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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第九章:ワルモノ共が、続々と

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222.じ、実力差ぁ……

「こいつは、この有り様はさあ、神に誓って、聞いてねえなあ……」


 彼らの敵は、祖国を奪った旧典教、及び救世教である。

 特に、旧典の民に資金や武装を送り続けた、クリスティア。彼らは大いなる強敵である。


 しかし祖国の現状を見れば、聖地奪還の為に、彼らの力が要るというのも、また事実。

 彼らからすれば、クリスティアが全軍事力を動員し、聖なる都を人の手に戻し、その上で元の持ち主に還す。それが道理である。


 だが先の遠征が不甲斐ない結果と終わり、軍事的支出削減の声が大きくなり、あの国は第二次出兵に及び腰になっている。

 その大きく重い腰を蹴り上げ、事業を再開させなければならない。

 

 彼らの想いは声となり、声を届ける為に爆薬が使われた。

 平たく言えば、テロ活動を繰り返した。

 そんな中、クリスティアで軍事力増強のプロジェクトが発足したと、そういった話が漏れ聞こえて来た。

 対モンスターにおける、一種の革命的転換となる、と。


 “プロジェクトAS”。


 眉唾を思われたそれは、内通者によって存在自体の裏付けがなされ、

 その通過点として、一つの障害が設定された。

 プランβ(ブラボー)

 どういった理屈かは知らないが、一人のローマンを殺せば、世界のダンジョン攻略能力が、飛躍するというものだった。


 クリスティアは、ライバルとも言えるキリルや央華、更に裏稼業や過激派テロリストまでもに声を掛け、様々な報酬や密約によって、このプランを実現しようとしていた。


 彼ら“聖地解放戦線”にも、話が回って来た。

 聖都奪還の確約が為された。


 これまで彼らは積極的に、丹本をターゲットにしたがらなかった。

 彼らの戦い方の元祖となる精神論は、その国が帝国だった時代のものから来ているし、大戦後も“丹軍あかぐん”と呼ばれる武装勢力が、旧典教徒との戦争時に、加勢に来てくれたという過去がある。


 尊敬すべき魂を持つ同朋として、クリスティアの犬へと堕した現在でも、表では標的と公言しながら、実は一種の聖域と化していた。

 

 しかし、今回の話は無視できない。

 意地を張って操を立てるのは簡単だ。だが、それで聖都への帰還が遅れるのは、本末転倒というものだ。

 彼らは何としてでも、

 自分達の為だけでなく、これまでその地を守ってきた祖先と、これからその地を目指すだろう子孫の為にも、

 “機”を逃すわけにはいかないのだ。


 だから、クリスティアの要求にひれ伏す、その屈辱にも耐え、こうして丹本の土を踏んだ。

 彼らの担当は、丹本国内最高と言われ、一種の軍事施設でもある、学園を攻める事だった。

 問題のローマンが逃げ込む先を潰しておこうという趣旨で、人が殺せずとも建造物の一つか二つを破壊して、混乱を起こしながら長く粘る事が重要だった。


 彼らは戦闘員であり、世界で最も効率的に魔力を発散できる、人間爆弾でもある。

 この学園の中枢となっている、メインの建物の中まで入り、自爆できればかなりの戦果、貢献となる事間違いなし。

 

 だから彼らは、中央棟を目指し、



「その、カタナ、だっけ…?ヒヒヒ……。それ、どうなってんだ……?」



 今、魔法を撃つ事すら出来ず、半数が死んだ。



「それって、魔法、なのか……?」


 彼が注視するのは、目の前の老人、の、腰に差された、一本の刃物である。

 今は鞘に収まっているそれは、少しでも気を抜き瞬きでもしようものなら、

 いつの間にやら仲間の首を落としているのだ。

 詠唱は最初の一回だけ。

 そのたった一回の効果発動で、こうなっている。

 効力を上げる為の、認識の共有をする様子もなく、ただただ不明な手法によって、ここまで数を減らしたのだった。


「ああ、よりによって、よりによってだもんなあ……」


 チャンピオンの中には、能力の詳細が公開されていない者達が居る。

 或いは、WDAにすら、手の内を明かしていない者達が。


 その中でも特に、情報が少ない者の一人が、この男、正村十兵衛であった。

 その情報量の少なさ、その原因の一端を垣間見た。

 成程、WDAの監査連中が、何処かでこの戦いを盗み見れた所で、何も分からないに違いない。


「神様にお見せする栄光が、思いの外ショボくなっちまう……ああ、いやだいやだ……」


 最大の果報を霊界に持ち寄るのは、出来そうにない。

 挑戦者に許されたのは、一縷を引き寄せ、そこに己の全身全霊をぶら下げ、切れぬように祈る事だけ。

 

