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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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230.お祈りタイム part2

「本物の蝗害みたいに共食いとかすればいいのにねぃ!」

「来るわよ。構えなさい。食いしん坊を追い返すの」


 彼らが立ち上がり、それぞれ四方の壁を、その向こうにいるであろうおぞましい怪物を前にして、


「ひぃいいいいっ!」


 八守が壁から飛び離れ、尻餅をついた。


「どうした!?」

「き、来てるッス!」

「何?」

「すすすっごい大群ッス!かたまってるッス!羽音がいっぱい重なってて」


 彼らの背を殴打する衝撃!

 壁の一つに穴が開き、それを修復する為にダメージが配分され移されたのだ!


「“抱懐ボォォォォグ”!」

 

 トロワの簡易詠唱!

 竜胆色が付いた剣の先端で連突!顔を入れようとしていた1匹を突き返す!


「ぐっ!クソ!“罪業と化ける財宝(ファーヴ・ナックル)”!」


 反対側に開いた穴から黄金を撃ち出し誘導を画策する乗研!

 だが壁の中に旨そうな肉を見た彼らは、既に釘付けになっている!

 集合した時の解呪効果も相俟って、ほとんど見向きもされていない!


「ま、まずいって!」

「“マフくん”…!」


 狩狼の焼夷拡散弾マスティフで1匹の頭が半ば吹き飛ぶが、脳を失っていそうな損耗具合に反して尚も箱の中身を噛み砕こうと身を乗り出す笑みぐち

 

 壁の修復スピードが速くも追いつかなくなっている!開いた穴にバッタの身が捻じ入れられ、ill(イリーガル)ローカルによる密集の解呪効果で、再生能力が阻害されている!

 中の6人の傷は治っても、壁がみるみる削り取られていく!


「出てけエエエエ!出てけやああアアアアア!!!」


 乗研が黄金で作った棘を拳に装着し、それで荒々しく、もはや半狂乱で殴りつける!

 通常は殴った側に入る反作用を黄金が全て引き受け、且つ自壊によって発散する時に一部のエネルギーを相手に押しつける事もできる為、腕の損傷を気にせず全力で振り抜き、追加ダメージを入れる事も可能!

「笑ってんじゃねえよおおお!何が面白えんだコラクソオオオオオ!あああああああああ!!」

 恐れによって全力任せにぶつけられるガントレット!それで1匹1匹をモグラ叩きのように押し返す!


「シッシッ!ッス!来るなッス!」


 八守も兎の後ろ脚でバックキック!能力発動時にはその方が、前蹴りより遥かに大きな威力へ強化される!


「削るのむりめなら…!“グレちん”しか勝たん…!押すっきゃない…!」


 狩狼はブラッドハウンドで殺すのではなく、グレイハウンドの威力で叩き出すというアプローチに変更!特に口の中を狙い、痛みで逃げ出す事を期待する!


「おりゃあ!コモちゃんパンチ!コモちゃんキック!」


 訅和は魔法能力をフルに活用しながら、更に自らも殴る蹴るの暴行を加える!高度な身体強化から来る剛腕によって、その威力は決して侮れないものとなっている!

 

「くそっ…!なにわろ!マジクソ…!」


 六本木は、今は何も出来ない。

 彼女の能力は、完全詠唱によって生み出された物が一度破壊されると、再生成まで時間を要する。

「マジ無理!だっっる…!マジないんだけど!」

 身体強化は使える為、おっかなびっくり白く丸い顔を殴っているが、ほとんど用を成していない。同級生達が戦う中、いつも土壇場で足を引っ張る自分に痛罵を浴びせ、無力感を押しながら微力を添える。


 中からの猛反撃に正面から浴びせられ、バッタ共の態度はまるで、小便を引っ掛けられた蛙のよう。


 つまり、まるで怯まない。

 確かに殴られれば、衝撃で一時的に引いてくれる。

 しかしそれは、物理的な反応。

 心理的には、何らのプレッシャーも受けず、

 何度も何度も顔色を変えずに再突入を、

 否、寧ろ必死さを増して、勢いを増幅させて、

 一種憎悪しているかのように壁を叩き魔法を噛み千切り奥へ奥へ、扉が開いた満員電車の如く、後から後から集まってくる仲間共に後ろから押されて、二度目はより深く、三度目はもっと先へ、苛烈さを執念のように積み上げながら侵入して来る!


「ぐぎぎ、クソおっ!」


 壁からのダメージのフィードバックが、どんどんと深刻化している。

 それを治す為の必要魔力は多くなっていき、その内に彼らの全財産によるカンパでも足りなくなる。全員の魔法が解かれ、壁が失われ、武器も盾も鎧もなくなるタイミングが、すぐそこに来ている。

 

 彼らはその時を考えない。

 白の面積が黒色に塗り替えられていく景色の中、少しでも塗り直そうと、ただ無心に手足を動かして、




 真っ黒に染まってしまった。




「ちょ、なんなのあれ!?」


 六本木の驚愕が聞こえる。

 他の全員が、同じ思いだった。


 隙間から見えるバッタ達の胴、それが黒い平面から生えていた、

 

 わけではなく、

 

「呑み込まれている?」


 それが正しい。


 奴らは胴から下を何らかの、奥が見えない穴みたいな物に呑み込まれ、

 そこが閉じて、半分だけ残された。

 力と命は暗黒の向こうに置いて来たらしく、残骸達はドサドサと物言わず地に積まれていった。


「よー、ガキ共、どんなもんだ?」


 壁の外から、女の声が聞こえる。


 それを耳にした途端、乗研は露骨にげんなりし始めた。


「世にも珍しい、九文字詠唱魔法、って奴を見た、ご感想は?」

「おいコラ、テメエがどうしてここに居やがる」

「さーて、どーしてでしょー?当ててみなー?」


 あれだけ暴力的に主張していた生命力が、綺麗ぱったり消え去って、訅和は能力を解いた。壁が除かれ、そこにはぽっくり逝ってしまった半分バッタの山があり、


ill(アイ・エル・エル)とは言ってもG型。ま、ざっとこんなもんだ、ってな」


 その上に脚を組んで、彼女が腰掛けていた。


「よゆーだろこんなん」

「余裕なのはテメエくらいだろうが、勝手な尺度をこっちに求めんな、マジカルバカ女」


 チャンピオン第5位にして史上最年少、吾妻漆は、


「まーな」


 どこかつまらなそうに、乗研のツッコミを受け止めた。

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