のように複数の布が重なり積まれており、上からの圧縮で平かにされているだけだ。


 病んだような、澱んだ池の水に近い、緑と青の中間の空。

 石垣の上に木製の骨組み、土の壁で固めた築地塀ついじべいによって、それぞれの区画に分割された町。塀の内には寝殿の母屋らしき建物が幾つも並び、その中でぬくい気流が吹くのだ。


 二つの板張り通路を横に連ねた複廊ふくろう、その途中の床に敷いてあったのが、鯨尺くじらじゃく数丈じょうの巨大な布だった。最も上層に位置する物は、朱色の唐衣のように見える。鞠か大輪の花らしき柄が入り、踏みつけにするのを躊躇ってしまう上等なそれ。


 角端かどはしが持ち上がり、湿気た風が通る。涼しさとは無縁に、肌呼吸を詰まらせる。

 それ以外にもいろがら大小種々様々な布切れが散りばめられ、華やかとも雑多とも栄雅えいがとも退廃とも言える、夢の中のような幻想風景を織り成している。


 廊の一方から現れたのは、深緑のほうを着たシルエット。しかし中に入っているのは人間でなく、膨らんだ白い紙。折り紙やてるてる坊主の素体のように見えるそれは、垂纓すいえいかんを被っており、象牙質のしゃくを持ち、数体が並んで宙に浮遊しながら進んでいた。


 と、最前列の一体が腹から突き上げられるかのように後方へ飛ぶ。後ろに並んでいた者達はひらりと身を躱して衝突から逃れつつ、速度を増しながら滑るように前進。

 見えぬ風圧、と言うより爆圧に何体か押し返されながらも、それを放った相手が反対の端に立っているそいつだと見通し、突如強くなった追い風に乗って宙を渡り攻める。

 一体の袍の下から何かが詰まった紙の球体が転がり出し、翻る白紙の下端がぐるぐる巻かれ固められ脚のような形を持ち、それを蹴り撃つ。


 力をほとんど感じさせない小さき何者かは、当たれば肉を抉り骨を砕くその飛び道具を左手で横に払う。その先に回り込むようにしてもう一体が現れ蹴り戻す。敵を囲んでから強豪フットボールチームの精細で無駄のないパス回しのように球撃を翔け巡らせる。

 そのうち1体の石帯せきたいが解けて、別方向から飛来したリボンと打ち合う。リボンがもう1本加わった事で押し負け、本体も巻き付かれ、そこに先端に何らかの武装を施されたもう2本が現れ、何箇所もズタズタに切り裂いていく。

 

 薄い紙の端が硬化し、ギロチンと化して小さき者の首へと振り下ろされる。何らかの抵抗で減速した事により、間一髪避けられる。だが衣の端から紙で折られた脚による槍の穂先めいた蹴りが突き出され直角に追撃。横からのそれを回転刃を持つナイフで削り逸らす小人。その時もう一つの脚が角度を付けて作られ、そこに布玉がぶつかって敵を狙う。命中。ただしベージュの壁と不可視の障壁で防がれた事で有効打とはならない。


 もう一つ球体を生成し攻撃しようとした者が、シュートの狙いを大きく外す。直ぐ近くで大きな気配が現れ、気を取られた。刻む為に伸ばされた鋭利な掌から上に逃れて相手を確認。狼の皮を被った筋肉質な新手。衣を使った斬撃を浴びせようとして、その前に引き下ろされる。男の前腕部から生えた狼の頭が噛みつく事で、回避した先で掴まれていたのだ。

 左腕で引き寄せながら、水平に構えた曲剣を横に振るう。牙笏げしゃくで防御。ハンドルスイッチが押し込まれる。剣が熱を帯び、刃中から高圧のエネルギーが噴射され、切断力を上げる事で胴部の中程まで斬り入れられる。


 この場所の守護者達が来た方向から、新たに2体、紅白のかりぎぬと黒烏帽子(えぼし)を被る、神官風な紙人形が現れる。広い両袖を戦闘集団に向けると、その中から多数枚の符を発射。それらは味方の傷や綻びを繋げ合わせ、魔力壁を生み出して敵からの攻撃を妨害する。

