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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十一章:大事な物ばっかり目に見えないのはどういう不具合ですか?

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283.いつの間にかデッカくなってる

「導く?って?」

「そのままの意味さ。君は視聴者を、何処に向かわせたいのかな?」


 いきなりスケール感が2、3段くらい飛ばされた。


「えっと、よく意味が分からない、と言いますか、僕はまだ、人を導けるような人間じゃないですよ?」


 ニークト先輩じゃないけれど、単なる見世物ってだけだ。


「いいや、それはない」


 けれども披嘴先輩は首を振る。


「君は導いている。配信者を、インフルエンサーを、檀上を、エンタメを志した時点で、君は人を扇動している。もし『していない』と言うなら、それは認識が甘いと言わざるを得ない」

「そう、なるん、ですかね……?」


 確かに、俺が戦う姿を見て、誰かに感動して欲しい、元気になって欲しいと、そう思ってやっている。それは一種、その一瞬だけでも、人の感じ方、心を操ろうとする行為で、だから人心の操作とか誘導とか、広い意味のそれらに含まれると言える、のかも?


「いやー……、でも、ほんと素朴な感じで、『楽しんで貰いたい』、それだけですよ、ほんとに。ススナーさん達に何か特定の事をさせようとか、とてもとても」


 漏魔症の印象払拭の為、という大義名分を持って来てくれた人達も居たが、俺はそれもしっくり来なかった。なんか動かす方向を限定するのって、乱暴な気がして。


「それは、日魅在君」


 先輩は言う。


「それは無責任だ。そして、危険だよ」

「危険、ですか?」

「ああ、とってもね」

「いい加減にしてください!先輩と私達のやり方が違うっていうのは分かりますけど、それを」「ミヨちゃん、ごめん」

 彼女が俺の為に怒ってくれているのは分かるんだけど、

「ちょっと、聞いてみたくなったから、続けさせてくれないかな…?」

「………」

 ミヨちゃんは自分の意思に抗い、力を籠めて口を閉じて、

「むぅ……」

 腰を下ろした後にむくれてそっぽを向いてしまった。ごめんね、ホント。

 俺は再度、披嘴先輩と目を合わせ、

「俺の何が、危険なんですか?」

 正面から聞いた。


「力への無自覚性、それが問題だよ」


 彼は言う。


「君の目の前から、人が歩いて来る。君はどうする?」

「道の構造によりますけど、横にズレて擦れ違うか、一旦止まって道を譲りますね」

「そうだ。それは君が体を持っていて、『歩く』という“行為”をしていて、そのまま進むと相手にぶつかって怪我をしたりするから、それを避ける為だ」

「そう、ですね」


 特に疑問を差し挟む余地の無い、普通の行動だと思う。


「じゃあ、例えば君が、自分が相手とぶつかる事を、分かっていなかったとしたら?」

「分かって、」

      いない?

「って言うと…?」

「君は自分が歩いていると思わない。体を持っていると思わない。それか、そのまま行けば体がぶつかると計算できない」

「それは、有り得るかどうかは別として、そんな状態だと、そのまま進んじゃうと思います」

「それが有り得てしまうんだよ。理由は簡単で、自分は傷つかないからだ」

「傷つかない?」


 「つまり、強者であるほど人にうっかりぶつかりやすい、って事さ」、披嘴先輩がそう語る横で、丸流先輩はトルティーヤで包まれたタコスを、「これってクレープ扱いに入るんですかねぇー?」とか言って口に含む。


「人が何かを避ける時、それは危険だからだ。そして、自らの身に降りかかる物には、特に敏感になる。逆に言えば、自分が他者に危険を振り撒いていても、自覚するのは難しい」

「それは、分かります」

「道を歩いている時、目の前に障害物があれば、避ける。けれど例えば、そのまま放置しても、取るに足らないダメージしか受けないような物なら?あるとさえ気付かないような物なら?」


