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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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257.護国と暗闘 part1

『いや、お疲れ様。ご苦労だったね。お蔭様で、プランβ(ブラボー)の無期限凍結が確認されたよ』

「たくよー……。俺のSNSが炎上すんのは、まー割といつもの事だが、にしたって、国とズブズブだって思われんのは良くねーだろーが」


 三ツ星ホテルのスイートルーム、折角夜景を楽しめる大窓に、カーテンが引かれた広い部屋。目元を腕で隠し、大きなソファに横になりながら、吾妻漆は巫女服姿の気弱そうな女に、それが抱えるタブレットの向こうの男を相手に、散々愚痴を溢していた。


「いつでもこの国見捨てれます未練ありませんアピールで築き上げた、守銭奴ブランディングがパーだぜ」

『君はブランディングの為に、お金を追い掛けていたのかい?知らなかったな』

「はいはい。金が必要なのは本心ですよー。うぜーなー」


 異常な職務であり、だからこそ報酬も良いとは言え、今回の仕事は常軌を逸し過ぎである。


「普通頼むかー?『5人の戦闘員を海ごと捕まえろ』だとか、『諸機関に漏らさず暗殺騒動に介入しろ』だとか」

『君が常識を問うタイプだとは、知らなかっ』「はいはい俺がー筋合い無いですねー分かってますよー。イヤミなヤツー」


 フラッグが起きてくれたから、大手を振って戦闘出来たものの……いや、そのせいで優先目標を見失ったのだから、結果オーライとすら言い難い。あの少年のタフさが足りなければ、今頃彼女が怒られていた。

 破天荒で型破り、自分のやり方を通しがち。そんな彼女が組織の一員として括られているのは、上司の手腕あってこそ、それも承知している。

 そういった理由から、連日続いた耳を疑うような命令に対して、あまり強く批難できない面もあった。


 だから、こうやって不平を垂らすだけで収めている。


「聞ーとくけどよー。フラッグは予測してたのか?」

『まさか。あんな事が起こるなんて確信があれば、総理にもっと強く出れたよ。君への戦闘許可だって、早い段階で下ろせたさ』

「だよなー。で、その総理はと言やー、」


 あれだけ消極的だった、防衛隊や警察組織の武装強化を、寧ろ推し進める立場を取っている。近いうちに修正防衛予算案が、閣議決定を通過する。

 この国でこの早さ。行き当たりばったりでなく、用意された既定路線だ。


「ダブスタ……ってわけでもねーよなー」

『違うだろうね。元より今の彼が、本懐(クリア条件)に近いと思うよ』

「なら俺達が妨害を受けてんのはどーゆーこった?危機感煽って、その後の工作を有利にする為ってか?」

『しかし彼は国民や、何より国家の為に働く部下達リソースの命を、軽んじるタイプじゃない。モブにだって感情移入する人だ。リザルトはなるたけ完璧に、いつもそうさ』


 だから、如何に筋が通った反論があったとは言え、彼らの展開をギリギリまで渋ったのは、不自然に思える判断と言えた。


「国民には死んで欲しくねー。だけどあそこに、出来るだけ死んで欲しー、国の敵みたいなのが居た、ってか?」

『浮浪者か、不法滞在者か、それとも、』

「カミザススムー……?なんだってんだまったくよー……」


 彼らは飽くまで駒だ。宗教団体の形を取る五十妹もまた、政治への影響を最小限にすべく、任務に必要な情報しか得られない。


「お偉いさんの腹の内は分からねー、か」

『どれだけ強くても僕らはNPC、それかマップ兵器さ。プレイヤー扱いはして貰えない。皮肉な話だよ。僕らは諸外国の内情にはそれなりに通じているけれど、自分の国の政府中枢からは、距離を置かれて意図も共有されていない』

「灯台下暗し……、いやちょっとちげーか?」

『医者の不養生、かな?』


 丹本防衛隊別設特殊作戦班。

 縮めて特作トクサ班。

 

 非公式諜報機関たる彼らも、世のくびきからは逃れられない。

 しがらみの中で、敵と戦うしかない。

 それでは、敵とは誰か?