 数体が減ったものの、それ以外の者は無傷に戻り、どころか一部は初めより精強となりながら、侵入者に襲い掛かる。ここにはそういう法があるからだ。

 

 ケーブルに巻き付かれ、その溝をはしる刃で1体が切れ切れになる間に、それを為した小人を3体で囲んで、球・打撃・斬撃・刺突で猛攻。刻まれている者は縛られている事を逆手に取り、自らの足掻きで小人の動きを鈍らせる捨て石となった。

 

 不可視の膜とベージュの壁、抜群の身のこなしがあるそいつ。巨体を持つ狼が目立つ為に、自由に動き回れていたそれを止める絶好の機会だと、狩衣2体はそちらへ攻撃を集中させようとし、その腕に犬が齧りついた。正方形の頭と、正方形の耳を持つ犬が。


 食い千切ろうとするそれに向かって、開いていた脇の部分から符を撃ち出して対処しようとしたそいつは、前方警戒をおろそかにしたツケを即金で支払う事になる。連列する三角形によって、腹に穴を開けられたのだ。


 敵方にも後衛が居ると判断した残りの1体は、1枚の符を築地塀の向こうに放ち、すぐさまそれに反応した別種が這い越えて現れる。


 黒い袍の前面に鎧の胸板のみを貼ったようなそれは、紙の躰部分が捻じれながら多岐に伸びて、蛸足めいて塀の上で横10m以上に亘ってぶわりと広がり、自身の体の内から長大な弓矢を大量に取り出して横列おうれつ展開。矢を番え強く引き搾り屋敷の壁に向けて一斉射。隔たりを突き破って中に隠れていた者達に突き刺さる、かに思われたが、その一瞬前に白い壁が生えた事で全弾防がれる。壁は一秒程で消失、その時既に銃口は弓矢持ちに向いていた。

 三角形の貫通弾。

 喰い荒らしながら掘り進む。

 狩衣はそちらに治療リソースを割こうとして、それから小人を見失っている事に気付く。目を引く狼と遠隔攻撃陣の攻防とを行ったり来たり目を配っているうちに、見落としてしまったのだ。


 その時そいつの背後で、ばらりと翻る音。

 それは味方が身に着けていた深緑の袍。

 この場所に還ってしまうまでの僅かな間に、それで己を包みながら高速で回り込んで来たのだ。

 と、いう事を理解したのかどうか。硬さを手放す事で、殴られたら風に乗って逃げられるようにと準備を急いでいたそれは、反対側からの爆発に吹き戻され、両手とケーブルに捕えられ、人間製シュレッダーの餌食となるしかなかった。


 伝令・治療役が欠けた事で押され気味になった深緑達。そこに畳み掛けようとした狼の視界を、吐き気を誘う生臭い暴風が塞ぐ。


 獲物を前にしたエイのようにガバリと起き上がったのは、朱色の唐衣、の下に詰まっていた広大な白紙だ。その裏にはびっしりと生え揃った楕円の歯列が何重にも並んでおり、嗚咽やてんかん発作のように苦しげな声を上げながら、狼を丸呑みにしようと襲い掛かる。

 更に挟まれていた衣達が外へと抜け落ち、深緑の袍を身に着けた折り紙となって、唐衣を守る。


 狼は一つ後ろに跳ぶも避けきれず、歯並びの端に引っ掛けられ、上から押し留められる。蠢動によって削られ擂り潰され、更に周囲からリンチに遭うというまさにその時、


 深緑達は不可視の袍やリボンが持つ道具で張り飛ばされ、更に西洋甲冑に似た防具を身に着けた一人が彼の横に立ち、歯と歯の間の正確な一点に二連突。竜胆色が炸裂し、衝撃は喉奥に届いてもなお、勢い余って反対側へ。大判紙に穴を開けその鑑定額を半分未満に突き落とした。

 

 リボンと小人で残りの木っ端を片付け、そこでひとまずの決着。


 “御怨恩オン・ノン・アイオン”、第4層での一幕だった。

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