 石を蹴飛ばすように。

 蟻や雑草を踏み潰すように。


「そのまま進んでしまうんじゃないかな?」

「そう、ですね」


 自然とそうなる。


「僕が危惧しているのは、まさにそれさ。人間は自分の持つ体と、歩いて誰かと行違うという行為に、とても鈍感になる事があるんだ」


 そうと知らずぶつかって、そう思わぬまま傷を負わせる。或いは、進行方向を変えてしまう。


「車を初めて運転すると、どこまでが車体か分からない、みたいな話ですか?内輪差的な」

「それも近い。つまり、テクノロジーによって、人間が持つ“自分”の広さは、生物学的な物を遥かに逸脱している、という事さ」


 言葉が、メディアが、インターネットが、人の身体をどこまでも巨大にする。人間はその末端にまで、知覚を巡らせる事に追い着いていない。


「そして、僕達ディーパーは、特にその傾向が強い。魔力と魔法という物のせいで、“人間”というカテゴリ内で、屈強さのバラつきが激しくなってしまっているんだ。相手も自分と同じ人間だから、このままいけばどっちも損傷しない、と強者は考えてしまう。共感性の欠如した人間の完成さ」

 

 強者であるほど他人の痛みに鈍感になる、自分がちょっとやそっとじゃ応えないからだ。


「つまりね、インフルエンサー、特にディーパーって奴は、頑強でデッカい体を持って、自分が平気だからとズカズカ進んでしまうんだ。身体強化が筋力のリミッターを外してしまうように、通りを歩く際のブレーキというのを忘れがちになる」

「……先輩が言いたいのは、僕達は確実に誰かにぶつかる程のやたら大きな体を持ってて、しかも気を付けないと人にぶつかった事にすら気付かないから、そうなるよりは自分の巨大さを理解した上で——」

「その性質を、『正しい方向に導く』事に使わなければならない。人にぶつかる時、せめて良い方に飛ぶように。それが僕達巨人の責任なんだ。目的なき巨体ほど、恐ろしい物は無い、違うかい?」

「『正しい』って何ですか?」


 ミヨちゃんがますます眉の根を寄せる。


「先輩達みたいに、ディーパー同士のトラブルまでコンテンツ化する事が、『正しい』んですか?独善にしか見えないですけど」


 二人の配信は、ディーパー同士の関係性を話題にする事も多い。仲良しこよしな場面だけでなく、裏のいざこざまで見やすく提供する、というのが一つの強みだ。勿論公開は出演者全員の許可を取っているだろうけど、俺やミヨちゃんみたいに、“挑戦”や“攻略”をテーマにしている、マイナスを見せないようにエンタメする事を目指す層の中には、良く思わない人もいる。

 正直言うと、俺もちょっと苦手だ。ミヨちゃんとパーティーを組むのを渋ってたのも、外野がそういう面倒を娯楽にしてしまうかもしれなかったから、というのもある。いやまあ低級狩りの一件でファン増やした俺が言うのもブーメランっぽいけど。


「先輩は数字が好きなだけでしょう?カードゲームとか課金メインのソシャゲでもやってたら良いんじゃないですか?」

「『数字が取れるから』、それはそうさ。収支も増えるし、間違いに毅然として言い返す力が手に入る。基本は良い事づくめだ。その副作用である“波及効果”も、出来るだけ悪いものにしないようにと、自分を律する必要がある。“正義”を持っておかなければならない、そう言っている」

「喧嘩を観戦させて、どう人を導くんですか?」

「現実を見せる事が出来る」

「ディーパーナメてるコ達に、簡単じゃないんだぞー?って言えるんですぅー」


 アイスティー片手に自撮りしながら、丸流先輩がそう挟む。


「それでもやりたい、って人達は、ウチら見て学んでくださーい、みたいなー?」

「浅い層を中心に活動するのも、その為さ。ビジュアルで売っている事は否定しないが、逆にそれをやれるのはこのレベルまで、という線引きをハッキリ刷り込んでいる。ディーパーの人手は確保しつつ、深く潜らなくてもコンテンツを作れる事を示し、安全な潜行を流行させようとしている」

