243.乱闘って言うか乱戦って言うか
咄嗟の事だった。
本能的に、魔力の塊をそちら側へ多めに、多層的に配置し、
幾つもの爆風によって弾道をなんとか曲げさせた。
それでも、左肩と横っ腹がやられた。
「反応装甲……魔力が見えないというのは本当だったようだな……」
遮蔽の陰にしゃがんで何やらブツブツ言っているが、その間にも懐中電灯の電池を変えるみたいに、銃の一部を交換している。
映画とかゲームでお馴染み、リロードモーションだ。
上半分のパーツ、所謂スライドを引いたら、完了の合図。
俺も隠れないといけない。
が、自由な動きを制限する要素がある。
幾本ものレーザーだ。
「逃がさん」
その赤線達がスライドするように動く!
ただ設置するだけじゃない!位置や角度の自由度が広い!
「来るなっ!」
魔力を放つ!
「あがっ!」
だけどスッパリと切られてしまう!
皮を細く剥がされた痛さと腕が断たれた冷たさ!
「無駄だ。俺が作るラインは、お前を対象に定めている。お前の魔力もまた、お前の一部だ」
身動きが取れなくなった俺に対して、その身を出して発砲する男!
「“九狐旧亙倶苦窮涸”!」
断裂牢獄の間を縫ってミヨちゃんのリボンが届く!
俺の傷を治しながら銃弾を防御!
「ススム君!こっちに!」
更に4本のリボンがレーザーの間に割り込む事で、その長さを抑制!俺がその身を捩じ込む事が出来るスペース!両手を前にしてミヨちゃん側にダイブ!引っ掛かった端々が抉り取られるもののすぐに治療されるから無問題!
ざまあみろ!こちとら体積小さめで通ってんだ!限られた空間に入り込むなんてお茶の子さいさいよ!ああん!?誰がチビだって!?
(((自分で言って自分で憤らない。十点減点です)))
肉と持ち点を引かれながらも、ミヨちゃん、ニークト先輩、ロクさんと集合!
「ススム君!あれ、ただ斬ってるだけじゃない!強い呪いみたいな効果を持ってる!」
「やっぱり!?俺も今、あれに肉を“剥がされた”感触があった!」
「持って行く能力ってヤツか!?」
「千切られたお前の肉片のニオイがあまりに変化しない!焼いている感じでは無いな!ならだいたい分かったぞ!あの光線に触れた対象を、あの赤い範囲内で留める力だ!触れた時の状態から変化させないよう固定してしまえば、呪いの強さの分だけ固い鋼線となる!」
「金属とかの代わりに“変化しない”事を強制された物質を刃にしてるって事ですか!?」
ミヨちゃんのリボンでもギリギリ相殺し切れない効力。
身体を通過されるだけで大分アウトだ。
弾痕部と比べて、レーザーに取られた部分は、治りが明らかに遅い。
元のパーツが魔法の中に閉じ込められているから、「元通りに治す」という認識だと、邪魔をされるのだろう。
頭とか、肺とか、心臓とか、数秒機能停止しただけでヤバい部分に、あの攻撃を受けてはいけない。
ミヨちゃんの治療、厳密に言えば組み直し能力が、間に合わないかもしれないのだ。
「ごめん、ススム君。レーザーは何とか止めるから、最悪銃の方は撃たれる覚悟でお願い」
「まあ、そうなるよね」
「ふん、軟弱な鉛などオレサマの鎧の前には無力だ」
「あ、おニク先輩は大丈夫そうですから心配してないです」
「おいコラ私情マシマシ女ぁ!」
「おい!あっちからも来るぞ!」
ロクさんが言った直後、5、6本の茨がミヨちゃんの障壁に叩きつけられる!
「やはり、対象を選別できるタイプか。俺達には何の影響も及ぼさないようだ」
「ああ!ずるっ!便利過ぎだろ!」
「言ってる場合か!来るぞ!」
茨とレーザーが格子状になって俺達を微塵切りにしようと寄り集る!
「①レーザーだけ避ける!②それ以外は受ける!③ご老人は最優先で守る!④詠訵が防衛!⑤俺とチビが前衛!それでいいな!」
「「了解!」」
「馬鹿!人を年寄り扱いするな小僧共!俺は後回しdぅわっ!?」
リボン3本がロクさんをぐるぐる巻きにし、残りの3人に2本ずつ配分される。
これを使い切る前に、敵を全員黙らせる!
そして、友達と、恩人を助ける!
「グァルッ!」
先輩が先んじる!
向かうのは特殊部隊男の方!
「ゴォオオオオオ!」
右肩からタックル!
上手い!
リボンが巻く範囲を狭める事でそれが作る障壁の大きさも制限し、狼の皮の表面が剥がされる分は許容!進行方向に重なるレーザーのみ削り、自分が進める最低限のルートを拓く!
俺も後に続く!何せもっと大きい体が通った後!快適と言っていいくらいスムーズ!
