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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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246.何がそこまでさせるのか

「どうしても…!ダメかな……!」


 ディーズは、その言葉を搾り出す。


「あなたは…!殺さない…!僕達は、彼を殺して、人が到り得る最高点に行く……!」


 弾をうっかり無駄にしないよう気を付けながら、銃のグリップを強く握り締める。


「僕は……!“本物”になるんだ……!僕みたいな半端者でも成れるって、証明するんだ…!」


 取っ組み合いの相手であるロクは、


「その覚悟は、買おう…!」


 逆手で持ったナイフで拳銃と押し合い、

 左手でそれを押し込んだり、ディーズの右肩を叩いたりしながら、


「だが、ゆるさん…!」


 執念の炎に決意という薪をくべる。

 

 ディーズは何故、彼が見ず知らずの少年にここまで肩入れするのか、理解に苦しんでしまう。

 けれど、ロクもまた、自身の行動に驚いていた。

 

 巻き込まれた仲間達の復讐?

 何処までも彼に災いを振りまく世界への憤懣?

 無辜の少年が犠牲になる事に対する正義感?


 いや、最後の一つはあり得ない。

 彼は、カミザススムを殺すつもりだったのだ。

 一つのコミュニティを容易く掌握する犯罪組織を前に、彼らは無力だった。

 危機感を持った。

 酷く恐れた。

 彼の居場所が、跡形もなく破壊されるかもしれないと。

 出来るのは、事態の速やかな収拾だ。


 カミザススムがいなくなれば、それで手を引いてくれる、そう考えたのだ。


 彼はせめてもの礼儀にと、精一杯の正装をして、市販のナイフだけ持って、目撃情報を元に少年を探した。

 学園が襲撃されたニュースが、彼の背をせっついた。

 そしてあの時、あそこで後ろから刺し殺すつもりだった。

 

 なのに、

 これまでの日々で、住人達とやり取りをしている少年の顔を、

 皆が笑顔で語り合っていた場面を思い出し、

 彼は進の話を聞きたいと、そう思ってしまった。

 話を聞いて、進を守ろうと、決意を180°翻してしまった。


 彼に協力していた仲間達は、進を引っ張って来たのを見ても、何も言わないでいてくれた。ただ笑って、手を貸してくれた。

 進が彼らに取っていた態度が、何処までも丁寧で、お人好しだったから、なのだろうか。

 ロクが今死ぬ気で足掻いているのも、それが理由なのか。

 それもあるだろう。

 だが、それだけじゃない。

 ただ、

 ただ、そう、


 どうせ終わりが来るのだったら、その前にやりたい事をやろうと、

 そう思っただけなのだ。


 弱い物いじめをするしかないくらい、弱っちい自分には出来なかった事を。

 理不尽な事態に、「ふざけるな」と唾を吐きかける事を。

 圧倒的に格上な捕食者の(ツラ)に、「クソ喰らえ」と拳を食わせてやる事を。




 それくらい、やってもいいかと、そう思っただけだった。




「くぅぅうおおおおおお!!」

「はぁぁぁなぁぁぁせぇぇぇぇえ!」


 詠訵とクワトロの戦闘によって、ロクに纏わりつくリボンが1本減った。

 それが合図だった。

 いよいよディーズの目を尖った先端が突く、という時に、ディーズは敢えて右手を支えていた左腕を抜き、相手のバランスを崩させ、自分の左頬を切り裂かせながらも死を免れる。

 先の無い左手首を横からロクの頭にぶつけようとして、反射的に頭をガードさせ、僅か離れた腹に膝蹴りを入れて圧し掛かる体重を押し除け、上体を起こして頭突きを決め、もう一発足蹴(あしげ)にして老躯を退ける。

 彼が見る先には、耳鳴りが鼻の奥まで響き尻餅をついたロクと、


「ススム君!」


 何かに気を取られた詠訵。

 芯だけは冷えているディーズの頭は、的確に狙いを変更。

 その右腕を上げさせ、


「まずい!嬢ちゃん!」


 少女に向かって魔弾を放った。


 ロクにはその弾道を変える事が出来なかった。

 だから立ち上がって遮った。

 銃本体に刻まれた魔法陣、カートリッジ、コアを加工した弾丸。

 ボロボロになっていたリボン2本では、幾重にも強化された呪いを受け止め切れず、それらは朽ちて、彼の腹に穴が穿たれる。

 貫通は出来なかった。

 詠訵は無事。

 呪いの浸蝕が始まる。

 ロクは腹部から徐々に、ぶくぶくと溶けだしていく。

 詠訵のリボンの残りは、ニークトに巻いている中でまだ消えていなかった1本と、クワトロと繋げていた1本。

 そこでレーザーが消えた。

 2本共を動員して、ロクを助ける、それが可能かもしれない。

 

 少女と男の目が見合う。

 彼女の濡れた瞳が言った。

 「ごめんなさい」と。

 彼はそれにこう返した。

 「気にするな、それでいい」と。


 リボンは2本共、赤い壁が消えた先、細かく分かたれ崩れかけていた少年に、

 進に向かった。

 

 彼がぐるぐる巻きにされながら、形を取り戻していく所を、

 仰向けになって横目で見ながら、


 これが人を思い遣り、人に好かれ、


 人から惜しまれる気分かと、

 

 ロクはその感触を堪能しながら、


 泡になって消えて行った。

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