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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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238.過去最高に先輩っぽい人達 part2

 吾妻が右の親指、人差し指、中指で丸を作り、それぞれの指の間に挟まり組まれるように、左手も同じ形にする。薬指と小指は上に立てた状態だ。

 掌印。

 完全詠唱の構え。

 だがこれは、背後の4人を守る為のブラフ。

 このまま直進させない為の物。


「あいつには、俺の魔法を置いといた所で、当てんのは無理だ」

「だろうな。半端な速さじゃねえ」


 彼女が使うのは簡易詠唱。

 乗研とトロワは止める役割。

 稼ぐ時間は、


「2、いや、1秒で良い」

「任されてやる」

「今回の手柄はお譲りしましょう」


 乗研はコの字型にした左手に右拳を打ち付ける。


「“罪業と化ける財宝(ファーヴ・ナックル)”」


 トロワは鎧の袖でレイピアの身を引き擦る。


「“堅き中に抱く本懐(キャラッド・ボーグ)”」


 バッタは4人が守られている事に気付き、上に跳んでから四本の肢で羽根を投げつける。

 乗研が横一列に並べた黄金板がその弾幕を防ぎ切り自壊。

 トロワが手首を捻り下ろす。

 長く柔軟な剣身がバッタを囲い、彼女が腕を引く事で内を絞める。

 縛る為と言うより、刃で八つ裂く為の動き。

 バッタの判断は速かった。

 絶対的な防御能力を持つ二人を後回しにして、能力を攻撃に振り刃のほとんどを自分の身から離しているトロワに、全ての眼を定めたのだ。

 引っ張り込もうという意図が入った攻撃は、後退を潰す剣の檻となっているが、逆にバッタの前側への展開が薄い。

 幾つかのフェイントを挟みつつ、寧ろ自分から彼女の方へ向かえば、他より容易に抜けると考えたのだ。

 その先は、概ねで見立て通りに進んだ。

 バッタは切断網せつだんもうを潜り抜け、トロワを急襲。

 畳んでいた後ろ肢を解放し、彼女の急所を遮るように滑り入った黄金達の一つに止められ、

 

「バレバレだな」

「全くね」


 胸の中央を突かれる。

 魔具本来の剣身。

 竜胆色の刃は飽くまで魔力生成物。

 それは実体剣と根元を共有しているだけで、元の剣を変形させているわけではないのだ。

 彼女の剣技への絶対の自信、そして効果のシンプルさによって、そのモンスターの耐呪が貫通され、傷口の呪いが点で打たれる。

 柄のグリップスイッチが押し込まれ、既に装填されていたモンスターコアから魔力を抽出。剣先から超短距離レーザーを発射する機構が作動。

 体に刻まれた呪いの本質をある程度察し、これで突かれたらかなりの部分を失うと予感し、横に回避「ジタバタすんじゃねえ」するのを許さない乗研。

 バッタの左右に、上下に、背後にも、黄金板が既に配置されており、ぶつかってしまえばそちら側へのベクトルをゼロにされる、どころか反作用と反射能力とで押し返される。

 トロワの突きが放たれる。

 バッタは中肢2本でガードし、前肢2本で剣を掴み、なんとか傷口に到達するのを防ぎ、


 ジャスト1秒。

 完全に止まった。


「“虚世マキャーラ”」


 吾妻は唱えた。

 空中に黒く塗りつぶされた円が二つ。

 魔力の中で、真っ白と真っ黒は、特殊だと言われている。

 それが現れた。

 片方は何も無い場所に、もう片方はバッタの頭と胸の境目辺りに。

 と、バッタの頭はその中に()()()行き、少ししてからもう一つの円から転がり出た。

 トロワが念の為もう一突を、残った胸の傷口へ正確に入れ、

 それはびくんと跳ねるように後方へ飛んで、背から地に叩きつけられる。

 死んでいる。

 誰が見ても分かる事だった。

 

「ま、こんなもんだよな」


 吾妻が一息吐き、乗研は用心深く歩み寄りながら、それが本当に死骸なのか、確認している。

 トロワは無言のまま、肘で剣身を挟み磨いて汚れを落とし、鞘に納めた。


「えっ」

 よく理解出来ないような顔の六本木。

「え、えっ、これ、終わり?マ?やっば、えっ、マ?」

「エッグー……」

「は、早業だねぃ……」

「さっきまでの死闘感なんだったんスか!?」


「早くはねーよ。この時間使って幾ら稼げると思ってんだ腹ペコハネトビ共がよー……!」

「私がやるのだからこれくらい当然よ!」

「バカ野郎共が。簡単なわきゃねえんだ。俺かそこの成金女が一手読み違えてりゃ、テメエらが串刺しされるか、トロワの腹が景気よくぽっかりいってた所だぞ?」


 どうやら生命活動は本当に停止したらしい。

 時間と手数で言えば、あまりにも呆気ない決着だった。

 しかし、互いに必殺を構えながらの死合。

 極限殺傷力同士の決闘とは、得てしてこんな物かもしれない。

 実際、危なげなく、とは言えない場面も多い。


「いや?余裕だったぜ」


 だが吾妻は、平気の平左で葉巻を咥える。


「誰も死なねー。簡単に勝てる。俺は知ってたさ」

「はっ、後講釈なら幾らでも言えるな。何を根拠にそう考えたか説明出来んのかよ」

「言えるぜ?」


 だが、


「言わねー」

「おいおい?そいつは嘘を認めるようなもんだろ」

「違ーよバーカ。お前はそんなんだからバカなんだ」


 彼女は空を見上げて、独り言のように繰り返す。


「その答えが分からないから、今のがどうしてこんなにサラっと終わったか分からねえから——」



——だからテメーはバカなんだよ。

 


 意地で言い返そうとしていた乗研は、その雰囲気に何か茶化してはいけないものを感じ、開けかけた口を閉じた。


「私が居たからに決まっていますよね!ノリド、分かったかしら?そんな事も分からないからあなたは足りていないの。そうですよね?」


 だというのに無法振りを存分に発揮するトロワに、


「あー、そーかね。まー近いか?惜しー、惜しー」


 乗研と本音で話すにしても今じゃないと、しっかり見切った吾妻だった。

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