『あの子も何も喋らないから、困っちゃって』

「あー、あいつなー?どー見ても痛がってるし、俺らにビビッてんのに、口を割らねーんだよなー。変なトコで根性見せてんじゃねー……」

『仕方ないよね?内側の方を、深めに探ってみよっかな』

「そいつは越権になるんじゃねーか?」

『だから、こっそりステルスチャレンジさ』


 「僕らの得意分野(ジャンル)でしょ?」、

 吾妻はその言葉に、

 口の端を持ち上げるだけで応える。


 「違いない」、と。




—————————————————————————————————————




「で、あのガクシャセンセイとやらは、どれくらい怪しんでる?」

「もう怪しんではいませんね。ほぼ確信しています。ええ、危険信号です」


 暗室。

 宇宙飛行士めいた男と、もう一人。


「チャンピオン一、いや、人類一執念深い男か。嫌なヤツに目を付けられたな」

「目を付けたのは、もっと以前かもしれませんが、しかしここまで興味を深められてしまうのは、こちらとしては宜しくありませんねぇ……」


 ここ最近、チャンピオンとしての強さと特権を遺憾なく発揮し、カミザススムに纏わりつくようになった男。


「それに私も、大っぴらに動けなくなってきました」

「何かしくじったか?」

「恐らく。襲撃事件の際、一部の教師が私に牽制めいた事をして、探りを入れて来ました。ええ、間違いなく何かを疑っているようでしたねえ」

「チィ…ッ!教師ってのはどうしてこう、青臭くて融通が利かねえヤツが生き残ってやがんだ。向こうにとっても悪い話じゃねえってのに、七面倒な遠回りを踏ませやがる。利益は山分け、それすら受け入れられねえときた日には、どうしようもないな」


 最初から例の少年が、彼らに引き渡されてさえいれば、ここまで話が拗れなかっただろうに。

 それがどのようなものかはまだ不明だが、少年は鍵を握っている。

 「その()()()()の手にあるのが最悪だ」と、彼は言う。

 相手が国や大企業なら、不確定な価値の為に、手出しするのを躊躇うものだ。だが一少年が持つのなら、上手くやれば奪えそうに見える。そこらのチンピラでさえ、充分な情報があれば、掠め取れるように思える。

 実情がどうあれ、少年がそうやって舐められている事は、否定しようのない現実だ。

 そしてそのせいで、「鍵」は持つべきでない者の手に、渡ろうとしている。

 

 それは彼らのような、資格ある者が管理しなければならない。

 一介の漏魔症風情が、持っていいものじゃない。

 そう、漏魔症だ。ダンジョンの外では無防備に等しい彼に、どうしてその大役を任せられると言うのか。


「10月の甲都遠征までには、決着を付けてえ」

「政十、ですか」

「ああ、奴等のお膝元だ。教育機関の質を誇るあっちの態度は、今は最高学府の範囲に留まっているが、高等教育でもトップを取ろうという動きが出て来ている」

「被験体としてだけでなく、生徒としてのカミザススムにも興味を持っている?」

「漏魔症への態度で批難が行きやすい政府と、程々の距離感を持っている故に、接し易いと言う事もあるだろう。それでも差別意識はあるだろうが、ネームバリューに箔を付ける為に、使えるなら使う方針だ」

「『漏魔症ですら成功者に仕立てた機関』。ええ、魅力的な看板でしょうねえ」

「勤め人としても見習いたい姿勢だ」


 引き抜いて来る。

 最終的には“鍵”を得る事を目的としつつ、アンコウのように全身全霊を美味しく利用し尽くすつもりだ。


「本社からも催促が来た。明胤祭の後、遠征前までがリミットのつもりで行動する」

「承知しておりますとも。ええ、私は言われた事を忠実に遂行します」


 学術研究・科学分野に秀でるとされる、三都葉グループ。

 旧三大財閥の一つ、現御三家の一角。

 外資や諸国家、自国の政府までをも含めた強引なやり方に直面し、

 ライバルの魔の手が忍び寄るのも感じ、


 後が無い彼らの強権もまた、歯止めを脱落させつつあった。

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