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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十一章:大事な物ばっかり目に見えないのはどういう不具合ですか?

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273.思い通りにはいかせない

「こうなるより前に、止めてやれれば良かったのだがな」


 白い虫に集られ折り重なるように倒れ、その巣に改造されている最中の生徒達を見下ろして、遠山は半ば独り言のつもりで声を発した。


「諸弟らの処理には反対だったが……“機”が訪れてしまっては……否、詮方無い事であるな」


 史上最大クラスの災害、それも窟災だ。

 人を密かに殺すのに、これほどまでに適した舞台があるだろうか?


 彼が二人の近くに居たのは偶然ではない。監視の為に追跡していたからだ。いざ見つかってもその身分なら、「生活指導」の名を借りる事が出来る。

 だが二人が隠れていた地下に彼が辿り着いたのは、天地神明に誓ってまったき偶然であった。

 それまでは避難協力として動いていた彼は、二人の姿を見つけるなり、頭が完全に切り替わってしまった。


 これは世の流れがそう導いている。

 「今なら問題を完璧に解消できる」、と。

 

 強さが未知数であった為に戦闘を避け、聖域に幽閉していた推定W型2体を使い、遂に“大災害による不幸な死”を偽造する事に成功。彼はその即席仕事の出来に満足していた。

 

 後は、あの避難所に居た人命をどうするか、という点であるが、


「致し方無し。大儀の為だ。その辺りの奴をけしかけておくとしよう」


 この二人の死によって、彼は如何なる疑念も被ってはいけない。監視カメラは避けておいた。この後に更に念を入れて潰しておくつもりだ。万全を期すなら、人の目と記憶も同じように削除しなくては。

 彼は聖域の外、内側の獲物を見失ったW型を無感動に視する。


「あれでいい。1匹を縊って」「優しさ、か……?」


 「む」、遠山は再度腰を落とし、両拳を地に着ける。

 

「それとも、油断、かよー…?」


 カリっ、カリリっ、

 指が地を引っ掻く。


「……なんと、未だ意識があるとは」


 吾妻が、うつ伏せていた顔を、僅かに持ち上げた。

 魔力容量が特別大きい事は知っているが、まだ吸われ尽くしていないのか?


如何様いかように処するか…」

「しょ、するー……?」

「その不屈、深く感銘を受ける。されど、然れども、吸い尽くされて果てるより他なきところ、某に轢き殺されるやもしれなくなった、その程度の違いであると申し候」

「そー、かい……?」

「左様」


 ここでまだ戦おうとする未来あるともがらを、若い身空みそらで絶やさねばならない事を、遠山は深々と無念がる。


「素晴らしき明日よ、さらば」

「俺はよー…、繋いだ、だけなんだぜ……?」

「………?」


 引き延ばし、遠回しの命乞いか?

 彼らの蛮行は、「繋いだ」という一言では済まないものだ。


「さっき……あ、死ぬなって…、確信があってよー……。イヤだぜ…?当たり前に、イヤだって思ったんだけどな……」


 遠山の側に出していた左腕を曲げ寄せ、それで地を押して、体を起こそうとする。

 残った魔力が高まっている、が、その色が、彼女の髪色とは違っている。


「まー……危ねー橋ばっか、選んできたかんな……。こーなっちまうのって、仕方ねーのかもなー、つって、ミョーに諦めが、ついちまったんだよ……」


 黒色。

 それが全身から立ち昇る。

 しかし気配の高まりを嗅がされても、ゴキブリ共は勢いづかない。吞気に変わらずお食事気分だ。狩りを再開する気配が無い。


「だからこの際……、色々と試してみたく、なっちまって、ダメもと、ってヤツ、やってみたんだがなー……?」


 何故だ?

 彼女が攻撃を準備していると、モンスターの欠片でしかない下等生物、いや生物未満であっても、分かる筈なのだ。

 どうして止めを刺さない?追撃を激しくしない?


「『繋がった』ぜ。こーゆー事、だったんだなー……?」

「モンスターの手に掛かるのが、物証排除の視点でより望ましかったのだが、是非も無し、か」

「俺の魔法、空間によ……、穴を開けて、たんだなー……?」

「某が直に、引導を渡してやろう」

「やっと分かったぜ。俺が何を魔法にしたのか」

フンッッッッッ!」

 

 彼は人二人なら纏めて簡単に散りばめられる、在来線より強烈な突撃を撃ち、

 彼女は突然、ガバリと膝立ちにまで復帰した。


「“何でも入る不思議なポケット”、そうだ、それが欲しかったんだ」


 「良い漫画だよなー?あれ」、吾妻と乗研の体で遠山から隠されていた、彼女の右手。その掌の上に黒い楕円が浮いており、そこに一つの破片が上から吸い込まれ、それが瞬時に上にあったもう一つの黒から排出され、またも下の歪曲に呑まれた。


「“虚ろ是れ世の母なりオーム・マキャーラ・スヴァーハ”。極限だ」


 吾妻が魔法でもう一つ黒を生成。

 だが早過ぎる。もっと引き付けるべきだ。

 それを避けて張り手を打つくらい、遠山には造作も無い事。


「加速はもー、終わってんぜ?」


 黒い穴が彼女の顔の前に生まれる。

 遠山は気配でそれを見切って、


 彼女の右手、そこにあった穴の一つが消えている事にも気が付き、

 重力加速度によって空気抵抗下の限界ギリギリまでスピードを増した一欠片(かけら)が、

 「ぷぎゅ」その額にめり込んでいた。


「つな、ぐ………」


 穴。

 空間の穴。

 別の場所へと繋がる間隙。

 ここではない何処かがあって、そこへの出入り口を二つ用意して、上下関係をあべこべにして設置したならば、

 こちら側でも上から落ちて、向こう側でも上から落ちて、それを繰り返し加速し続ける。見えるのはたった数cmの高低差だが、底無しの宙空と同じ事。

 そして向こうからこちらへの出口を移動させ、彼に向かって水平発射させた。

 身体強化と魔力操作によって作られた最高級の突き倒しと張り合った結果、地球に惹かれた飛び道具の方が勝った。或いは、遠山が豪速だったからこそ、逆に強く受ける事になった。


「しん、か……?」


 ぐるんと後ろに仰け反り倒れ、受け身も取れずに後頭部を打つ遠山。


「この結界内で、魔法が使われたらすぐ分かるよーになってねーの、キメーぜ?」


 黒い魔力でゴキブリ共を振り落としながら、彼女は言う。


「隠蔽だとか謀殺だとかに熱心なヤツがよー……?そこで今更フェアプレー気取ってんじゃねーよ、バーカ」


 遠山に黒星という勝敗決着により聖域は破られ、W型が土足で踏み入って来る。

 1匹は吾妻を狙って、黒い魔法に頭を乱切りにされた。

 もう1匹は幸運にも遠山に喰い付いた為、人一人をバラすだけの猶予を手に入れた。

 数秒の延命など誤差の範囲、と言えばそうだが。


「スッキリだぜ。俺達おれたちゃ、もーしばらく楽しめそーだぜ?リュージ!」


 彼女は清々しい気分のままに、


 相棒に向けてニカリと歯を見せた。

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