「お祈りは得意だけどよお……?」

 

 祈るしかないとは如何なものか。


 男は動いた。

 右手を挙げて行く。


 同志の一人の首がポンと飛んだ。

 銃口で狙いをつけようとしただけで、彼は死んだ。


 右手が目標高度に到達。

 男の前で壁にならんとする他4人。


 逆袈裟の傷口から血流を噴出させる一人。

 構えた魔具ごと斬られていたが、刀が抜かれた姿も見えない。


 拳を握る。

 それを自身へと寄せていく。


 詠唱が終わりかけていた二人が同時に断たれた。

 刃が胸を横切ったらしく、肘から先が何処かへ跳ねた。


 到着。

 心臓を叩く。

 

 最後の一人の上半身が、斜めにずり落ちる。

 簡易詠唱による強化虚しく、紙のようにけてしまった。

 

「“勝利が無明を拓く(モンカー・ナカール)”ゥゥゥッゥウゥゥウ!!」


 だが、作動した。

 彼は勝った。


——これが、勝利だ…!


 彼の肉体には至る所に、骨や臓器にも魔導体が埋め込まれ、多重魔法陣を形成している。

 更に彼らは信仰によって、体内魔力経路が規定の形に統一され、完全詠唱をする事によってそれら魔法陣に、最大効率で魔力を流せるようになっている。

 全てが魔力で繋がってしまえば、一つの大きな機構として動作。人間には到底制御し切れない、莫大なエネルギーを瞬時に生成する。


——これが、神からのぉぉぉ!

——“愛”だ!

 

 その一瞬は、生涯で最も魔力に溢れた境地。

 奇跡と一体になる永遠の偉業。

 天上高き御方の指先で触れられる。

 

 のけぞる彼の目、鼻、口、耳から、

 光の柱が発し立つ。

 人体の穴から漏れただけで、見る者の視力を奪う程の光量。


 もう止める事は出来ない。

 魔術経路の中に、魔力が生じてしまった。

 あと数秒で、内圧に耐えられなかった道が破裂、爆発が起こる。

 今から魔法陣を破壊しようと、出る先を見つけた力が発散され、同じ結果だ。

 こうなった時点で、直径数十メートルのクレーターの出現が、ほぼ確定。


 彼の人生の、まさに絶頂期と言える一時ひととき

 白くみそがれていく世界の中、



 ぎぃいいいいいん、



 切り取られたように真っ黒な空間が、伸長していく。

 毛筆が白紙に墨を入れるが如く。

 その形状は文献等で見た、極東の戦士が使う、片刃の刀身に見えて、

 

 すらり。

        それが通った事で、縦

                 に

                 一

                 本、境界の如き直線が現れる。



                 細

                 い

                 な

                 が

                 ら、

                 確

                 か

                 に

                 そ

                 こ

                 に

                 在

                 る

                 空

                 白、

                 い

清浄なる、い           や            に濃い白色はくしょくが、

切れ間を見つけた         虚           ろな流体のように

その中に流れ込んで行く事で    無    が押し拡げられ徐々に染め上げ、

目の前の占有率が徐々に逆転、そこ へ 吸い込まれるように落ちるようにして、

視界はスイッチを切ったかのように、暗転。宇宙誕生以前の如きくろの到来に思え、


 

 

「あ」


 


 空が見えた。

 黒でも白でもない。

 灰色模様の曇り空。

 その中に一点、穿たれたような晴れ間があり、

 日光がそこから、スポットライトのように彼を照らす。


 かちり。

 その音は、

 刀が鞘に納まった事で、鯉口が鳴らしたものだった。


 周囲の景色は何一つ変わらず、

 蝉が鳴き、正村が残心を続けている。


 

               彼 は、

               縦 に

               割 ら

               れ て

               い た。



 不発。

 否々(いやいや)、それはない。

 爆薬で言えば、反応が終わり、爆風が広がる最中。

 起爆は済んでいたのだ。

 爆弾が、じゃない。

 爆発が、跡形も無く消えた。

 彼の魔力以外に、それほど大きなエネルギーも、感じなかった。

 それなのに。

 


 走馬灯の為に使われる領域まで費やして、

 完全に事切れるまでの時間を注ぎ込んで、

 それでも足らなかった。

 解らなかった。

 

 彼は疑問の中に、

 これより永劫囚われ続けるのだろう。


 答えを与えるなら、一つだけ。

 「それもまた、神の(おぼ)し召し」。

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