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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十一章:大事な物ばっかり目に見えないのはどういう不具合ですか?

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277.お、おぉう……… part2

「私の父親」



 トロワ先輩が、他の誰にも顔を向けず、正面を見ながら口にした。


「馬鹿な男なのよ」


 みんな予想外の展開に、ギョッとして黙ってしまう。乗研先輩の後を、彼女が繋げるなんて。


「貴族だったら何でも出来るって思い込んでて、その家族も何不自由なく幸せだって、本気で信じてた」


 丹本に帰化した外国人の中には、祖国での政争に敗れたディーパーの名家も多い。彼女の実家もそのパターンだったのだろう。


「女にだらしのない男にペコペコして、あちらこちらに借金まで拵えて、それで『男の世継ぎが居れば』なんて断り文句を間に受けて、そこで長年の不妊治療が丁度実を結んだもんだから、さあ大変」


 愉快そうに語っている、彼女の横顔は、


「でも母さんはそれまで以上に体調を崩しがちになって、それなのに二人の愛の形を残したい、死んでも生むなんて言ったらしくて、でも結局途中で私って、女の子だって分かるでしょ?何でその時()ろさなかったのか分かんないのよ。父はよくその事で母を責めてたんだけど、いや産む前にもっとよく言ってやれば良かったのにって、いっつも思ってた」


 どうしてかとっても、眩しげで。



「私を諦めてたら、その後もそれなりに生きて、元気に男の子産めてたかもしれないのに」


 

「……え………?」

「父は私の不満を感じ取って、だけど方向音痴な頑張りしか出来ないのよ。馬鹿だから」


 「自分の娘が棒きれ振り回してるのは、貴族で居続けたいからだって、疑ってなかった」、唖然とするミヨちゃん、いや、その他全員を置いて、いつものように勝手に進むトロワ先輩。


「そんな馬鹿でも、恨み言は子どもの前では言わないようにする、っていう理性はあって、夜な夜な泣きながら母さんの写真にぶう垂れてたわ。『どうして男を産まなかったんだ』って。可笑しいわよね?後からさめざめ泣くくらいなら、生前に死ぬ気で説き伏せればいいでしょ?子どもを傷つける八つ当たりだって自覚があったのに、隠し方が雑で肝心の娘にしょっちゅう覗かれるでしょ?そんな為体ていたらくなクセして貴族でさえいれば、妻も子どもも幸せに出来るって信じてるでしょ?もうホント馬鹿」


 男が嫌いだと、彼女は言った。


「私が男じゃなかったってだけで、母さんの最期を犬死ににした男社会が嫌い。馬鹿な父が、その父を見下して贅沢三昧してた男が、みんな嫌い。男じゃなかった自分が嫌いだし、そんな事思わせる“男”ってヤツが大嫌い」


 けれども、


「あれでも、愛してるのよね。馬鹿なりに」


 彼女は身体を少し倒して、乗研先輩の方へ振り返る。


「あなたの親御さんも、お兄さんも、きっとそう」

「………」

「私、今度父と二人で話をしようと思う。あなたもどう?きっと受け止めてくれると思うわよ?」

「………どうしてテメエが断言出来んだよ」

「あら、あなたを見てれば分かるわよ。家族についての話をするとき、温かい何かを連想してるように見えたわよ?それに何より——」


——小賢しい癖に狡猾になり切れない、

——馬鹿正直なあなたを育てた人達なんだから


 今まで見た彼女の中で、一番柔らかな表情だった。


「あーしの家さー、色々とクソなんよ」


 六本木さんも、外に目を逃がしながら腹を割ろうとしていた。


「DV?つって良いのか知らんけど。ジジイは、あ、親父な?医者だからって威張って、不倫しまくってババアのセーシン崩して、ジイちゃんは生まれがエラいとかサガる事抜かして、バアちゃんもババアもあーしの事もよく蹴るし、ヒスったババアは周り見下しながらとりま偉くなれや、詰め込んどけみたいなキョーイクホーシンの信者になるしで、ガチ無理」


 え、ええ……?

 それ無理って言うか、普通にダメな奴じゃない?疑いの余地なくDVだよ?シャン先生、これ出るとこ出たらなんとかなりません?


「で、兄貴がマジ天才で、ありえんくらい期待されてて、ハードル爆上がりなせいもあって、あーしの事は見えてない説アルコアトル、みたいな?」


 みたいな?じゃないが。


「もうクソofクソ。トロワパイセンがよく言うカフチョーセーがどーのとかみたいに、イミフにエラいヤツらっていいわー!生きてるだけで偉い天才様はメチャモテイージーモード?とか思ったりもしたんけど」


 彼女は恐る恐るといった様子で、先輩の方を横目で見て、


「勝手に『天才』っつってアゲられて、楽々生きれるって期待されんのって、結局しんどいっしょ。兄貴はそれでキャパ超えちったから、それキツいって、あーしはわかるんだよね」


 それからしっかり身体全体を向けてから、背筋を伸ばして、


「おつかれさまでした、ノリド先輩」


 深々と頭を下げた。


「他より強くて、普通じゃない人の役、もう降りても良いんじゃないんスかね。パイセン、ただダチと爆盛バクモリたかっただけの、何処にでも居るコーコーセーって奴じゃん」


「………うるせえ、……一丁前に人生の先輩面かよおい………」


 先輩は机上に置いていたサングラスを掛け直して、幾つか後ろの席に移動してから、俺達に背を向け足を別の椅子に乗っけて、精一杯悪ぶって座っていた。


 その両肩が震えている事は、


 みんな指摘しないでおくことにしたようだった。


















「あ、六本木は事情聴取するぜ」

「は?なんで?」

「いやそうなるでしょ」

「ぽんちゃん、大丈夫?無理してない?私相談乗るよ?」

「男性器を潰す手伝いならするわよ?」

「コワー……」

「六本木、俺の名を利用して愚か者共を脅す権利をやる。俺は心が広いからな」

「ぎゃあああっ!?真剣にこっち見んな!名前を使うってゆーのもやめろ!」

「俺は真面目に言ってるんだ!」

「こいつは丸デブこいつは丸デブこいつは丸デブこいつは丸デブ………」

「沼ってて……ウケるー……」

「ムキーッ!ニークト様に気遣われるなんて!恨めしやッス!」

うらやめ八守ィ!それだと肉体を失ってるぞ!」

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