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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
ここらで一呼吸

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閑話. 今を生きる自分の為に

 困ったのは、お墓が見つからない事だった。


 値段的に言えば、痛い出費になるが、なんとか買えなくもないくらい。

 問題は、漏魔症罹患者に売ってくれる所が無い、という点だ。

 表向き誰でも買えるように書いているが、関わりたくない相手と売買契約をしない、という自由がある。

 売り手に理解があっても、買い手がそうだとはならない。漏魔症の遺骨が同じ墓地に埋まっていると知れば、土壌汚染の元になると思うか、そう指摘されるのを恐れるかして、骨を引き上げ別の場所に移す人が殆どだろう。

 その過程で、苦情や誹謗中傷にも対応する事になり、コストばかり掛かるのに、良い事なんて一つも無い。


 本人は漏魔症に罹っていなくても、患者の親族と言うだけで、渋る人も多い。

 

 特に、「カミザススムの祖父母」なんて、広く世間に名前の知られた二人の事を、引き取ってくれる人は見つからなかった。


 最終的には、漏魔症罹患者や無縁遺骨が治められる、合同墓地に納める事になった。

 葬儀とか管理の費用は行政持ち。最近は国内の漏魔症罹患者も含めた、孤独死による無縁仏が増えてきて、その弔いが自治体の財政を圧迫したりして、それがまた漏魔症への反感の一助になってしまったりする。


 とにかく、おじいちゃんとおばあちゃんは、そこに弔われる事になった。

 

 腐敗が酷かったから、司法解剖の後すぐに火葬されたらしく、骨になってからのお葬式。不思議な感じだった。

 俺が帰って来た時には、ある程度段取りが進んでいた式は、小さく簡易的な物だったが、そもそも呼べる人も、来てくれそうな人にすら心当たりが無かったので、規模についての不満は無かった。


 夏休みが終わってから暫くは、シャン先生と星宿先生に相談に乗ってもらいながら、諸々の手続きに四苦八苦していた。俺が居ない間に骨を預かってくれたのも、その二人だ。

 遺産に関しては、おじいちゃんの兄弟とその家族が、なんだか理屈を並べて管理させろと言ってきた。俺はそういうの、父さん母さんにーちゃんの時に散々見て来て、もう飽き飽きだったから、相続放棄するからそっちで勝手に分けろって言って、それっきり。

 

 一通りが終わって荷が下りたけど、代わりにずしりと酷い疲れが乗った。

 その大変さが、人の命が失われる事を陳腐化させず、逆にありがたく思えてしまった。


 仰々しく送ったり、お経詠んだり、お墓作ったり、

 そういうのって、誰かが居なくなった事が「大変な事なんだ」って思わせ、生きている人が納得させる為にある物なんだろう。

 

 やっぱりそれは、死んだ人に贈る行為じゃないんだって、俺は感じてしまう。

 みんなはもう、何処にも居ない。


 ロクさんは遺体が無くて、葬式もお墓も用意されないらしい。六波羅さんが彼の身元と、血縁者を捜し出してくれたが、向こうはもう縁を切ったつもりでいて、何かする気は無いとの事だった。

 他にも「行方不明者」は多く居て、六波羅さんはその全員の生死や、彼らの肉親や知り合いの有無、引き取りの是非を確認する、大仕事に取り掛かるのだとか。ニークト先輩が俺の捜索と護衛に対して、報酬を支払うらしいが、そのほとんどが次の調査に注ぎ込まれそうである。それと、宍規刑事にも協力させると、少し怒りながら言っていた。サインは寮の自室に、丁重に飾っておこうと思う。


 俺が話した人達も、残さず食われたか、それとも密かに生き延びて別の隠れ場所を見つけたか、確かめようがない。実は生きていてくれてる事を祈る、今の俺にはそれ以外にない。

 彼ら帰る場所の無い人々は、そのうち事実上の死者として、纏めて供養されるのだと言う。

 親族でない人が遺体を置かずに行う葬儀、というものがあるらしく、確実に亡くなっているロクさんの分だけでも、依頼しようかとも思っている。


 参列者は、あの時一緒に居た数人くらいになるだろうけど。


 

「………」

「………」



 納骨が終わって、他にも色んな人達が眠る大きめの墓石に、そっと手を合わせる。

 ここまで付き添ってくれたミヨちゃんも、隣で同じようにしていた。

 

「ススム君、本気なの?」


 帰り道で彼女にそう聞かれる。配信活動を再開する事について、俺の精神状態を心配してくれているのだ。


「うん、やっぱり、俺が何をやりたいかって言ったら、これだから」


 自分の害悪性を自覚して、その上で誰かを助けたいと思ったのだ。

 これからも多くを巻き込んで、沢山裏目って、その繰り返し。

 だから俺は、正しいからじゃなく、格好をつける為に、

 そうしたいから、人の力になる。

 失敗したから、挑戦してはいけない、なんてのは言い訳だ。

 失敗したなら、その倍を救える人間を目指せ。

 無理でも、諦めるな。


 何故って、他の誰でもない、俺がそうしたいから。


「ちゃんと欲張ってみたいんだ。俺は死なないで、みんなの事も守れて、見知らぬ誰かも幸せに出来て、そんな理想に本気で向き合ってみたい」


 出来るわけがない、悪人の俺には手遅れだ、なんてブレーキから足を離す。


 “カミザススム”の名は、“日進月歩チャンネル”は、人に活力を分ける直接の手段にも、社会的な力を得るツールにもなる。

 欲しがるなら、

 誰よりも強くなって、何かを為す事を望むなら、それを投げ出しちゃいけない。そこから逃げるのは、俺の覚悟を嘘にする。


 何より、俺自身が切望している。

 あれを手放したくない。俺に勇気づけられていると、そう言ってくれたみんなを、裏切りたくない。


 それは俺の欲深さだと思ってた。

 目立ちたがりで、誰かに影響を与えたいっていう、特別浅ましい願望だって。

 でもディーズは、それを人間のサガだって言った。

 あいつはロクさんを、きっともっと多くを殺したけど、一面では言葉で俺を救った。

 国が俺への干渉を強めて来ないのを見るに、カンナについても何故か黙ってくれているようだ。

 人間なんて、結局白黒つけられない、それで当たり前。

 悪いってだけじゃ、軌道修正の根拠になっても、完全に止める理由にならない。


 だから、本当に駄目になるまで、やる。

 後悔して、絶望して、それでも続けられるなら、続けようと思った。


「よしっ……!」


 俺は両手で挟むように頬を打って、気合を入れる。


(((変に曲がったり、折れたりしないでくださいね?)))


 前に回ったカンナが言う。


(((今のあなたが、面白いのですから)))

(残念だけど、それは約束できないなー)

(((あれ、どういったつもりですか?)))

(今よりもっと、面白くなってやるから)

(((なんと、これは一本取られました)))


 袖の裏でどこか小馬鹿にしながら、けれど柔らかく笑う彼女。

 

(それに、今のうちにちゃんと名を売って、将来ガッポガッポ出来るようになっとかないと、カンナに美味しい物食べさせられなくなるし)

 

 それはカンナにとっても、良くないだろ?


(((道理ですね。ならば精進することです)))

「ススム君は、カンナちゃんに貢ぐの好きだね……」

「人聞きぃ!」


 墓所の出口、お葬式にも参加してくれたみんなが、待っている。

 俺は手を振って、ミヨちゃんと一緒に足を速める。

 

 まずは今夜、ススナーさん達を不安にさせ続けてた事について、ちゃんと謝らないと。

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