「それが、先輩方のスタンス、ですか?」

「そうだね。その視点で行けば、不可能に挑戦しようとする君達の方が、危険行為を奨励していると言えるんだ」

「それは違います!中々出来ないような事をやるからみんな感動するし、出来た人が評価されるんです!何かに挑戦する原動力になるって言っても、みんなでダンジョン深層に行って命を懸けろって言ってるわけじゃないですよ!そんな事言ったら、スケートボードの競技とかが街中での怪我を増やす危険コンテンツ、って話になるじゃないですか!」

「彼らはプロだ。だけど僕らは職業ですらないディーパーで、同列になる事は誰にでも簡単に出来る」

「ランク制度はその為にあるでしょう!」


「けれどそこの彼は未だにマイナスランクだ」


 そう、俺は昇格を正式に却下されている。わざわざ名前をピックアップされて、正面から。


「彼は配信中、自分の真似を促すような発言を繰り返している」

「それは……」


 最近は流石に、自分のやってる事が誰にでも出来るレベル、なんて思っていない。ただ元から配信での決めゼリフみたいな感じで、ススナーさん達からの期待の目もあって言ってるだけで、つまりは「そういうネタ」だ。


「ある芸人が、架空請求をモチーフにしたコント動画を上げた事がある」


 俺の弁明に対し、先輩は例示する。


「人気のグループで、登録者も100万に近く居る。元々彼らの持ちネタの中で好評だった物を、音声の質感等に拘ってリメイクしたものだ。その反響は、どうだったと思う?」

「どうって、普通に喜ばれたんじゃないんですか?元々人気のネタだったんでしょ?」

「複数のアカウントが、現実と異なる箇所を指摘しながら、『再生数稼ぎのヤラセをやめろ』、そう言って来た」


 概要欄をよく読めば、動画のタイトル、チャンネル名、どれかで検索を掛ければ、彼らが芸人で、それがネタだと分かるのに。


「君が『ネタ』をやったとして、それを真に受ける人間が、何割居ると思う?」


「そんなの、ススム君のせいじゃないですよ!何処の業界にも居ます!歴史小説で読んだ事を史実の知識として語っちゃう人とか、今に始まった話じゃありません!概要欄をちゃんと読まない人は、ファンじゃないですよ!」


「けれど巨人は、そういう客ではない誰かにも見られるんだ。そしてその割合は低くとも、数は多くなる。何せ本体が大きくて目立つからね」


「そんな人達まで、なんで面倒見なきゃならないんですか?」


「彼らを制御しなければ、社会に迷惑が掛かる。そしてその反動で、迷惑を掛けた集団に矛先が向く。その集団は巨人の信奉者を名乗る。結果、利害で言っても君に良くない事になる」


「放置してるとかだったら、百歩譲って分かりますけど、元から注意してる事に違反してる人を、こっちの勢力の一部扱いされるのは違うと思います」


「それを聞いてくれる人が、今度は何割になるだろうか?恐らく巨人を庇う人数より、多くなる公算の方が高い」


「そこまでしっかり制御出来てる人なんて、いないですよ…!」


「誰も出来なかったという話と、やろうとしなければならないという話は、両立するよ?」


「その為にやる事が、数字稼ぎなんですか?影響力を大きくするのって、先輩の危機意識と矛盾しませんか?」


「いざという時味方になってくれる人数を、つまり本来の方向性を示す人数を増やす事は重要だよ。間違った流れがあれば、それを圧し返し、塗り潰し、訂正する力となってくれる」


 けれど方向を示していなければ、それは集団意識だけがある、バラバラで無秩序な暴徒になってしまうと言う。何かをしようと力にならず、ただ被害を広げながら自壊する、爆弾になると。


「だから、君の方針を、どう導くか、何を正しいとするのか、それを決めないといけないんだ」

 

 「そして僕らは、それを聞いておかないと」、

 そしてその内容によっては、俺は彼らの「力」だか「正しさ」だかと、敵対する事になるのか?


 二人が俺を見極めようとしている、その意味がやっと分かって来た。


 今俺は、仮想敵にもなり得る場所に立っているんだ。

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