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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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256.まあ、それはそれとして、ですよね part2

「………」

「せ、先輩、あの、この事は…」

「はあぁぁぁぁー……っ!」


 デッカい溜息を吐かれてしまった。


「お前なあ……!中学生の身分でブラックバイトに手を出して、挙句深級で死にかけ、偶々そこで伝説的モンスターに気に入られ、憑りつかれ、その教えを受けながら強くなる事を約束させられ、最終的にはイリーガルに、知性を持ったチャンピオン以上の脅威に勝たねばならない、だとぉ……!?」

「う、その……」


 改めて聞くと、頭の健康を疑われてもおかしくない話だ。

 何言ってんだコイツ案件過ぎる。


「その上、ダンジョンの秘密が詰まっているらしいそいつの顔色を窺って、政府や研究機関にも届けず隠し、話したがるまで何も聞かずに、挙句にオレサマにもその隠蔽に協力しろ、だとぉ…!?」

「はい、その……はい……」

「色ボケ女は、それを普通に受け入れたのか……!?そんな、人類史を書き換えうる重要な事態を、いとも容易く……!?」

「か、簡単にってわけでは………いえ、すいません……」

 

 二人してションモリして正座である。

 色々ごめんなさい……。


「ぬ、うううううううう………!!?」


 先輩はいかにも頭が痛そうに、眉間を親指でグリグリと押し込んで、体感1分程狼のように唸っていたが、


「……ふー……っ、いいだろう、巻き込まれてやる、巻き込まれてやるよ愚か者共……っ!」

「え!?本当ですか!」

 

 これから議論、という名の拝み倒しをする気満々だった俺は、あっさりと折れた先輩に肩透かしを食らう。


「どうやら、お前の恩人だという事は、確からしい…!お前に不正をさせているわけでもなく、ただ力の使い方を教えているだけなら、優れた家庭教師、というだけだとも言える…!そいつが呼ぶ厄介事も、お前が背負う覚悟があると言うなら、オレサマからは何も言えん…!」

「あ、ありがとうござ」「ただし!」


 人差し指をビシリと向けて、


「ただし、この先、その女の危険度が過ぎていると判断すれば、お前を洗脳し好きに動く人形のように扱う気配があるなら!また、オレサマにとってお前より優先すべき何かを侵害しそうであれば!オレサマは容赦なく通報し排除を試みるからな!お前は悪い女に騙され易そうだからな!あり得る話だ!いざそうなったらオレサマが最後の防波堤になってやる!」


 なんか失礼な事を言われたが、先輩にお世話になる事には変わりなかったので、ぐっと言葉を飲み込んだ。

「理解ある御学友です」

 カンナにもちょっとイラっときたが何とかスルーした。


「それと、もう一つ!」

 中指も追加して、

「これはお前と言うより、ナイトラ……つまり、カンナ嬢への提案だが」

「へ?カンナに、ですか?」


 そこで先輩は彼女に向き直り、姿勢を正して綺麗に直立し、


「………俺、にも、稽古をつけて、欲しい………」


 ………え、


「あれ、驚きました」


 カンナが上体を前に傾け、少しだけ顔をニークト先輩に近付ける。

 先輩はそれを受けて、びくりと体を震わせたものの、漂わせた視線を何とか相手と合わせ直した。


「貴方には、嫌われているものかと」

「………正直、そうだ。恐ろしい。本当なら今すぐに、お前が入っている右眼を、カミザから抉り出したいくらいには」


 いつもの腹の底からの声でなく、凍えのようなものが滲んでいる。


「だが、こいつがそれを拒絶した。それにこいつのやり方で、お前から情報を引き出せるなら、この国や、何なら世界にとっても、お前がここに居る事は……有益だ。しかし雛鳥のように口を開け、無策で付き合うのは、あまりに危機意識を欠いている」

「だから、直接私から引き出す、ですか?」

「お前の強さを一部でも頂く……。他でもない、この俺が恐れる、その一部でも」

「私がそれを通して、貴方をも支配するかもしれませんよ?」

「だがそこまで踏み込まなければ、お前が仕掛けて来た時、本当に気付けない…!そしてお前に勝つ、最低でも撃退出来るようになる為には、強くなる手段を選んでいられない……!」


「それだけ、ですか?」


 先輩は、被捕食者の顔をしていた。

 奥歯を鳴らさないように苦心しながら、


「それだけ、だ」


 何かを隠した。それは俺にも分かった。

 だがカンナは、特にそれには言及せず、


「そうですか」


 顔を離してくるりとターンし、背を向けながら考えるような素振りを見せた。


「あの!カンナちゃん!」


 そこでミヨちゃんが右手と声を上げる。


「私も!お願いできない、かな……?」

「ミヨちゃん?」

「今回の事で、守りたい人を死なせない、ってだけでも、まだまだ全然足りないって思い知らされたから」


 彼女は、ノミ女の攻撃に押し負けた事を、それ以前にロクさんを守り切れなかった事を、気にしているのだろう。もしかしたら、俺がネズミとノミの猛攻とやりあっているのを見て、「自分も成長しないと」みたいな焦りを感じているのかも。


