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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十一章:大事な物ばっかり目に見えないのはどういう不具合ですか?

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292.またしてもろくでもないアイディアが進行中 part2

「そいでしたら、何の滞りもナシでこちらにいらっしゃると言う事で、宜しいですやろか?」

「そうだね、遠征への参加資格の剥奪、或いは自主辞退といった事は聞いていない。前々から彼に興味があるって言っておいたから、無言で名簿キャラセレから削除するわけにもいかないだろう」

 

 丹本の自社建築、その内部の板張りの部屋。ちょっとした宴会場のような広さである。

 座布団の上で正座する青年が、横に長く端から端までを遮り、全体を二分横断する御簾の向こう、畳間じょうまに座す人物の言葉に、「しめた」と気を良くし指を鳴らした。


「僕はあまり、彼らと直接会う機会は多くないだろうから、応対はほとんど君達、政十の所のみんなに任せるよ。明胤は優れた学園だ。良い刺激になると思うよ?君も聞かされているだろう?」

「えー、えー、そりゃあもう、先生方もはしゃいどりますわ。これがまたまるで生徒側みたいな顔つきで、自分らが制する側でワシらが楽しむ側てこと、分かってるのか不安なるんですわ、あれ」


 長い歴史を持つ家系、丹本潜行界のトップである貴人を前にして、まるで物怖じせず友人に愚痴るような語り口の彼は、同席している巫女から不敬と窘められないのもあって、妙に大人びた大物のように見えた。

 高等学校側の人員でなく、生徒の一人に過ぎない彼が選ばれた事も、その特別性を強く演出していた。


「壌弌さんトコと三都葉さんトコは、何かしら茶々を入れて来よったり?」

「しっかり横からクロス入れて来たよ。『彼は最早本人が望んだからと言って、司法や行政からこれ以上離す事は許されない』、だってさ」

「潜行者の総本山がおわすこちらから離しといて、しかも国民の自由意志を無視ですかあ。困りますわあ、これだから東の田舎モンは」

「こらこら、四都の仲間じゃないか。いきなりPVP気分はダメだよ?」


 目尻から渦巻き状のアイラインを引いた青年は、その言葉を確かに受け取った上で聞き流す。顎を曲げた指で挟む物思い仕草と、苛立ちや戦意の混ざった舌なめずり。今はまだ自制が利いているが、問題の人物を目前にしたら、どこまで噴き出るか本人にも分からない。


「ま、小猿1匹コロリと転がすだけで、ガッポガッポですさかい。精々張り切らせて頂きますわ」

「そうしてくれると有難いね。成功すれば、行政の勝手に牽制する選択肢コマンドを持てる」

「『四都の仲間』はどこ行ってんねん」

「親しき仲にも礼儀あり、フレンドと言えどみんなライバル、さ」


 「食えないおっさんやわ~」、

 青年は改めて座を直し、手を床に付いて辞儀をする。

 

「では、御意おんいのままに」

「じゃあ、そのように」


 カミザススム勧誘勢力。

 新チャンレンジャー一時参戦である。




—————————————————————————————————————




「こ れ で す の!!」


「なんじゃ一体!?」

 

 閉店した回転寿司屋の店舗内。

 そこを買って隠れ処の一つとした、知性ある化生けしょう共。

 

 勝手にレーンを稼働させ遊んでいる小学生男児と、その上をルームランナーのように走る道化は話す気ゼロ。

 

 よって聞き手は一人しかいない。

 店の中心、板前スペースに設置された、テーブルと椅子を組み合わせた玉座の上から、金髪の童女がうんざりしたように問う事になった。


「思いつきました!思いつきました!思いつきましたのオオオオオオ!」


 支離滅裂気味な長身ゴスロリ女の高域奇声からは、何の答えも戻って来なかった。


「メガサウリア!!コラこのフリーク!偽装も隠蔽も完璧の自負はあるが、それを差し引いても周囲に無頓着過ぎるわ!言いたい事があるなら順番に、一つずつ、静かに言え!」

「オオオオオオオオ!」

「オヌシら今すぐこのオペラ風味騒音公害を止めろ!」


 童女が命じたその時、言われた二人はレーンの上で皿乗りジャグリング輪潜りに夢中であり、何一文字も返事を示さず、他ならぬ彼女が会話しなければならないと知らしめた。


「これ!これこれこれ!これぇっ!」


 彼女が指し示すのは、事前に童女が配布しておいた共有用資料、例の“寵愛対象”のスケジュールであった。

 そこに書かれた時間軸の一箇所、10月の中旬から下旬に掛けて、両方向矢印が伸びている。「深級遠征」「対象参加確定」、その下にはそう書いてあった。


「ワタクシ!思いつきましたの!ここなら舞台にピッタリですと!」

「はぁ……?」


 やれやれと息を吐く童女。


「その硬さばかり立派な頭を使つこうて、よおく考えてみい?」

「考えましたの!」

「ほうかほうか、偉いのお?じゃがもう少し考えよ。確かに、外にリアルタイム配信はせんだろうから、一般大衆からは隠れられるじゃろう。そこは良い気付きじゃ。じゃがな?通常と比べ平均能力の高い集団が、奮ってこぞって潜っとる間に、妾達がノコノコ出向いてみぃ?」


 「目撃者ゼロなぞ不可能じゃ」、

 彼らは数と連携で、明確に人類より劣っている。存在自体が門外不出。それに素人でない連中に、ついこの前補足された事も確かだ。これ以上波を荒立てたくない。


「妾達はただ強く叩いて回れば、将来安泰というわけではないのじゃぞ?軽挙妄動を可能な限り慎み、ここぞ!を見抜き最効さいこうの一手を——」

「何の話をしていますの?」

「——なんじゃと?」

 

 童女はゴスロリ女の目を見る。

 それは確かに、言い争いを始める者のそれではなく、噓なく本気で理解できないというキョトリとした顔であり、



「ワタクシが申しているのは!あの器を試し!上手く運べば他を見つける機会が来たということですの!」



「なぬぅ……!?」


 良くない予感に、眉根が接近し続ける童女。


「生き残りがどうのですとか戦争がこうのですとかイリーガルの未来ですとか知ったこっちゃねえですの!お姉様が全てにおいて優先される!これだけは確かな事ですの!」


 彼女はドォッと立つのと連動して顔を上げ、


「こうしてはいられませんの!断固として断行する為にも!現地の下見が必要ですの!皆様失礼致しましたですの!」


 反論の隙間を埋めるような捲し立てと共に何処かへ消えて行った


「ふぅー……!」


 あれが“バイタリティ”。周囲がどうあれ自らを貫く為のリソース、それこそが。

 あれは童女がもう持っていない物だ。「寄る年波には敵わぬのう……」、そう呟かざるを得なかった。


「仲間意識も無いとくれば………、妾、己で己の頭痛のタネを増やしたのやも、しれぬなあ………」


 背もたれにぐでりと海老反りで倒れ込み、毎度の災難に不平を垂れる。


「それも一興。それが“転移住民リーパーズ”、という事かの……」


 元より無い根を、下ろす余所者。


 風吹く先をたがえてしまえば、


 そこでの別れも道理の内だ。













「それとサルタドール。海の泳者えいしゃの死骸がバラされ、並べて流されるこの場所に、オヌシから思う所はないのかえ?」

「え?……たのしーね!」

「涛々《ドウドウ》流れる切り身の急流!堂々巡りの勤めの収入!」

「ドードー!ドードー!アハハハハ!」

「ああ……そう……、そうじゃな……」

「何ー?なあにぃー?」

「オヌシがそれで良いなら何でもいい事じゃ。気にするでない」

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