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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十章:欲を張るなら、力を示せ 

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229.一時間前の俺に今の状況を説明しても多分信じない part2

「……い、一時的、だよ」

「ディーズぅ?ディーズディーズ、ディーズよお?ちゃんと考えられて偉いでちゅねえ、か?ええ?」


 クワトロがディーズに近寄り、その頬を手の甲でペシペシと叩く。

 舎弟にリキを入れる兄貴分、といった構図だ。

 こわい。


「そのキレる頭で答えてみろよ。俺達にとって、一番大事な事は、なんだ?」

「……か、かぞ」「声が小せえ聞こえねえぞ!」「家族だ!家族だよクワトロ!僕達は家族の為に全てを捧げなきゃ!」

「そうだあ!家族の為に、()()()、だ!全て、分かるか?ン?お前のその小せえタッパも、細っせえ肝っ玉も、チャッチイ腕っぷしも、『全部』、って意味だ」


 頬擦るくらいに顔を近づけ、両手で頭をがっしりと固定する。

 耳の近くで、低く鳴らす。


「お前、覚悟が足りてねえんじゃあ、ねえのか?エエ?命惜しさに、親父の命令を、家族の掟を捨てるのか?」


 場の温度が戻って来た。

 互いに掌印や姿勢を構え直し始め「クワトロは!」


 ディーズは一度頭を離すと、正面から額同士をぶつけ合う。


「く、クワトロは、プライドの為に、家族を、う、う、売るのか……?」

「何?」


 震えながらも、上目で睨む。


「クワトロは、ちょっとの間も、が、我慢、出来なくて、家族を、それで、危険に晒す、の……?」

「危険、危険キケンきけーん………テメエはすぐそれだ。俺達は」「危ない事、しなくちゃいけない……!でも、それって、よ、余計な、危なさを、上乗せする、そ、そんな話じゃ、ないだろ……!」


 両拳が、力強く握られる。


「手札に、2と3…!テーブルを見ても、フラッシュも、ワンペアさえ、成立しない…!」

「その状況でも、オールインしなきゃなんねえ時が、ある」

「今は、違う…!まだ、手番は、ある!クワトロは、流れが悪いからって、やけっぱちで、考える事をやめてるだけだ…!一人で賭けるなら、それでいいけど、クワトロが払ってるチップは、僕達だ…!家族の財産なんだ…!」

 

 クワトロの目が、スゥー、と、細められる。


「も、もし、クワトロが、無鉄砲な賭け方を、やめないって、言うならさ…!」

「言うなら、どうする?」


 ディーズがタキシードの内側から何かを出し、その先端を相手の左胸に押し付ける。


「!」

「………正気か?」

「あ、ああ……」

「冗談じゃ、済まなくなるぜ…?」

「正気だよ!正気だとも!」


 あれは、

 アニメとかで見た事ある。

 中折れ式で、一発だけ装填可能な拳銃だ。


 確か対モンスター用の、コアから作った魔弾を撃ち出す銃も、そんな形をしていた。

 一発一発が高価な上、撃つたびに銃身にカートリッジを挿して、内部の魔法陣に魔力を通さなきゃいけないから、装弾数を増やすメリットが無いのだとか。

 というか、マガジンとか入れると、魔法陣用のスペースが狭くなって、逆に威力が下がるらしい。だから、本来競技用で、バレル部分を色んな弾丸用に改造しやすいそのモデルが、魔具型拳銃のベースに選ばれた。


「し、知ってるでしょ…?この距離なら、クワトロが持ってるどんな防御も、魔弾の貫通を防げない…!」


 って言う事は、彼は今、兄貴分の命を握っている。

 り合いの間合い。


「てめえ、家族に銃を向けよう、ってのか?家族の掟に、本気で逆らうつもりか?」

「そうじゃない…!こうしないと、家族が死んじゃうから…!オヤジの財産が、無駄に失われちゃうから…!ファミリーの掟に則って、それを守る為にこうしてるんだ…!」


 違反者はクワトロであると、言外に告訴している。


「掟がある限り、俺はこの銃口を、死んでも動かさない…!クワトロがオヤジの持ち物を無駄遣いするなら、引鉄を引かなきゃいけなくなる…!」


 先程とは少し異なる緊張感が、膨れ満ちていく。

 誰もがその二人を、その間にある銃を、その引鉄に掛かった指を、注視している。


 二人は無言で、どちらも目を一切逸らさず、静けさは緩慢に、しかし確実に破裂スレスレへと差し迫っていって——


「クワトロちゅわあん?」


 女が、

 蠱惑的光沢に身を包んだそいつが、シロップが沁みたスポンジに乗った、クリームにスプーンを入れるみたいに、沈黙をふわりと破った。


「その辺でいいでしょ?ディーズちゃんで遊び過ぎでちゅよ?」

「……ククッ、クククク………」


 クワトロの肩が震え出し、


「ハーッ!ハッハッハッハー!ハッハーッ!」


 え?何?

