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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十一章:大事な物ばっかり目に見えないのはどういう不具合ですか?

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262.まあそんな結論なら誰かが見抜いてるよね

「『火事場の馬鹿力』、というのはあながち迷信でも無い」


 殊文君は、腕を組み、手を顎に当てながら、そう話し始める。

 新開部室、ニークト先輩が個人的に気になった事について、彼に相談したのを皮切りに、その場が設けられた。

 あ、一応言っとくと、殊文君からは散々嫌味とお叱りを頂きました。


「人間が限界ギリギリまで力を発揮すると、人体はそれに耐えられず破損する。だから絶えずリミッターを掛け、自滅しないように調整されている。人間のあらゆる能力には、冗長性というものが備わっている。魔力による身体能力向上は、肉体強化と併用しなければ、十全を発揮できない」


 けれど、それが外れるタイミングが存在する。

 ズバリ、生命が危機に瀕した時だ。


「手段を選んでいられなくなった、という事だろう。反動の事を一旦考えず、筋肉が出せる100%を用いる許可が下りる。人の意識的に、追い詰められて必死に頑張ったら、実力以上の力を出せた、といった形に見えるが、何の事はない、我々は常にそれを持っている。ただ使い処を無意識下で選んでいるに過ぎない」

 

 それが「火事場の馬鹿力」。

 土壇場で急成長したように感じる現象。

 学術的に言えば「闘争・逃走反応」。


「しかしながらディーパーの世界では、少しだけ事情が異なる。人体が出せる力と、人体が耐えれる力、その二つの不均衡が『馬鹿力』の原因。魔力によってそれらをバランス良く強化し、100%を出し続ける事が出来るように自らを改造する、そんな彼らには、これ以上伸びる余地などない」

「魔力的成長が無ければ」

「その通りだオニク先輩」「おい何でその呼称が定着している!?」


 そう言いながら元凶に心当たりがあったらしい先輩が睨みつけると、ミヨちゃんは舌を出しながら自分の頭をコツンと叩いた。

 噂に聞く「テヘペロ」と言うやつである。

 あざとい、可愛い、あったまり。三拍子揃っている。

(((減点)))


「魔学の面から言う成長とは、主に三つ。秒間の魔力使用量を増やしたり、体外魔力操作も駆使して攻撃、防御力を引き上げたり、或いは、」


 単位魔力が持つエネルギーが増加したり。


「保有可能魔力量が増える、これは魔力使用量が多ければ多い程、上昇幅も大きいと言われる。つまり、最初から大きな魔力貯蔵庫を持っている者は、効率的に最大値を増やす事が(スケール)出来る。潜行者が才能偏重と言われる理由の一つがこれだ。そのスタートラインに個人間によって大きな開きがある。付け加えて言えば、その成長が始まるのが早いほど、最終的な総量も大きくなる。この学園のように、早期魔法教育が重視される根拠がそれ。

 体外魔力操作についても、回数を熟す事による慣れというのが一番の近道だ。サッカー選手がリフティングを繰り返すうちに、足の何処に当てればボールを思い通りに運べるかを、体で覚えるのと同じように、魔法や身体強化を繰り返す事で、魔力の使い方を理解する。勿論向き不向きはあるが」


 ここまでは、直感的にも分かる。

 問題は三つ目。


「魔力の使い方を変えたわけでもないにも関わらず、それが持つ効力が大幅に向上している、この現象に説明がついていない」


 魔力の使い方が器用になって、身体能力や魔法効果が徐々に強くなる、という事とは違う。ある日いきなり伸びるのだ。

 体内で魔法陣を描いて、魔力を強化する俺のやり方は、これまで無かった抜け道みたいなもの。ああいう事が、いつも通りに魔力を行使してたら起こった、そういう瞬間がディーパーにある、らしい。

 「溜めれる魔力量がいきなり爆発的に増加した」、という話は、通常の成長にプラスして、この魔力自体の費用対効果上昇が合わさる事で、そう見えるという説が有力らしい。

 

 そして魔力の変化は、魔法にまで波及する時がある。

 「効力の増強」や、凄い時には「追加効果」という形によって。


「『深化現象』。ある日急に、潜行者が別人のように変わる事。謎多き急変だ」


 この新跡開拓部が、それに留まらず人類が、法則性の確立に躍起になっている。


「ダンジョン史の始まりから、様々な角度で論じられていた問題だが、その中で最有力とされる仮説が、魔学外での人体の理屈を延長するものだ」

「って事は、『深化』が『火事場の馬鹿力』的な物だって言ってる人がいるの?」

「『論じている人間が居る』どころか、主流派の学説だ。日魅在先輩はどうも知識の有る無しが極端だな」

「魔法すら持ててないから、『深化』とかちゃんと考えた事なくて………」

「それでよくこの部活に入れたな、お前」


 仰る通りで。


「私が強くオススメしたからなんです……。ススム君を責めないで下さいぃー……」

「おほん、先に進めよう。この説の強みは、『深化』のほとんど全てが、戦闘行為から発生している所にある。ご存知の通り、魔法は社会の中で重要なスキルとして扱われている。ダンジョン外での魔力使用規制が強いここ丹本国内であっても、医者や土木分野、危険を伴う物理や化学ばけがく等の実験、山岳地帯や海洋、災害時の人命救助と言うように、ディーパーの平和利用には数多くの前例がある。

