表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十一章:大事な物ばっかり目に見えないのはどういう不具合ですか?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

425/984

279.一番近くて一番遠い

「人体と宇宙、どちらが先に解明されると思いますか?」

 

 またいつものおしゃべりだ。時間が無いと言うのに。

 しかしこうも根を詰めていると、作業効率が下がって来るのも事実。気晴らしが必要なのだろう。つくづく8年前の、遠山喜三郎の死亡が悔やまれる。人手で言えば百人力な上、橋渡し役としても優秀な男であったのに。

 カミザススムと明胤生の決闘記録。数十人をけしかける事で手に入ったそれに、片端から目を通し続け、それでも仮説はその域を出ない。

 だから彼は、与太話で頭を休めようとした。


「普通に人体だろうが。『考える葦』だとか言って、つまり宇宙と比して人間様々なんてのは、凄まじくちっぽけって事だろ?競争が成り立たねえよ」

「本当にそうでしょうか?」

「違うのか」

「違う、かは分かりませんが」


 科学者という奴はすぐこれだと、男はそう悪づく。何でも物事を確定させないように立ち回り、解釈の余地があるのではと重箱の隅を突いて引っ繰り返し、その隙間に何かを詰められないかチマチマ調べて一生を終える。

 宇宙がどうのと言う前に、国や企業の在り方、モンスターの脅威を調べる方が先だろう。いつか解ければ良い浪漫と違って、彼が扱うのは直面している危機だ。ダークマターとやらを証明した所で、経済戦争に勝てはしない。

 

「『考える葦』という言葉は、人間の矮小さと共に、人間の可能性を示す物です」

「可能性?」

「宇宙の中で人間は、葦と同格に区分して良いくらいにちっぽけな物。それはそうでしょう。ええ、誤差の範囲です」


 けれども、


「人間は、『考える』のです」


 「ええ、考えるのですよ」、白取は繰り返す。


「人間は葦と選り分けられない癖に、宇宙と向き合う生物です。“思索”という武器を使って」

「宇宙と、向き合う、だあ?」

「そうです。我々の身近な場所にも、宇宙あり、です。何せ全てが繋がっていて、同じ法則の下に動いていますから」


 意味があると言うのか。

 星屑の運行を調べる事に、為替相場の上げ下げを予測するのと、同じ価値があると言うのか。金は人を救うけれども、星は何もしちゃくれないのに。


「人間は、人間という種について、何も分かっていません。これは、悟伝教の解釈が最もしっくり来ます。曰く、万民に共通する正解は無く、個人個人に処方箋のように、異なる適切な教えがある」

「……考える、からか?」

「そうです。ええ、考えるから」


 人の脳は様々な嘘を作ったが、“自分”という物はその中でも、飛び切り奇妙な発明だ。


「人の意思とは信号の羅列。ただし、その組み合わせは無限大。終わりなく続くという意味では、人間も宇宙も同じと言えます」

「何かを見落としているだけだとも思うがね。一銀河一星系内、一惑星の一生物種風情が、そこまで大したモンだとは思えん」

「けれどもダンジョンという現象に、人間が、その意思が優遇されているのも、また事実です」


 そして人体には、間接的にしか見る事の出来ない“魔学的回路”がある。


「脳が生んだ自己と、ダンジョンが生んだ魔法。それらは密接に結びついている。宇宙を解く時、人間がそれらを自動的に、完璧に理解出来るでしょうか?例外的な法則が、神秘が介在しないと言えるでしょうか?」

「お前はダンジョンが形而上学だという論には、否定派の立場を取ってなかったか?」

「ええ、それはもう。ですが」

「『疑う事が仕事』、か?」

「“可惜夜ナイトライダー”は世界の秘密を握る。一方で、その在り方は我々の思念に、恐怖や願望に依存している」


 「あべこべです。ええ、主客が分かりません」、

 どちらが主でどちらが従か。

 どちらが本でどちらが末か。

 鶏と卵は、どちらが先か。


 世界が人間を作ったのか、人間が世界を作ったのか。


「宗教家が言いそうな事だな。地は平で、太陽は俺達を中心に回る。酷い思い上がりだ。幾ら魔法が使えても、地球の形は変えられない。銀河系ならもっと」

「そう、でしょうか」


 魔素、魔力、魔法。

 それらが出来る上限とは、果たして何処か。

 魔素観測すら間接的な人類科学には、その理論さえ確立出来ていない。


「何かを見逃している、そう思えてなりません」


「何かってのは何だよ。それが問題なんじゃねえか」


「我々は“可惜夜ナイトライダー”の事を、全知全能に近い物だと考えている。しかし、それは逆で、我々がそう思っている、そうであって欲しいと求めたからこそ、あれはそのようになっているとしたら?」


「先生よぉ?凄い事言ってねえか?“可惜夜ナイトライダー”は俺達の願望器か何かか?擦ったら何か出て来んのかよ」


「或いは、願望器が生み出した物だとしたら?」


「それこそあんたの願望だろ。話がシンプルになるからな」


「重要なのは、彼女が如何に我々の想像と同じなのかではなく、」


「おーい?どっか行っちまったかー?戻ってこーい……?」



「彼女の何処が、我々の偶像と()()()()()



 並んでいた端末の一つに、白取は流出ご法度の映像を映す。

 三都葉から提供された、『カミザススム伝説の8層配信』、そのアーカイブの削除部分である。

 その姿に魅了される事を恐れ、けれども忘れる事も出来ずに、表向きには全動画が削除されながらも、ダークウェブでのアップロードは今尚後を絶たないと言う。


「彼女……いえ、()()の容姿……」

「おい、どうした?」

「何故右眼が隠れているんでしょうか?」

「右眼?」


 上下が逆なモノクロの美少女は、薄いヴェールの更に内で、純白の髪により右眼を覆い隠している。


「隻眼、或いは単眼という属性は、どこで与えられたのでしょうか…?」

「……少し待て…!」


 男は記憶の引き出しを開けては中身を床に撒く。


「いや、そんな記述は無い。が、忘却された可能性も、いいや、」


 伝承がその形を作っているなら、


「忘れられた時点でその特徴は失われている?」

「であるなら、つまり、」

「右眼を隠している事には、大きな意味がある」

「9割です。あなたの“仮説”、9割5分まで来ています……!」


 カミザススムは時節、猫のように何も無い空間を注視する癖がある。

 ニークト=悟迅・ルカイオスとの決闘時には、試合途中で劇的な戦闘スタイルの変化を見せた。

 彼にだけ別の光景を見せる、どころか、一瞬の内に大量の情報を流し込めるのだとしたら?男の仮説は、「カミザススムの脳に近い部位に、“可惜夜ナイトライダー”の遺物があるのではないか」という物だ。

 特に右眼の瞳孔だけが、独立して動いているタイミングがあり、彼はそこが「クサい」と見ていた。


 その流れがあっての、「“可惜夜ナイトライダー”の右眼特別説」。

 

締め切り(デッドライン)に、間に合いそうになって来たな」


 当てのない旅の途中、地図に目的地が描き入れられた。


 男の腰は完全に上がり、後は最後の詰めと、



 実行あるのみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