 更なる高みを目指す二人に提言に、

「ススムくんには、異論はありませんか?」

 カンナは俺の意見を求めて来た。

「え?いや、俺はそりゃ、二人の希望を叶えてあげたいって思うけど」

「なら良いでしょう。決まりです」


 これもあっさり決まってしまった。

 なんか、もっとじっくり考えなくて良いのかな?いや、俺からすると、ありがたいことだらけなんだけどさ。


「ただし、外から見るお二人と、内から全てを管理しているススムくんでは、成長効率に差が生まれる事は、ご了承ください」

「分かった」

「やっぱり、そうなんだ?」

「それはもう。ススムくんは私に、隅から隅まで飼育……失礼、把握されていますから。趣味趣向やホクロの数、自らを慰める回「わあああああああ!!?」


 何言い出してんのこの人ぉ!?


「お、お前、進んでるんだな……」


 先輩!その遠くなってしまった知人を見る目やめてください!四六時中一緒だし、俺の意識と繋がってるから、避けようがないだけです!見せつけてるわけじゃありません!そういうプレイとかじゃないです!


「や、やっぱり、そうなんだ……」


 ミヨちゃんも!落ち込まないで!あなたのパーティーメンバーは変態じゃありません!


「か、カンナちゃん、ススムくんにナイショでその情報を渡す方法とかって………」

「何言ってんのミヨちゃん!?」

「いや、な、なんちゃってねー!アハハハハ!じょーくじょーく!くれぷすじょーく!」

「色ボケ女……お前……普通にセクハラだぞ……?」


 わ、忘れて……!今の一連を記憶から消し去ってくれえ~……!


「は、はい!というわけで!」


 ミヨちゃんが両拳をグッと構えて、強引に纏めに入った。


「みんな心機一転、頑張りましょう!ということでいいよね!」

「う、うん!そうだな!」

「あ、ああ……」


 ダンジョンの事とかill(イリーガル)の事とか、色々と謎が増えたけど、まあ直近の目標は変わらない。変わったのは、カンナの強化訓練のメンバーが、俺だけじゃなくなったこと。

 これからは3人一緒に、遥か格上相手にも勝てる自分を目指して、装い新たに、

 

 装い新たに——


「あれ?」


 その時に気付いた。


「ミヨちゃん、なんか髪型変わった?」

 なんか前髪が、片側に寄ってるように見えて……あ!

「ああ、ヘアピンつけたんだ」

 青・白・黒のチェック柄のアクセサリーが、増えている。

 俺が手を打って、一人納得していると、


「トウヘンボクネンチビ……マジかお前……」


 先輩からドン引きしたような目を向けられてしまった。

 ?なんですその目は?別に単なる気付きで「ススム、くぅん?」


 俺は先輩の危機察知能力が正しかった事を知った。な、何だ?なんでこうなってるんだ?

 

「み、ミヨちゃん?」


 顔が引きつるのを自覚しながら、突如発生した寒波の方に視線を戻すと、


「今気付いたの?」

「えっ、あ、え」「今、ここで、気が付いたの?」


 で、出来ればその、目蓋の隙間から真っ黒な眼で見るのは、やめていただけると………


「夏休みの後半から、ずっとなのに?次に会う時、ススム君が何て言ってくれるかなあ、って、気合入れてたのに」

「え゛!あ゛、ああー!いや!あまりに似合ってるから、自然に受け入れちゃったと言うか!そのぉっ!」

「『言う暇が無いから、流されちゃったのかな?』、『でもいつかちゃんと褒めてくれるかな?』、って思ってたんだよ?でも、見えてすらいなかったんだあ?」

「そうだった!そうだったね!うん!そんな気がした!感覚的にはピンと来てた!」

「何度も見つけるタイミング、あったよね?視覚的に分かりやすい変化だったよね?」

「『なんか違うなあ』って、ずぅっっと心に引っ掛かってたんだけどぉ!」


「先輩の変化には、すぐに気が付いたのになあー?」


「こっちに被弾したぁ!?け、軽率チビめ!雉も鳴かずば撃たれまいに……!おい何とかしろ!」

「か、カンナ!終了!話し合い終了!今すぐ現実に戻して!」

「餡蜜は矢張り、白玉が調和しますねえ。果実も悪くはありませんが……」

「いや食べ比べしてないでさあ!」

「ススム君、私の事、まだ眼中に無いんだねー……?」

「そ、そんな事は!」




「訓練のついでに、じっくり『お話し』して、仲を深めよう?ススム君?」




 絞め技、寝技、関節技って、強いんだね。

 しっかり体感させて頂きました。

 い、良い修行にナッタナー………。


 この後、死んだ目をして戻された先輩を見た八守君から、「何したんスか!?」と()()()()怒られる事となったのは、また別の話だ。

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