今最も倒さなきゃいけないのは、ミヨちゃんの防御を奪ってしまうその男の能力の方!だから別々に分散するのでなく2対1で叩く!
「待てよ!」
「待たない!」
クワトロからの攻撃は俺が魔力の起動の時点で感知し爆発で潰す!
少し遠くでエネルギーの高まりを感じる!あれは、たぶんディーズの銃にカートリッジが挿入された反応だ!
魔力を飛ばしてこちらから先制!
ディーズの体が後方にすっ飛ぶ!
「届くのかよ!」
「届くよ!」
彼がクワトロの植物に受け止められている間、それがこちらの攻撃チャンス!
「ガゥラッ!」
先輩が左肘を引いて構え爪で相手を刺し貫きに掛かる!
敵はナイフを抜いて前に出ている肩を突こうと「shut!」そこに魔力をぶつけて軌道を逸らしてやる!先輩越しだろうと一挙手一投足を感覚している俺の前で簡単に有効打を入れられると思うな!
先輩の左手は機関銃の連射で止められたが右肩から生やされた牙が敵を貫いて「!透過して来ます!先輩!」数本のレーザーが束ねられそいつ自身の身体を通り抜けて牙を受け止める!リボンの拒絶反応との間にバチバチと火花を散らしながら互いの影響力を殺し合い、結果として擦り減りながら拮抗しているのだ!
「えまっ!?」
更に男の体から新たなレーザーが即座に照射される!
さっきまでは無かった、追加した分で、なのに無詠唱!その先端は一点に集中!
それによってリボンが散って行くスピードが加速!金属をカッターで切り落とす時のような擦断音が空中をつんざき先輩を覆った左胸の防御に穴を「ぉぉぉおおお!」
俺はスライディングで先輩の股下を潜り抜け相手の脚をへし折る勢いのローキックに繋げる!
男はジャンプ回避!それによってレーザーの狙いがズレる!「ガルゴルッ!」右手を斜めに振り上げる爪攻撃!上から呼び寄せたレーザーとぶつける事で防御!「おりゃア!」俺は仰向け姿勢のまま脚を突き上げての蹴り!魔力操作や能力によって更に上に跳ぶ、のが見え見えだったから俺の魔力で低めの天井を用意してやった!それを爆破!そいつが高度を落とした所にブレイクダンス的回脚追撃!上下逆様の人間が生んだキックのつむじ風の端が謎人物の腹を捉える!
畳み掛けようとした俺達に対して敵は無数のレーザーをけしかけ封じ込めを画策!それを察した俺は赤い線が集まりきる前に時計回りに男を迂回し形成されかけていた牢屋から離脱!即反転!レーザーが通った後から男の背中を蹴りつける!男は半身だけこちらに向いて右脛を上げての防御!完全に受け止められる!無詠唱でレーザーを撃ちながら器用にも片手でリロードを終わらせた機関銃の銃口を俺に向けて「そっち行け!」俺は足裏と相手との間に挟んでおいた魔力を時間差で起爆!片脚で取られたバランスを大きく崩させ先輩側に押してやる!
先輩はレーザーのせいでほぼ動けない。だから脅威度は低いと見たのだろうが、甘い!大狼の頭部が伸びて1匹の眷属に分離!男の肩に噛みつきシールドを食い破る!即座に狼の首をレーザーで切断!俺の右正拳を、今度は右脚で手首あたりを横から払う事で受け流しながら右手で発砲!「“後跪”」俺から追加で出された魔力塊を赤色の壁でブロック!壁を突き抜けて弾が飛ぶ!
下からは右足裏からレーザーを出しながら連続蹴り!咄嗟に両手で張ったリボンで身を守るも度重なる攻撃によって千切られる!赤い壁で囲いながら更にもう一発を「took!」俺を刺し殺さんとする右脚を掴む!身を捻って脱される直前にリボンと絡めたケーブルを巻いて取り付ける事に成功!引こうとしていた男を巻き取り機構で無理矢理引き戻してその腹目掛けて左ミドルキックを返してやる!
男は後退りながら左腕を立てて防ぐ!先輩が眷属を更に一体生成!頭突き!こっちに送り返して来た!俺は床を踏み切って跳ぶ!「“後
いや遅い!壁を新たに生成される前に巻き取り機構で接近を加速させ既に放っていた飛び蹴りに向こうからぶつからせる!
今度は横にした両腕で正面をガードし、また飛ばされたそいつの背中から先輩が鎧を使い切っての最後の一撃!俺は勝負を決める為に巻き取り機構を再々起動させて「ススムく」その横が閉じる!赤い壁がギロチンのように振り下ろされリボンが遂に断たれた!レーザーから俺を守る物はもう無い!
「おやすみ、良い夢を」
自らの背にも壁を背負いながら、
閉ざされた空間の中で、
「“両手を後ろに跪け”」
男はサムズアップした右手の下に、サムズダウンした左手を重ねて、
これまで生んだレーザーを解かずに完全詠唱。
箱の中が死線で満たされた。




