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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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242.プロフェッショナル二人

 また一つ、ハーケンが投げられた。

 これも曲射。

 バッタ男を追尾するように追い回し、後ろ回し蹴りで迎撃される!


「ガネッシュさん!」

〈まだですぞ?まだ貴方の出番ではありません!まだ貴方は脅威と見なされてはならないのです!〉


 バッタ男が後ろ肢を曲げ、力を溜める。

 またあの超音速低空跳躍が来る。

 ガネッシュも腰を落とし、避ける準備をする。

 何度かちょこちょこと関節を戻そうとして見せ、フェイントを入れ、

 藪から棒に水平ジャンプ!


 だが彼は既に行動を開始している!

 大きく一歩、最低限の身躱みかわし!

 衝撃波も含めてほとんどノーダメージ!


——あれはもしかして、象の生態を利用しているのか?


 六波羅から見て、ガネッシュは相手の本命が来るタイミングを、ほぼ完璧に予見していた。その手段とは?

 思いつくのは、象がその足に持つ特性だ。

 彼らの足裏は、地面から伝わる振動を敏感に捉え、群れ同士や天敵との位置関係を把握する。

 バッタ男の屈伸の中で、虚仮脅こけおどしと本気で体重が掛かった物を見分け、それが解き放たれるタイミングすら計る。蹴った時ですらなく、蹴る前の踏み込みで判定する、凄まじい精度での振動感知能力。


〈これもどうぞ!〉


 バッタ男の着地際に投げつけられる次の1本!

 長い鼻が投擲するハーケンは、カートリッジが挿入された魔具である。

 小型化されていながら、振動、発熱、変形機構を搭載し、硬い路面に罅を入れ、食い込み、ガッチリと固定されるそれは、どれ程に急峻な断崖絶壁であっても、手懸てがかり足場を生み出す便利アイテム。ガネッシュ愛用、フィールドワーカー七つ道具の一つ。

 一本当たりの値段で、超高級車ラグジュアリー・カーが一台買える、目の飛び出る程の高コスト製品なのは、ご愛嬌。


〈それ!また1本!〉


 それを敵に投げつけるという、想定用途外の使い方をする彼は、周囲からは狂人の類にも見えるだろう。


「も、勿体ねえ~……。後で一本くらい貰ってもバレないか……いやダメだな、人として……」


 そんな呑気な事を言っている六波羅だったが、それは「何となく高い」事しか知らないからだ。正確な値を聞けば、卒倒する事だろう。


〈ぐぉルルルルぎゅぉルルルル………!〉


 バッタ男は変わらず腹を空かせながら、ガネッシュのハーケンによる猛攻をいなしつつ、


〈ごぉるッ!〉


 その超常の脚力によって、僅かな隙を逃さずゼロ距離へ!

 中段へのフロントキック!

 ガネッシュの鼻が顔の右にセットされていた牙を抜いて対抗!鍔迫り合い!互いの膂力は拮抗!


〈月の満ち欠けを生んだ牙ですぞ?そう簡単には……おっと、貴方への解説など、無意味でしたかな?どうにも学習意欲は、高い方には見えません〉


 互いに押し合って距離を取る!

 そこでバッタ男の背後から予め投げていたハーケンが迫るも、

 マフラーと羽根の弾幕で減速させ後ろ蹴り上げによって反撥!

 またも狙いを外され地に刺さる!


〈ご心配なく。私の能力は、相手の識字能力リテラシーを問いません〉


——リテラシー?


 ガネッシュの攻撃を見ていた六波羅はいぶかる。

 ガネッシュ・チャールハートの能力は、この変身能力。

 着脱可能で強い破壊力を持つ右の牙と、欲しい物を瞬時に掴み、投げた物が特殊な軌道を描く長い鼻、その二つ。というように知られている。

 さっきまで見ていた限りは、単に誘導弾化するだけのように思えたが、しかし本質はそうではない?


——いや、そうか!


 六波羅は気付いた。

 だがバッタ男は、そうではなかった。

 そいつは、直撃を完全に避けていると、勘違いをしていた。

 だが、そうではない。

 彼は最初から最後まで、狙い通りの場所にしか着弾させていない!


〈六波羅殿!詠唱を私にお願いします!〉

「“無量の名を称えよナモー・アミター・バユス”!」

 

 ガネッシュの要請に応え六波羅が魔法を発動!

