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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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239.まだやるんかい!? part2

 セロ直属の“家族”達は、誰も彼も、切れ者だった。

 ある者は知能的に、ある者は物理的に。


 ディーズはその中で、彼独自の位置を確立しようと、死に物狂いだった。

 役に立たなければ、セロへの忠誠を「ナメた」事になり、「処刑は続行」だからだ。

 いや、「処刑」を待てれば良い方だろう。ディーパーになりたくてもなれなかった彼では、“家族”の気紛れや不注意で、死亡事故の当事者になれる。

 何より彼は、本当に価値ある物を得たかった。

 金でも、一時の快楽でもない、それらを手段として目指すべき、人間の理想。

 セロに言われたからじゃない。

 彼は気付かせてくれたが、それを欲するのはディーズの心からの意志だ。


 家族の中どころか、組織の中ですら一番の腰抜け。

 いつもは自信を知らぬように、背を折り曲げて卑屈に佇む。

 弱虫泣き虫背虫のディーズ。

 だけど誰より、物を見ている。


 気が付いた時には、セロがカルテルのトップで、ディーズは彼の後継者に指名されていた。彼の正体は“家族”以外に隠しているとは言え、歴史的には快挙と言える。

 でも、まだだ。

 ここが終わりじゃない。

 勿論、セロから王座を譲られるなり奪うなりすれば、それで終わるものじゃない。

 まだ彼は、金で買うべき本当に尊い物を、見つけられていない。

 手にしていない。

 

「名を残す事だ、ディーズ」


 セロは言っていた。


「死なない生き物ほどつまらない物は無い。だが、不可能に、永遠に挑戦しない人生ほど、貧しい物もまた、無い」


 彼の目的はそれだ。

 誰にも真似できない頂点に君臨する。

 治安機構を買収し、国家にまで食い込んで、それらは全て名誉の為に。


「記憶される事だ。崇められ、焼き付けられれば、人格は死のうと、神格カリスマは死なない。

 そしてその為には、巨大な悪である事だ。善人として語られる者でも、誰かにとっての悪人だが、悪人として語られる者は、誰にとっても同じ悪になれる。善行の逸話は時に嫉妬を呼び、ケチをつける者が出る。だが悪事を働いた噂なら殆ど否定されず、誰もが喜々として語ってくれる。誰かにとっての宝物でなく、誰にとっても呪わしき物となるのだ。

 スケールの大きい悪によって、書物や伝承に名を残した者達は、枚挙に暇がない。

 の大王がそうであったように、の独裁者がそうであったように、人類の末尾にまで残る者は、莫大な数を殺し、支配した者だ」

 

 人は時に彼らを軽蔑する。

 しかしそれは、怖いからだ。

 残虐な者程、“普通の人間”にとって、自らから切り離したい相手となる。

 “異常”と言って弾く。

 誰もがその座に居ても、同じことをしても、おかしくなかったのに、

 自分とは違うナニカだと主張する。



 つまり、悪魔や怪物と同じ存在に、昇華してしまう。

 洪水や雷を、自分達の日常と切り離すように。

 そうやって、憎まれ、嫌われ、恐れられた者は、

 神話になれる。



「晦まされるな、ディーズ。金を求めても、富に焦がれるな。道徳に背けども、仁義を忘れるな。真に価値ある物を得るんだ。今所有するだけなら、手に入る物の量には、何処かで限界がある。しかし時間を超えて支配し続ける事が出来れば、それは大王が言っていた、無限に広がる領地となる。

 誰かがワシらを、魔法の根幹に置く時代が来る。NNS(新労働者党)達の中に、あの虐殺を基に魔法を再構築する者が居るように、ワシらは誰かの魔法として、この先も生き続ける。人々が忌避し、故に忘れられぬ名を、残す事さえ出来たのならば」


 それはセロの夢だったが、ディーズもいつしか、それを望むようになった。

 今の彼らが、神様の名前を唱えながら、奇跡を呼び寄せるように、

 将来この国の、もしかしたらもっと離れた場所で、彼らの名が呼ばれ、

 上位者の内の一柱として、並び立つ。

 

 そう、彼は、きっとそういう、根本的な野望が欲しかった。

 どうやっても変わらないように見えた世界、その形に手を加えたかった。

 どれだけ無様でも、恐ろしくても、命に執着した理由が分かった。




 ディーズは名を残す為に、生きて戦う事を選んだのだ。

 

 


 だから、


「ありがたい申し出だけど……、僕は、譲る気は無いよ」

 

 今や彼の答えは決まっていた。


「カミザススム、大人しく心臓を差し出してくれ。そうすれば、このおじいさんを生かして解放する」


 チャンピオンが相手であろうと。

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