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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十一章:大事な物ばっかり目に見えないのはどういう不具合ですか?

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272.既知の強敵と未知の凶敵

「“域方カタトミ”、まずは薄っすらと、一片だけ、一方だけ」


 遠山の簡易詠唱。

 土色の線が足下から二又に伸びてある点で合流、四角い枠を作る。


「やられた!」

 

 乗研がくうにタックルするが、既に結界は作られた後!魔法壁に撥ね返される!

 これは指定した物を指定した方向のみ通すタイプの「区切り」。指定物の範囲が広い程拘束は緩くなる。逆に言えば彼ら二人のみを対象とした今は、相当な強固さを手に入れている!


「“時空は俺の手の中ダヘィティアン・キャーラ”!リュージ!そいつら押さえろ!」縦にした拳を合わせ完全詠唱!ヴァーミリオンのひずみを複数展開しW型を攻撃しながら防壁を削ろうと試みる吾妻!「“罪業と化ける(ファーヴ・ナッ)「落第点」ゴヴぉッッ!!なにぃいいい!?」乗研が打ち付けようとした右手が諸手突きによって本人の胸にめり込む!「自由にやる事を許されると思っておるなら、見通しがなっておらんと申し候」W型の1体がそこに滑るように迫る!「当たらッ!?」吾妻は空間歪曲が相手の魔法に触れていない事を感知!「俺の魔力も素通りするようにしてるのかよ!」縛っているのは肉体だけ!「だったら地面のラインを直接「ていもだ吾妻」むごぉうっ!!」ぶちかまされ境界と肉鈍器に挟まれる!「一手だ。それしか許されておらん。二択を外した時点で手遅れと申し候」脊椎と肋に罅を銘じられる!

 

〈キッシシシシシシシシシシシシシ!〉


 W型が呼び掛けを続けながら頭を低くしてゆらりと寄る!「させねえっ!」ガキン!犬歯が噛み合わされる直前に下顎を蹴りつけて咬合されるのを免れる乗研!そこに麻縄で作ったような輪っかが右の袖から発射!捉えられる前に転がって回避!内側に歯が付いており絞められる事で噛み千切られる作り!更にスカートの内からゴキブリに似た白い昆虫型の飛び道具が連射される!「“罪宝ナックル”!」地を進み彼を目指すそれらを黄金板に引き付け身を守る!

 

フンッ!!」遠山がその場で四股を踏む事でそちらに撃たれた白ゴキブリ共は吹き飛ばされ全滅!「ッッ!!」低い腰を維持しながら押し進む!突っ張り!乗研の防御の上から体中を揺らす!吾妻はW型を蹴りつけて退かそうとするもゴムを殴った時のような芯に触れない感覚を得るのみ!〈ヒヒヒヒヒヒヒヒー!〉至る所に歯が生えた麻縄を両腕から生やしフレイルのように振り回すW型!更に口は前を向いたまま胴だけがスピンして回転ブランコ式挙動を始める!3人全員が身を屈めモンスターから距離を取る!魔法で攻撃し返そうとした吾妻の腕にその遠心撃が掠める!「は?」魔法に使用していた魔力の一部が急滅きゅうめつして新たな渦を作れなくなる!


「こい…ふ……!?」動揺した一瞬で更に一回肩を裂かれ、舌を動かす力までが失われてしまう!「すって……!」エネルギー吸収能力!それがたった今判明!彼女が未知のモンスターの生態に苦戦する間にも乗研は遠山に再度距離を詰められる!重力が横側に変化したかのような質量の暴!闘牛と違い旋回能力にも優れており横に避け切る事が出来ない!逃げた先へ先へと筋肉達磨が追いかけて来る!張り手に左拳をぶつけながら逸らそうとしてひらりと躱され腕を掴まれる!筋骨を握り砕くかのよう万力めいた拘束!そして自らの間合いの内に引き寄せ左わき腹に右の張り手が叩き込まれる!


「ごっ……!こp!こ゜ぽっっ…!!」赤と黄の入り混じった濁りをいて、しかし捕らわれながらも自らの両の拳を打ち付ける!