 急に笑い出したんですけど?怖い!逆に怖いよ!?


「ディーズぅ!言うようになってんなあ!」


 なんかバシバシと肩を叩かれ、ディーズがオロオロし周囲を見回している。

 いや、こっち見られても。

 これ俺達、何を見せられてんの?


「クク……、ディーズ、悪かった。お前の言う通りだ。お前が正しい。のぼせちまってたぜ。助けられたな」


 身を離しクワトロは、ディーズの衿周りを直してやってから、


「いいぜ?お前の仕切りだ。やってみろ」


 そう言ってこちらに無防備な背を見せ、家族達の方に下がって行った、が、

 

「ああ、そうだ、一つだけ添削しといてやる」


 帽子を押さえながら途中で振り返り、


「次やる時はタマを入れとけ。発射す気が無くてもな」


 指摘されたディーズは、人差し指にトリガー部を引っ掛け、それをぶら下げたまま両手を挙げた。


 


 というわけで、つい10分前までは俺を見るや色々ブッパして来た人達と、こうして和気藹々と腹ごしらえを………ごめん和気藹々は嘘だわ。


「うっわ」

「なんだ」

「この先も踏み抜かれてる。って言うか穴だらけだ」

「わざわざ人が隠れられそうな場所を掘り返してるのか?どうやって見つけたんだ?偶々か?」

「それもありそうですけど………」


 俺はロクさんを見る。

 彼は分かっているようで、


「俺の仲間だ。逃げ込んだ所を見られ、しつこい奴に追い回されたんだろう」


 寂しそうに、だけど驚きはせずに言った。

 サブローさんは、他のみんなも、無事だろうか。

 少しでも、生き残っていればいいのに。


「配管工は廃業か?」

「僕からすると、頭ぶつけるから、むしろ朗報なんだけど。交通機関はもっと、でかい乗客に配慮すべきじゃない?ユニバーサルデザインって知らないのかな?」

「はいはあい、シーズちゃんはちょっと静かにしまちょうねえ?」

「はあいママ」


 感傷的な空気の中、ドデカくてトンがってイカつい大男が、美女の膝枕で指を咥えて、赤ちゃんプレイを始めやがった。


「クスクス……シーズ、ママに欲情してる」「クスクス……シーズ、おませさん」

「してない!僕からすると、これは親子のコミュニケーション!」


 イヤ過ぎるので目の置き場を他に探すと、ディーズとばっちり合ってしまった。

 彼も何だか後ろめたそうな顔をしている。

 和邇さんボタンが欲しい。押すと「気まずい」ボイスが出るヤツ。


「君らみたいな、法律守って、納税してる側からすると、クソな話って分かってるよ」


 無言で見合うのが耐えられなかった為か、彼はそう言った。


「ごめんだけど、これが僕らの法、僕らの世界なんだ」

「………勝手な人達」

 

 食事の中に、遅効性の毒や呪いが無いか、確認作業中のミヨちゃんの声が冷たい。

 

「『世界』とかカッコつけて、不可抗力みたいな言い方してるけど、ただ楽な方に逃げただけでしょ?事情はあるかもしれないけど、正しく生きようとする人達を邪魔して、同じように弱い立場の人を、ダメにする事で成り立つ生活なんて、最低だよ」

「そうかもしれないね。変わる気は無いけど」


 ミヨちゃんは怒っているが、俺は不思議と、彼らを嫌っても憎んでもいなかった。

 ただ危なくて、だから怖い、それだけだ。

 俺自身、まだ自分本位に周囲を荒らす奴、っていう加害者意識が抜けてないんだろう。

 8年前から、幼少期からある物で、一朝一夕で消えるものじゃない。


 だから、


「お互い生き残ろう」

 

 そう言った。


「で、君らは逮捕されて、家族仲良く塀の中。それで万事解決」

「その時は俺と同期で塀の中かもな」

 

 ロクさんが拳を突き出し、ディーズがそれに応えて打つ。


「出所は俺の方が遥かに速いだろうが」

「実を言うと、その未来はご遠慮したいんだ。オヤジに大目玉食らうだろうから」

「ふん、お前ら程度の使い手なら、どの道長くはない!」


 ニークト先輩からの、厳しいお言葉。


「何故なら、拗らせチビを殺しに来ると、自動的にオレサマの敵になる。そしてお前らは、どいつもこいつもオレサマより弱いからだ!」


 「オレサマに殺される前に、足を洗うべきだな!」、

 その忠告に、

 「それはないよ」と、ディーズは気のない返事をしただけだった。

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