 しかし『深化』の発生件数の中で、戦闘行為の中での割合が、圧倒的に多い。乃ち、ダンジョン内や、武装勢力、或いは他国家との殺し合い。『深化』を起こしたいならば、命を懸けるのが最高効率、そういった極論を口にする者も少なくない」


 そして俺達は8月25日、短期間、というか同日内で2回、魔法効果の成長らしきものを目撃した。

 ドーブルと、クワトロ。

 ニークト先輩が気にしていたのはそれだ。「深化」の中でもそうそうお目にかかれない分類の現象が、あの戦場には“複数回”あった。

 

「生命が危機に瀕し、何らかのリミッターが外れ、潜在能力ポテンシャルが引き出されているのではないか。単純だが、辻褄合わせは一番楽な考え方と言える」


 あの日に見た事、そして今の話を聞いた上で思うのは、


「それが普通に正解に思えるけど、でも『説』止まりなんだよね?」

「その通り。まず一つ目、『ブレーキを掛けている理由が分からない』という事」

「魔力は筋肉や骨より万能で、融通が利く。なのに最初から100%使えなくする、機能的な利点が無いんだね」


 助手の良観先輩から補足が入る。


「例えば『深化』によって能力が暴走した、という例はほとんど残っていない。事故が起こる確率は0.1%に満たないんだ」

「初めから使えるようにしておいた方が、危機の回避という点では合理的だね」

 

 0.1%の回避の為に、死にかけていれば世話は無い。


「アタシなんか逆パターンだしねー」

「え?逆って何?」

「チョーシ乗って能力でジメツしかけて、なんかツヨツヨくなった」

「ええ……?」


 確かに今までの理屈をプロトさんのケースに当て嵌めると、「力が強くて死にそうだったので力を強くしました」、みたいなヘンテコな話になってしまう。


「二つ目、確度が無い」

「誰でも持ってる能力にしては、起こる起こらないに個人差があり過ぎる、って事さ」

「かつてとある実験をした王の記録がある。ディーパーの罪人は、モンスターコアと魔法陣によって作られた、魔力放出を防ぐ枷で拘束するのが一般的だ。死刑の場合は特に。しかし近代陽州に生きたその王は、腕の良いディーパーを処刑人として、いましめを解いた死刑囚と戦わせてみたのだと言う。100人ほど試し、深化を起こしたと思われる人間は、片手で数える程度」

「突発的な死でもないのに、それでも発動しないのさ。最初から持っているなら、ポンコツな機能と言ってやりたいね」

 

 同じ危機に対して、それだけの差異。

 「深化出来る人間は生まれつき決まっているのでは」、そう言われるのも無理からぬ話だ。


「三つ目、持続性がある」

「『火事場の馬鹿力』との一番の相違点だね。変化は一時的じゃない。その後一生涯ずっとそのまま」


 益々それまで使わなかった理由が分からない。


「四つ目、体内魔力経路が、時に完全に書き換わる」

「ただ画数が増えるだけならまだしも、一部が消えて別の物が加わる、みたいな事が起こるんだ。『強化』である前に『変化』なんだね」


 たがが外れただけでなく、樽の材質すら変わってるような不可解。


「物語の解釈が変わって、それで魔法が根本から変質する、それは寧ろ分かり易いんだ。だけれど魔法がより強くなる、今までの効果に+α(プラスアルファ)されるってなると、急にややこしくなってくるんだ」

「だから、先輩方がそれに同日で2回も遭遇したと言う話は、実に興味深く、そして改めてお聞きしたい。『命の危機』以外で、彼らに共通項を見出せないだろうか?」


 命の危機以外で。

 場所の条件は全然違う。

 ill(イリーガル)の影響下だった事?だけど人間社会の中での戦争による深化だって、沢山起こっている。目立ちたがらない奴らが、その全てに関わっているとは考えにくい。

 仲間を守ろうとしていた事?

 覚えられようとしていた事?

 後は——


「覚悟してた事?」

「『覚悟』?」

「感覚的な話になっちゃうけど……」


 いや、魔力や魔法と言うのは、人間の意思と密接に結びついている。

 有り得ない話じゃない筈だ。


「なんかこう、例えば、自分が変わっちゃう、自分でなくなっちゃう事を、受け入れる精神性が重要だったり、とか?」

「そうか?奴等にそれだけの度量があったとは、オレサマには思えないが」


 「逆に頑なに見えたぞ」、

 先輩がそれを言いますか、というのはさておき、


「覚悟、か……」


 殊文君の琴線に触れたらしく、彼はスタンドアローン状態の思考モードに入ってしまった。

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