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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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299.実は、自信なんて無いのかな?

「あれ、先輩」


 修学旅行2日目の夜、同室の男子達にあまり要らない気配りをさせるのもアレだと思い、消灯時間まで旅館をウロウロしていた俺は、テラス部分に立って空を見上げてる巨体を見つけた。って言うか、部屋でワイワイやる体験を求めていたのに、俺の周囲がヒエッヒエなのは変わらないの、ナンデ?枕投げとかしてくれない?怪談語ったり誰が好きとか聞いたりさあ。


「何やってるんですか?もうすぐ寝る時間になりますよ?」

「そっくりそのまま返すぞ、徘徊チビ」

「俺はほら、自分が嫌われてるのを知ってる人間ですから」

「オレサマも煩わしい物を斬って捨てて来た人間だ」

「自分で勝手に暴れた先輩とは違いますよ」

「自覚がある分、オレサマの方がマシだと言っている」


 クラスメイトやススナーの反応から、何かズレてる事を何度も分からされてきた経験もあり、俺は何一つ反論出来なかった。


「八守君は?」

「もう寝た。あれは燃費が悪いんだ」

「そんな感じがしますね」


 微笑ましい光景が、簡単に想像出来てしまう。


「先輩は星空を見上げて、丁都だとこんなにくっきり見えないよなあ、とか思うタイプですか?」

「そういうお前は雅趣がしゅより食い気、食い気より色気だろう、変態チビ」

「何度も言いますけど、カンナからの仕打ちを自ら希望した事は一度もないですからね?」

「誰もカンナ嬢の話とは言ってないぞ」

「先輩が俺に持ってる誤解で一番デカいのそこですから」

「色ボケ女を誑かしている事については真実、と記憶して良いんだな?」

「定着してる誤認の被害が思ったより広い!?って言うか話を逸らさないで下さい!何してるんですかそんなセンチメンタルな感じで!」

「最初からそう聞け!お前が遠回しに聞き出そうなんて慣れない事に手を出したから無駄な時間が増えたんだ直線チビ!」


 先輩と話し始めると、勝手にスマッシュラリーが始まるこの現象。最近原因が分かって来た。


「おい何だその顔は気色悪い!」

「何でもないですよーだ!先輩は面倒くさいなあ、って思ってるだけです」

幼児おさなごみたいな事を……!」

「まだまだガキ真っ盛りですので。こちとら中学生から上がり立てですよ?」

「もう半年過ぎる頃合いだぞ!意識を切り替えろ時差ボケチビ!」


 楽しいんだ。この人と話しているのが。


「………」


 先輩はまた夜空を仰ぎ始める。


「カミザ、お前は……」

「え?」

「お前は、死ぬのが怖いか?」

「そりゃあ、怖いですよ」

「何よりも?」

「今の所は、そうですね」

「だが人間、いつかは死ぬだろ?」

「は、はい……」

「恐怖は未知から来ると言うが、必ず起こると分かっている事を最も恐れるというのは、何故なんだろうな?」

「せんぱい…?」


 今まで人の死を恐れて、あの手この手で防ごうとしてきた先輩の口から出る物としては、甚だしく意外と言える質問だった。有り体に言ってキャラじゃない。

 ただそう指摘して、「そうかもな」って流していいムードじゃない。先輩は何かを知ろうとしてて、その為に話したそうに見えた。俺は少し考えて、思ったままを言う。


「やっぱり、『そこで終わり』って事が怖いです。自分が無くなる所って、結局自分では絶対に見れないですし、居なくなった後に自分がやった事がどうなってるか、無意味になったり裏目になったりしちゃってないか、それを修正するどころか確認も出来ないんですから」

「死ぬことそのものではなく、死後の現世を知る方法が皆無で、それが恐るべき『未知』だと?」

「なんとなく。後は単純に、楽しむ事とか、感動する事とか、生きている時に触れている娯楽に、『次』が二度と無くなる事とかも、普通にイヤですけど」

「それを克服する事は、出来ると思うか?」

「自分が最後に何者になったのか、生きる事を楽しみ尽くせてたか、それが分からないから怖いって思うんだったら、自信を持つと良いのかもしれません」

「誰が何と言おうと、どのような結果で終わろうと、『こうするしかなかった』、『これが全力で最善だった』と自分で分かっていれば、自分で自分の理想さえ理解できていれば、それで充分だと言うのか?」

