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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十二章:過去はいつだって不意打ちのように顔を出す

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297.最早新聞の勧誘より慣れた

「ひゅ、ぶはっ!だはははははははははは!」


 藪から棒に後ろから爆笑が飛んで来て俺は座ったまま飛び上がる。


「ひゃはははははは!!だっはははははははは!!」

「ま、政十さん……!脅かさないでくださいよ……!」


 今「緊張感」って言葉の例文みたいな状況だったけど!?どういう神経してたらこの場で笑えるの!?五十嵐さんの前だよ!?


「ひーっ…!ひーっ…!いや……!そりゃ自分……!」

「今真面目な話してるんですから!」

「や、ヤメ……!ボケかましといて……!マジメとか……!言うなや……!オモロ~……!」


 ………。

 ここはその道(お笑い)の権威に聞こう。

(カンナ?今のやり取りに愉快ポイントあった?)

(((社会的文脈と応答速度によって、見事模範解答となりました)))

(大喜利みたいな論評!?)

(((考えてもみてください?この国最高の潜行者にからの誘いに対して、怪しげな訪問販売員と同じ態度で接したのですよ?)))

(あっ、っっっっっとぉぉぉぉ?)


 しまった。肩を軽くし過ぎたか。

 

「ご、ごめんなさい!つい反射的に!」

「い、いやいや……」


 流石の五十嵐さんもこれには困っている感じだ。そりゃそうである。

 だけどこれに関して、俺はそこまで悪くない。

 だって魔力操作を会得したら明胤から試験を受けろと言われ、受かったら推しのパーティーに誘われ、名を上げたら漏魔症支援団体に所属しないかと勧誘され、色々頑張ってたらイリーガルから同盟を持ち掛けられ、つい先日はインフルエンサー二人との連携を提案されたりもした。

 もうなんか、スタンスがどうの所属がこうのみたいな話には慣れに慣れて慣れ慣れ状態なのである。悩むまでもない。秒速で答えを返せるし、しかもちょっとその手の話題に飽きてきた所。食い気味で突っ返さなかった理性を逆に褒めてほしいくらいだ。


「そうだね……ええと、そうだね……」


 話をどう続けるか悩ませてしまった。すいません五十嵐さん。流石に取り付く島をパージさせ過ぎました。もうちょっと双方向のコミュニケーションであるべきでしたね。あとトオハさんは大丈夫ですか?さっき随分盛大に滑ってましたけど?腰とか打ってません?

「余計なお世話です」

「すいませんでした」

 なんで俺の思考っていつも筒抜けなの?そろそろ頭にアルミホイルとか巻きたくなってくるよ?


「えっと……まずは待遇を聞いてからでも……」

「その……億が一、すっごいお金をくれる事になったとしても、僕は自分から転入とかするつもりは無いです」

「明胤のネームバリューについては、既に君はゲットしてる。僕らが引き抜いた(ピックした)と大々的に報道すれば、君の価値は寧ろより強く証明される。二大勢力から求められた男としてね」

「それは確かに魅力的ではあるんですが……」

「何なら、僕が口を利いても良い。シャン君の名は確かに強いけど、僕のそれとは比べものにならないよ?特に潜行者の一つのゴール、終生の職(エンド・コンテンツ)とも言える、防衛隊の中ではね」


 シャン先生が俺の事を気に掛けてくれてる事も調査済みか。そりゃ現役2位の発言力は、バカ強いだろう。元々教師として評判が悪くなかったらしい先生とは、並べる事が失礼………っていう思考がシャン先生に失礼だわ。ごめんなさい先生。


「それに現在の君は、旧態依然とした学園内で腫れ物(エリクサー)のような、どころか危険物《禁止カード》のような扱いを受けているでしょ?聞いたよ?一部の教師は君の排除に動いていると」


 うわあ、バレバレだ。

 だけど要所要所で変な用語が入るのが一々没入感を削ぐせいで、迫力をしっかりと感じれていない。


「こっちにもレトロな考えの人間が多いイメージがあるのは分かる。だけど、『価値があるなら関係を築く』事を徹底する人が、比較的多いんだ」

「銭ゲバとも言うんやけどなあ。まあけったいな正義漢より逆に信用できると思うわ」

「その証拠に、僕を含め公的機関の人間は、みんなで君を尊重しサポートするつもりだ。君にはそれだけの価値があると確信している」

「それは、ありがとうございます」

「それでも、気は変わらないかい?」

「それでも、ですね」

「どうしてまた?」


「信頼出来る友達とか、恩師とか、もう出来ちゃったので」


「………」

「………」

「………ん?」

「はい?」

「それだけかい?」

「それ以上の物ってあります?」


 俺からすると、あの結束力や、関係性って、何処であっても手に入るような物とは思えない。もうなんか利害関係とか、好き嫌いとかじゃなく、自分というピースがぴったり填まる場所、みたいになってるのだ。