 対象の能力を向上させる事に重点を置いたグルーヴが始まる!


〈肢がご自慢のようですが〉


 ガネッシュが鼻で掴んだ牙の先を向け、バッタ男が投擲に備える。


〈足下がお留守なようですぞ?〉

 

 彼はまたしても真上に放り投げて、

 そいつは変則軌道にも対応する為に待ち構える。

 

 そう、「待ち構えて」しまった。


 落ちて来ない。

 宙に浮きながら、種々の言語の文字を、その場に重ねるように書いて、

 

 その中で一部の線が抜き出された。

 五芒星魔法陣。

 その中心は、バッタ男の立ち位置とピッタリ重なった。


〈グュッ!?ぎぎゅぎゅっ!?〉


 バッタの後肢が、地にめり込みながら変形し、鉤状になっていく。

 まるで、ハーケンのように。


〈ギュガガガッ!!ガギュっ!?〉

 

 バッタ男が周囲を見て、気付く。

 地面に刺さっているハーケン、それらの一部を線で結ぶと、今描かれた魔法陣と、ぴったり一致する事に。


〈所詮はG型と言う事なのか、それとも六波羅殿の力による効力が強かったからか、どちらにせよ貴方の耐呪は貫通させて頂きましたぞ!〉


——おいおいしてくれ。明らかにあんたが強いだけだよ。


 口内を打楽器化しながら、六波羅は過ぎた評価に苦い顔をする。


 ガネッシュの長鼻は、投げた物の軌道で、なんらかの文字を書かせる。

 多言語をマスターし、応用すれば、魔法陣を無理矢理描く事だって出来る。

 恐ろしいのは、相手に誘導しているように見せかけ、敵が自身の呪いへの耐性を利用し、その軌道を逸らさせる、そこまで読んだ上で、地面の狙った所に落とさせる、技術と先読み、アドリブ能力。百発百中とは行かないが、それでも尋常ならざる精度だ。


 最後にはその牙を使って正面からぶつかり、魔法陣の中心に押し留める事までして、相手の立ち位置まで掌握していた。


 極めて困難な方法で成立した魔法陣、且つ、効果は単純。

 魔法陣を構成しているハーケンの、真似をさせるだけ。

 強固な耐性を貫く程の絶大な呪いが、こうして生まれたのだった。


〈貴方の敗因は、文字が読めなかった事にあります!ですので、そこで良い子に授業を受ける事をお勧め致しますぞ!〉


 手元、いや鼻元に牙を引き戻し、正面に先端を向けた状態で保持。


〈特大の真実を、一つ授けて差し上げましょう!〉


 象は、その巨体にもかかわらず、或いはその重量故か、高い走行能力を持つ。

 ライオンが束になって取り付いても、走って振り払い、轢き殺す程の。

 かつて人類も、走り出したら止まらぬ戦車として、その種を利用していた。


〈私のバックパックを見て、無駄に荷物が多いと、そう揶揄する方々もいらっしゃいますが、〉


 シンド出身、広い知見を持つガネッシュが、その理屈を知らぬわけもなく、




〈けれど“重い”とは、“強い”という事!〉


 

突!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!進!




 バッタの胸を牙がぶっっっっち抜いた!

 

〈ぎょぉオオオオオオオッッッ!?〉


 牙の径より明らかに広い大穴!

 生存可能性は有効数字10桁でゼロ!

 頭に張り付いた二つの大きな耳が開き、蒸気を噴出し排熱!


〈講義は以上で終了ですぞ!単位が欲しければ次回からも受講するように!〉


 それを受けたら、何かを聞く事も何処かに行く事も出来ない、欠席落第確定拘束タックルを叩きつけておきながら、臨時講師はそう宣告した。


「ひ、ひぇ~……」


 六波羅は目の当たりにする。

 これが、チャンピオン。

 理不尽に頭一つ抜けた特殊効果を持たずして、魔具の扱いと魔法の応用、持続力において突出し、世界トップ10にまでなった男。

 それにしても、先ほどの魔法陣を描く為に書かれた文字。


「もしかして、漢字のライティングまで行けるんですか?」


 引き気味の疑問に対し、男は胸を叩いてただ一言、



〈学者ですからなあ!〉



 矜持と共に言い切った。

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