223.そこでギスらないでくださーい! part2
「白取先生」「理解していますとも!ええ!大問題で」「いいえ、そうではなく」
「「「「「「「「「「——八!九!——!」」」」」」」」」」
「「お前達を、異端と認定する」」
「間に合っています。これにて時間切れです」
彼らの声は途切れ、その顕現が熱狂を掻き消した。
「「お前達の行為は、教会の決定に逆らう物である」」
原理主義者達が、学園襲撃に参加する。
その情報を何処から手に入れたのか、彼らは自主的に協力を申し出た。
「「教会は、父の御意思を計っている。それを、妨げてはならない」」
男女二人。
黒い頭巾とケープ、純白のトゥニカ。
円が描かれた顔布。背格好も違いが見えない。
両手で一つの大きな輪を作り、
青白い大輪が頭上で輝く。
救世教会極東方面担当司祭。
「「悔い改めよ。お前たちは、破門だ」」
否、
いいや、
違う。
今の彼らは、憑座だ。
その言葉を伝える、無線端末だ。
救世教会が誇る、最高傑作。
深級ダンジョン、“奇譚行”にインスパイアされ、その魔法を作り上げた、
生ける天使、
教会の代弁者。
「資格」の認定者にして任命者。
チャンピオン第3位、“聖聲屡転”。
「お、お前、は……!」
原理主義者の一人が、その姿を震える指で差す。
「お前はぁ!神意を無視すると言うのかあ!漏魔症への神罰に、異を唱えると言うのかあ!何が、何が枢央教会だ!何が教王庁だ!お前達に、破門の権限などあるものかあ!」
「「であれば、もう一度、唱えて見せよ。その勇気があるのなら」」
「………う、うぐうぐ、い、言わずとも、き、きて、きてぃきてきてぃきて………」
言葉の威勢が良くとも、先ほどまでの高揚は、もう見られなかった。
脳内麻薬の効力が切れ、天使に見放された現実を直視せざるを得ず、恐れが湧き出てその口に引っ掛かる。
「い、忌々しい…!忌々しいぞ…!忌々しいだろ!忌々しく思うべきだろ!漏魔症だぞ!?神から捨てられた、ゴミだ!ゴミを捨てぬ奴に、ゴミを捨てろと言う!我々の何処が異端なのだあ!?」
「「決めるのはお前達ではない。父の御意向こそ全てだ。父の声を聞かずして、その許し無くして、父の子らを愚弄してはならない」」
「今更聞く事ではなぁい!神の法とは、後から後から動かされるほど脆くはない!正しさとは普遍にして不変!この世に矛盾が見つかったのなら、それは我々の目が腐り、耳が爛れている事に他ならない!人の都合に合わせて縷々変化する物を、神の教えと呼べるかあああ!?初志は貫徹されなければならないィィィィ!」
「「父は法を残し、子は言葉を残し、我々は読み解く。これまでの解釈が、違っていただけの事。旧き読み解きの方を絶対とし、真理を『此れ』と止めてしまうは、それこそが父を蔑ろにする態である」」
「詭弁である!救世主の贖いの血によって、人の世に生まれ、人にだけ答える、受難にして福音!ダンジョン!それが我ら人の子等に向けた物である事は明らか!ではそれ程の、世の法則に書き足し、新たな世界を生み出せる者とは何か!造物主である!神である!それ以外に無い!
その神が!人に与えたダンジョンと、彼奴等を繋げる事を拒んだ!その出現と共に罰し、居ない者として扱った!
奴等は他の畜生共と同じく!人間ではないという事!理屈を捏ねた所で否定のしようがない!信仰的直感で分かる事である筈!」
「「漏魔症罹患者が魔力を操る事例が出た。それ以前に、彼らは扉による選別を通過している。他の生物のように無視されている事実はない。
父の深謀遠慮を、人の子の『直感』などという安直な早合点で、知った気になる可からず。『信仰』とは、弛まぬ探究の道と知れ」」
片方は沸点を超え、
もう片方は氷点下。
一方は軽々しく鳴って、
他方は厳かに地を響かせる。
「「繰り返し申し伝える。お前達は、破門だ。これは、神聖ローマ市国教王猊下へ下託された、御詔命である」」
「そんな、そんな忌々しい…!いまいましいいいい!いまいまああああングッ!?」
信仰内部での地位を失い、彼らの魔法が効力を大幅に減じ、
抵抗が無くなったそこを酒精が駆け回り、
彼らは意識を失った。
“聖聲屡転”は、
遥か西方、神聖ローマ市国にその本体を置く、教会の宣教者は、
教員二人に向き直る。
「「此度の事、我々の身内の不手際である。改めて、謝罪しよう」」
「お受けしましょう。これからも、互いに良き隣人でありますよう」
「「そうあれかし」」
八志が前に出て、握手が交わされ、円満が確認される。
司祭二人は中央棟に向かい、職員が原理主義者達を回収しに来て、教員達は引き続き持ち場の見張りだ。
「………どうされましたか?白取先生」
彼女の背を、ヘルメット越しの視線が撃つ。
「私を、試しましたね?」
「試す?」
八志は振り返り、
白取へ面と向かう。
「貴女の能力であれば、詠唱前に、彼らが到着する事が、観測出来ていた筈だ」
「………」
「にも関わらず、私に彼らを殺させようとしましたね?」
「殺せ、とは命じておりません。意識を奪え、と」
「そこまで急激に血中アルコール濃度を上げてしまえば、まず助かりません。ほとんど死も同然ですよ」
八志は、白取がどうするのかを、見たかった。
あの局面で、彼が12人を、殺害する事が出来るのかを。
「どちらだったんです?」
「どちら、とは?」
「私の行動は、正解か、不合格か、どちら、そう聞いているんです」
「尊い人命が守られた。それが全てでは?」
「そうですね。ええ、私はそう思います。私は、ね」
彼女は言った、「時間切れ」と。
それは、原理主義者達にとってか?
それとも、試験時間が?
晴れぬ疑惑を互いに残して、
厚い雲が空を流れていた。




