231.全軍前進! part1
「す、ぅぅぅううう……」
魔力の循環を感じる。
一筆書きで、円に内接する逆正三角形。
世界で2番目に発見されたとされる、第二段階魔法陣。
夏休み期間中の新開部の活動によって、それが作れるくらいには操作精度を上げていた。
「ふ、ううぅぅぅ……」
魔力が発揮するエネルギーを、より強力にするだけでなく、それが感じる情報量も、より多量に、細密になっている。
「す、ぅぅぅううう……」
優れた職人や技師は、パーツに触れただけで、それにどれだけの傷が付いているか、曲がっているか、まだ使えるか、直せるか、そういった事が分かると、聞いた事がある。
「ふ、ううぅぅぅ……」
それと同等、もしくは、それ以上の精度。
1つの魔力に、複数の受容器が敷き詰められているかのように。
その状態を、目指さなければいけない。
「………うん、今は比較的少なめ」
穴の外から流れ込んで来る情報を元に、周囲の敵の流れを見て、今がまたとない好機と見た。
これ以上を待っていても、それが来る前に、この空間が見つかる可能性の方が高い。
「俺の方も仕込みは終わっている」
クワトロが言った。
「僕からしても、気になる所ナシ!」
これはシーズ。
「んー……!イケるわあ……!」
なんか良くない意味に聞こえるウーナ。
「ロクさん、八雲さん、またちょっと大変になります。頑張って下さい」
「なあに、ジェットコースターだと思っとけばいい」
「舌は噛まないようにするさ」
気遣うミヨちゃんに対して、二人は心強い言葉で返す。
「ぼ、僕の事も離さないで頂けると……ハイ……」
戦闘はからっきしらしいディーズは、人質という意味もあって、彼女の拘束、もとい、保護を受けている。
「貴族に雇われて家出少年探してたら、マフィアと一緒に永級のモンスターの中を駆け抜ける事になるとはなあ……。クソオヤジめ…!これはもう、1杯、2杯程度の奢りじゃ済まないからなあ…!店一つ貸切らせてやる…!」
六波羅さんは、ここに居ない誰か——多分宍規刑事——に向けて、怒りを滾らせていた。
「カワイイ背中」「ちょっかい掛けちゃう」
「言っとくけど、今の俺は半端じゃないくらい察するから。攻撃とかさせないですから」
「チラチラ見てたのに」「触りたい癖に」
「胸とコートの隙間とか」「タイツの網目とか」
「そ、そういう事言うなよ!こらぁ!」
「童貞クン、クスクス」「初心ウブ、クスクスクス」
「覗かせてあげよっか」「お手々挟んであげよっか」
「魔が差すのは止めんが、腕の一つや二つは覚悟しろよ?」
「腕だけ?首じゃない?」「痛いだけ?安い安い」
ドーブル達——二人ともドーブルという名前らしい——が揶揄って来て、俺とニークト先輩で言い返す。この4人にシーズを合わせて、先頭集団になる。
って言うか、俺の事ナメるの速過ぎでしょ。もっと俺に対して、こう、強者の迫力とか本能的危機感とか、感じないのか?感じない?あ、そうですか。
「よし、それではシーズさん、お願いします!」
「うん、僕からすると、こういうのが得意分野なんだよね。最近細かい事ばっかやらされてたから、フラストレーション?溜まっちゃって。働き方改革って奴が、必要だって思ってたんだ。あれってニホン人が言ってたヤツだよね?」
特に意味が薄そうな事を喋りながら、両拳を突き合わせ、左肩を前に出した前傾姿勢となって、
「“一方的に幸せな旅”!」
発進!
瓦礫の一部を破壊しながら坂を作って駆け上がる!
彼の魔法は発動時に決めた場所へ移動するまで止まらない、と言うより止まれなくなる呪い!それも魔力を前面に纏いながら、障害物を破壊し尽くし、最短距離で突っ切ってしまう!
「“無量の名を称えよ”!」
コおン!
六波羅さんが完全詠唱!
「行っッッくぞおおおお!」
シーズが開いた道をあとの11人で喊声を上げながら征き上る!
「“割れて芽吹き戻る”!」
立て続けにクワトロも詠唱!
アスファルトを砕きながら左右に伸びる植物!
勢力を少しでも散らす為の囮用!
ジィチチ、ジィチチ、ジィチチ、ジィチチ、
ジィチチ、ジィチチ、ジィチチ、ジィチチ、
集団全員にビートの加護!
俺と先輩が最前に先行!
ドーブルがすぐ後ろに続く!
「来ます!空から!あと左の道からも!」
「了解!」
「聞いた」「分かった」
前方に生きた雨が降り、飢えた川を氾濫させ、惨劇の波がこちらに押し寄せる!
〈アハハハハハハハギャハハハハハハハ〉
〈ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ〉
「Break!」
魔力爆裂で隙間を穿つ!先輩と二人で中に突入!
「「ォォォォオオオオオオッッッッッ!!」」
遅れて入ったドーブルを守りながら、ひたすらガムシャラ直進を続ける!
俺が魔力を何度も起爆し、正面衝突コースの個体を弾き、
それでも前や横から食い付く、しつこいのを先輩と二人で除け開き、
殴り下ろし、蹴り上げ、ただひたすらに前へ!