 それはきっと、お互いにちょっとずつお互いの形を知って、それぞれどこかしら自分で削ったり伸ばしたりした結果、そうなったんだと思う。それが出来る人、それをしたいと思ってくれる人、どっちもそんなに多く居るものじゃない。漏魔症である俺の場合は特に。


 友達なら離れても友達のままだ、とは言う。けれど世の中には単純接触効果とか、時間は万能薬だとか、そういう話もある。距離と時が離れてしまった時、そこにあった大切な物が、失われない保証はない。

 いつかはそれぞれの道を行き、バラバラになるのだろう。それは仕方ない。ずっとべったりではいられない。

 だから、その「いつか」までの時間を大事にしたいのだ。

 

「風当りが強かったり、何か変な企みがあるらしかったり、そういうのはもう仕方ないと思ってます。きっとこっちに来ても、それは変わりません。と言うか、仮に周りの人間が全員、俺にそれなりの好意を抱いてくれている状況になるとしても、俺は今のままを選びます。俺が特別な好意を持ってる一部の人達が、俺の近くに居る今を」


 何か俺こういうの断ってばっかりだな……何か悪いな……とは思うのだが、それはそれとしてはっきりさせとくべき事だ。

 さて、とは言っても相手は五十妹のトップ。これまでの相手とは社会的立場の高さが段違い(ダンチ)。それが直々に提案したのだから、何か裏で偉い人達が話し合った結果の、重い決定なのだろう。このまま引き下がるとは思えない。一体どういう搦め手で来るのか。

 

 例えば明胤に何か圧力を掛けるとか、あ、それか、俺が今「大事だ」って言った人達の身柄を押さえているようなものなんだから、それを使って脅したりとか「それじゃあ仕方ないね」

 ほらなんか仕掛けて来た!

「うん、じゃあ話は変わるんだけど」

「………はい………」

 どの角度で攻めて来る……?


「君、テレビゲームはするかい?」


 ………?

「………昔に、一応……。元々家にあって、居住区に移った後、『これで暇でも潰してろ』って、職員の人に返して貰った物が………。潜行者になってからは、忙しくてほとんど触ってないですね……」

 あれ、でもあれって結局、本当に俺が元々持ってたやつなのか?その場合あの親戚一同が手放したって事になるけど、あんまりゲームに興味無かったのかな?まあ細かい事は良いか。問題はこの話がどういう展開を見せるかだ。失言を拾われないように、注意深く答えないと。

「ふぅん?機種は?」

「えっと………」

 あれは確か、

花天党はなてんとうbutton(ボタン)を」「っしゃああ!もらいいいい!」


 今度は前のめりにぶっ倒れてしまい、前転一回。慌てて反時計回りに後ろを振り返ると、政十さんがガッツポーズで立ち上がっていた。いつの間に左から右後ろに移動したんだこの人!?そして何の意味があってそんな奇行を!?新手の嫌がらせか!?


「だからゆーたんですよ!丹本人でX(カイ)cube(キューブ)持っとる非国民なんかおらんでしょって!」

「そんな事はないよ!まだワンチャンある!最後まで聞いてないじゃないか!最近は!?ほら、PCでゲームとかしてないかな!?XcubeゲームパスとかあればPCでプレイ出来るしそれならカウントしても良い筈だ!」

「えっと、あの」

「だぁかぁらぁー!ディーパーなってからはあんま触っとらんって、日魅在クンはそうゆーとるんですわ!なあ?」

 

 そうなんですけど、そこで同意を求める前に、今何の話をしてるかを教えて下さい。


「日魅在君、それは遅れているよ。時代はnanosoftのXcubeだ。君もPCでお世話になってるじゃないか。XcubeのコントローラーはあのメーカーのOSに対応してるんだ!PCゲームにそのまま使えるんだよ!」

「え?そうなんですか?」

「あかん日魅在君!それはコンボの指導技や!」

「そう!そこにゲームパスだ!PCゲームをやれば実質Xcubeユーザーと言っても過言ではない!」

「へー……?」

「アホ抜かせ!何を知らん人に偏った思想を植え付けようとしとるんや!」


 丹本の急所に居ながらにしてどうでも良い知識が手に入ってしまった。


「何か、何か最近プレイしたPCゲームは無いかい?ちょっとやってみた程度で良いんだ」

「どんだけ負け分払いたくないねん!大人しく小遣い寄越しーや!」

「金額の問題じゃない!プライドの話だ!」

「あんた仮にも国防の長やろ!国内メーカー推さんかい!」

「最新ハード買うのに店頭に並ばないといけないじゃないか!僕には無理だよ!法が許してやるなら買占めてる連中を最大出力魔法ウルトで消し飛ばしてやるのに!」


 なんか物凄く物騒な事言ってない!?


「だけど、ゲームパスは、nanosoftは違う!高スペックPCと、大人気ゲーム、両方を僕に許してくれる!引きこもりの味方だ!君もそう思うだろう!」

「もし僕に言ってるならそろそろ帰っていいですか?」

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