「それか、誰か自分を良い感じに語り伝えてくれて、やりたかった事へのバトンも繋いでくれるって、そう信じれる人を見つけると良いのかも…?『今楽しい』より『未来に行けて嬉しい』の方が、スケール的にはドデカいから、細々(こまごま)した幸せを取り溢してるかどうかなんて、気にしなくなったり、とか……」

「小理屈マフィアの受け売りか?」

「あの話には、何となく共感する所もあったんですけど、ただ悪名は残したくないかもです」

「それについては珍しくオレサマも同感だ。問題児というレッテルを進んで周知している奴が何を、と言われるかもしれないがな」

 

 マジにどうしたんだろう……?凄いしおらしいと言うか、萎びていると言うか、青菜に塩と言うか。勢いが全然無くて、減らず口のキレも悪い。


「お前はまだ、『完全なお前』には成れていないか?」

「少なくとも今は、これで終わって良いとは思えないですね」


 理想どころか、ノルマすらまだ遠い。

 

「それが、それが恐らく——」



——お前が()()()()()理由だろう。


 

「魅入られた?」


 さっきから度々こっちに向いていた彼の視線が、俺の肩越し、そこに居るもう一人を見ているのだと、そこで気付いた。確かに俺は彼女の顔面の破壊力に参る事が多いけど、「魅入られた」とか言うと惚れ込んで()()()()、みたいに聞こえるから、ちょっとやめましょうか。親子愛とか師弟愛とかに近いから。何なら「愛」って言って良いのか怪しいくらいだから。


「今日の昼、お前は五十妹に呼ばれた」


 檻の内外の猛獣同士による睨み合いから逃げて来た俺に、勿論みんなは質問攻め。「偉い人に付いて行ったら偉い人が出て来て偉い人が来た」と説明したら、「何言ってんだコイツ(意訳)」と口々に返された。流石に端折り過ぎたと反省し、俺は割と事細かに語って、みんなの答えは「何言ってんだコイツ(意訳)」だった。あれっ?


「お前には価値がある」


 これも先輩史上稀に見る現象で、彼は俺を素直に褒めた。


「お前の強さと、そしてお前と言う人間そのものから、少なくない何者かがそれを見出した」


 「俺もその一人だ」、

 むず痒いと言うか、照れ臭いと言うか、彼が俺を評価してくれているのだと、こうも直球で言われると、「ぅ、ぉおう…」みたいな音しか出せなくなる。

 

「それと比して、どうだ?」


 先輩の視軸が下がっていく。

 テラスから見渡せる庭園は、池や鹿威し、まだ緑色の椛といった物が配置されているけれど、灯りが少なく輪郭くらいしか判別出来ない。

 彼が見ているのはその闇の先。ただし主役となるオブジェではなく、飛び石の間にある砂利だか泥だか苔だか、そういう物なのだと、何故かそう確信出来た。


「カンナ嬢が言っていた、課題の意味」

「何か分かったんですか?」

「俺は多分、最初から答えを知っていた。だが——」

 


——答えられないんだ。



「知っている事は分かっても、内容が分からない?」

「朧気でも目星は付いている。どうすればハッキリ見えるのかも、分かる」


 だけど、そう出来ない?


「俺の中には、二つの記憶がある。片方が偽物か、或いは両方ともが真か、全てがか」


 それは、あのノミ女のダンジョンの中で、言ってた話だ。先輩の過去の記憶が、分裂したように2パターンあるのだと。


「それを確かめねばならない。その為にはどうするか?赤子でも分かる。目を凝らして覗き込めばいい」


 「日魅在進ならそうするだろう」、

 どうしてそこで、俺の名前が………


「心残りがあるままに死ぬことが、最も恐ろしいと、

 そう臆面も無く言い切れるのなら、

 もし、

 もしそれが、

 もしもそれが可能だったら、

 だったら俺は、

 俺はこんなにも………」


 先輩はそこで踵を返して、屋根の下へと歩き出した。


「子供は寝る時間だ。部屋に戻れチビガキ」

「『子供』って……そんな事言ったら先輩だって、就寝時間は変わらないじゃないですか」


 先輩は背中に受けたそのボールに、


 何も言ってはくれなかった。

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