295.うんうん、歴史を感じる!歴史的で凄い!(小学生並の感想)
「うぇいピース!わ、めっちゃ盛れてるくない?」
「バエー……爆アゲー……」
「?何抓んでるの?それ?」
「カミスムー……遅れてるー……」
「これ指ハートっつってな?」
「え?ハート?……わ!ほんとだ!ニークト先輩!これすごいですよ!ハート型ですよ!」
「だからなんだオメデタチビィ!」
「そうッス!ハート作るなんて誰でも……は、ハートッス!ニークト様!片手でハートが出来るッス!」
「ええい!どいつもこいつも!」
「ここは託児所か何かかしら?」
「微笑ましくて良いじゃあないですか~」
「ススム君!ハートなら二人でも作れるよ!」
「あ!それならネットで見た片思いハートってヤツやりたい!俺がハートの片側作るからミヨちゃんがサムズアップを……」
「ススム君0点!」
「なんで!?」
「あーっとカミっち選手!ここで審査員から厳しい採点を受けてしまったぁー!」
「馬鹿やってないで行くわよ」
見知らぬ土地で見知った顔で、ワイワイ言ってるだけでも楽しい。
受験やら就活やらがそろそろ本格化する為、乗研先輩含む3年が不参加なのが本当に残念だ。
で、色々あって今、甲都の寺社仏閣群の中です。
え?どこらへんのなんて寺または神社だって?
知らん。俺は雰囲気だけで甲都を楽しんでいる。
まあ神仏習合とかやってた国だ。どこまでが悟伝教でどこからが五十妹かなんて、昔の人もさして気にしてないと思う。八百万信仰系が五十妹の下に統一されたのだって、回土時代入って幕府に整理されてかららしいし。
後で書かされるらしい感想文やら文化研究レポートやらが不安じゃないではないが、今は造形美やら歴史ロマンの空気やらに浸る事にした。
昔の寺社って権威付けの為以外にも、テーマパークみたいな側面を持つ物もあったらしい。幾ら俗世と切れてるとは言え、集客が無いと維持すら出来ないって事だろう。まあそりゃそうだよね。豪華に飾ったり変な幻獣の絵とか像とか置いてあるのも、決してただ贅沢を自慢したかったわけではなく、その建物なりの実用性に基づいているのだろう。
さて、そうは言ってもこちとら零環の高校生身分の観光客で、三十三とか八十八箇所巡りとかやってられないわけで、精々が甲都内のスタンプラリーを片手間に熟す程度である。
「次に行く予定なの何処だっけ?」
「え~……あれだねぃ、鳥居が一杯ある……、『鳥居は赤い』って偏見の元ネタになってる……」
「お寿司みたいな名前の……」
「そうそう、あそこッスね」
「あー、おけおけおけまる把握」
誰からも正式名称が出て来ない………。
「キイナリ大社だ浅学共」
「一般教養よ?」
そして外国出身2名の方が詳しい………。
「えーと、場所は……」
「またアプリとダルい睨めっこな感じ?」
「まあまあ……」
甲都は円形の碁盤状だと言われる。通りがキッチリ升目みたいに街を区切っているからだ。どっちかって言えば「ダーツの的状」の方が分かり易いかも。
画一的な都市規格で通りの形とかに特徴が無いから、GPSとか目印となる施設とか無いと、多分地図見ながら迷う事もありそう。
寺の所在地はそうでもないけど、市民の方の住所となると、「どの通りとどの通りの交叉点からどう行く」みたいな情報全部書かないといけない事もあるらしく、30文字を超える事まであるとか。
俯瞰して見ると理路整然として見えるけど、実際に住んだらちょっと不便そうだと感じてしまう。
「元々は都、つまり首都にする為に人工的に作られた計画都市だ。不自然で無機質な構造も、作り易いようにやった結果だろう」
「信仰の拠点みたいなのが集まってるのも、ディーパーによる国防、みたいな感じだったんだろうねぃ」
で、長い間ここが丹本の中心だった。
その後今の関東にある乙都に移って、関西に戻って丙都に、更に関東に移って回土時代からはずっと丁都で固定。丹本の遷都遍歴である。
「って言っても、人口密集地に大規模ダンジョンが出現しやすい問題と、それを除いても災害大国である実態もあるから、首都機能は分散されてる面もあるよねぃ。どこかが沈んでも、すぐに別へ移転できるようにって。つまりここは今でも準首都ってわけなのだぁ~」
「四都はシンコーケーでダイジって話っしょ。丁都だって挿げ替えオケな首の一本ってだけ、っつーか」
「地震やら津波やら台風やらダンジョンやら………ご先祖様は良くこの島国で生き残ってこれたよなあ……」
まあそれで鍛えられ過ぎたせいで、開国直後にエイルビオンとやり合って痛み分ける藩、なんて歴史のバグみたいなのが育まれたのかもしれないが。徒歩の侍が馬の上の人間を一刀の下に斬り伏せたの、魔法とか関係ない剣術らしいって説、凄いを通り越して怖いよ。
「キビキビ歩け!鳥居の通りを見たいなら、ある程度は山を登る事になるぞ!」
「なめてもらっちゃあ、困りますなぁ。こちとら鍛えられてますからねぃ」
「ヨユー……」
「右に同じく」
「全然行けます!そこをいっちばん楽しみにしてたまでありますから」
「だったら名前くらい覚えろ口だけチビ!」
「あはは、おもろいわー」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
通りを歩いていたら、前で塀に寄り掛かって立っていた人が、急に話に混ざって来た。俺達が止まるのを見て、彼はユラリと背中を剥がす。
「あんたがルカイオスさんトコの三男?聞いとった話とちゃうなあ」
どこか胡散臭い笑みを浮かべる美青年。白色のパーカーにデニムパンツ。すっきりとした塩顔で目は閉じられているかのように細く、目尻からは渦巻き模様が伸びる。ぴっちりと一髻状に纏められた透明度の高い青髪。
「どーもぉ!皆さんお揃いでぇ」
「お前はオレサマ達を知ってるようだが」
ニークト先輩が率先して代表面をしに前面へと進み出る。
「オレサマ達はお前を知らんぞ?情報の不均衡の是正も無しか?」
「ぉおっと、こら堪忍、堪忍な!」
「たはー」と大袈裟に額を叩き、それを合図としたのか周囲を十数名の男女が囲んで来た。
「ワシ、さる御方の招待状を届ける遣いっ走りとして、この辺りの天上高等学校言う所から来とります、政十天万と申しますぅ」
「以降よろしゅう」、
丁寧に、深々と、しかしこっちを上から押さえつけるように、
その青年は頭を下げた。