            「“罪業と化ける(ファーヴ)財宝ナックル”ゥウウウ…!」

 

 完全詠唱。

 相手の望む物を見せる黄金(輝かしきもの)



                  変身した右腕に

                  金のガントレットを取り付け

                  遠山を殴る!


     遠山は左手を既に離し、

    引いている!

              張り手!乗研の金色が受ける!

                  自壊!

      慣性エネルギーも全て相手方に押しつける!

                  その内に守られていた右拳は

            遮られる事なく進み

      遠山の横っ面に命中!

 だが浅い!顔を後ろに逸らしながらバックステップをする事で衝撃が完全に入っていない!


 しかし距離は取れた。


          二者の間に黄金板が滑り入って来る!


「アホが見てろ!」W型2体の攻撃も閉鎖領域内の反対側に引き付け吾妻を援護!「起きてるか!?」「良い朝だぜチクショー!」魔力の簒奪が止まった事で吾妻が復帰!


「“上下土域建武方刀カタトミノ・ツコウマツレ”」

 

 だが、敵もまた完全詠唱。

 四股を踏んだ点を中心に土色が広がり、描かれた境界は線から面となり、黄金の眩惑効果が解呪される。首を回し見ても景色は無く、土俵だけの狭き宇宙。

 けれどもこれで、どちらかが敗北を認めるか、命を落っことさない限り、外から何物も入る事は出来なくなった。W型も外に放り出されている。

 ここは聖域だ。

 そういう“対等な勝負”をする場所を作る、能力だ。

 果たし合いの白黒が付かない限り——


のがれ得る道理は無い、と申し候」


「ガチンコ、ってヤツかよー……?」

「どっちも完全詠唱、呪いは『勝つまで出れねえ』、上等じゃねえかよ……!」


 瞳に炎を宿した二人が並んで相対した相手は、


「否……」


 ただ殺気を漲らせていれば良かった。


「詰みであると、そう申し候」

 

 分断された筈なのに、W型の気配が、残り香が、まだ漂っている………。

 乗研の耳に、カサカサと細い肢の稼動音が入る。

 小さな魔力が、気付かれず取り付いていた。そちらに目を向け、至近で観察して気付く。

 ゴキブリは白い歯で作られていた。腹の裏にも歯列のような突起がついており、肩に食い込んでいる。頭部は丸く膨れてそのほとんどは大きな口に占められており、〈キキキキキキキキキキ〉可笑しくて仕方がない時の含み笑いを隙間から吹かせた。


「の゛……っ」「わ゛なか゜……っ」

 

 二人は膝を突いていた。乗研の黄金が目を晦ませる事を止めた途端、地に撒かれていたそれらは足下から服の上を登り彼らに歯を立てた。

 

「その吸収能力は、其奴らの特性であり、純粋能力。某がそう見做した」


 よって、呪いではない。

 聖域の無効化対象には含まれない。


「その小さき者共は、戦士ではなく環境である。某がそう見做した」


 よって、「フェアな土俵を用意する」魔法能力で、追い出されない。


「注意深く、魔力でしかと不在を認めるべきであったな」


 彼らは全身そこかしこから、魔力を吸い上げられるようになってしまった。

 新たに溜めては敵の養分となり、身体強化すら満足に行かない。


〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉


 乗研の耳元で、ゴキブリが笑う。

 無力さに指を差して、滑稽さに腹を抱えて、

 お前はこれから虫の餌になるのだと、

 お前は生きながら身動きも取れず、端からジワジワ喰われていくのだと、


〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉


 彼の妄執が、彼の妄動が、

 彼をここまで、この敗北まで、運んで来たのだと。


〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉


 ここで吹かれて飛んだように絶える事が、彼の自業自得なのだと。

 これから死体のように啄まれる事が、相応しいザマなのだと。


〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉

 

 背を伝う肢の数が多くなっていく。

 喉を経由して頬にも手を掛ける。

 肩が重く、肺がだるくなっていく。

 

〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉

 

 服の下にも無遠慮に入り込んで来る。

 皮膚の下に潜ろうとしている奴も居る。

 耳や口から柔らかい内側を目指す者も。


〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉


 どいつにも例外なく言えることは、


〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉


 笑い転げていた、という点だけだった。

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