221.この上何が始まるって? part2
「“九涸”!」
ミヨちゃんがリボンを伸ばして払い落そうとするが、そこで起こった気流を使ってシャボン玉のように避ける種子群!
「詠訵!防御だ!こっちを直接守れ!」
「足りない!本数が全員分ありません!」
リボンは4本、
ここには5人。
彼女自身もまた守らなければならないので、一本足りない!
という計算をしている内に種が芽を出した!
そこから伸びる蔦か茎か分からない物が集合し、結び目を作り、その中から棘だらけの蔓を拡散させる!
「毒だ!間違いなく何か毒物を持つ種類を使っている!」
元となったDNAが持つ情報が使えるという事は、その植物が進化の中で獲得した外敵撃退用の特性を、思うがままに引き出せるという事!なんならミックスする事も!
生体さえ確保できるなら、超が付くほどに省エネで済ませる事が可能な能力!
魔素供給が乏しいダンジョン外でこそ真価を発揮する、まさに対人魔法!
「こん!」
ミヨちゃんは自分以外の4人に防御を行き渡らせ、
「こぉおおおん!」
それらで四方を囲み自分を守る!
「上から来るなら」「違う!詠訵!お前だ!植物はアスファルトでも割れる!」
足下を砕いて新たに一本が生えて来て彼女に食い込む!
「奴らはそれを補助出来る!一番守るべきはお前だ!」
「しまった!」
「ついにやった」「捕まえた」
よく見ると伊達男のコートから伸びた蔦がその足下を掘っている!
ミヨちゃんと奴を引き合わせる双子の能力も使ったであろう奇襲!
「シーズ、防御が消える。止めに轢き殺して——」
「“無量の名を称えよ”」
コおン!
響く鉦音!
六波羅さんの完全詠唱!
「無駄だ。鳥や人間と違い、植物には音でコミュニケーションを取る習性は無い」
「誰がいつ植物を操るって言った?」
「何?」
コココン、ゴゴゴ、ゴゴン、ジュバジュバ!
コココン、ゴゴゴ、ゴゴン、ジュバジュバ!
六波羅さんが光背を負う。
黄色から赤へのグラデーション。
伸び縮みするその図形、
まさにサウンドスペクトログラム!
固めの音が、散らかり気味に、
荘厳が騒々しく、変化していき、
ズッズッダーダ!ズッズッズッダーダ!
ズッズッダーダ!ズッズッズッダーダ!
引っ掻くような、攻撃的な調べ、
音源が分かった、六波羅さんの口だ!
思わずリズムに乗ってしまう!
片足を踏んで刻んでしまう!
心臓の鼓動もその拍に合わせ、
この場の空気がその舌で転がされ、
「す、すごい…!」
ミヨちゃんが驚愕!
その脚が蔦を払う!
傷口から液を排出!
体内から完全解毒!
「バフにも、解呪にも使えるのか!」
「僕から、僕、僕僕ナム」
「シーズ、また呑まれてる」「シーズ、またやられてる」
「!?」
「奴ら、いつの間に!?」
双子が背後に回っていた!
これで挟撃の形が出来た!
「シーズ、考えないで?」「シーズ、おいで?」
「可愛がって貰え、シーズ」
「ぅうおおおおおんんンンンン!」
巨人が突進!
リボンに引かれて5人でジャンプ避け!
「“誅狼”!」
下を通過した男の背中を、
先輩が爪で刺突しに行く!
双子が彼をインタラプト!
そこで1対2の攻防が発生!
一方が他方に引き寄せられて、
その勢いで回転して連撃!
手数で上回る双子に対し、
先輩も負けじと応戦している!
六波羅さんの魔法によって、
スピード面でも追い着けている!
「詠訵さん!私の防御は要りません!」
「分かりました!」
「あらあ?苦戦してるじゃなあい?」
「ああ、思いの外な」
キャットスーツが下りて来た!
伊達男と並び立つ!
ミヨちゃんが二人を叩きに行って、
六波羅さんが二番槍で続く!
「本物のナイスバディを見せてあげちゃう。平たい狐目顔ちゅわあん?」
「どこらへんが平たいか、言ってみてよ?体臭おばちゃん」
「こら!なんて事言うの!メッ!」
男は茨の鞭を使って、
女は柔軟な強化身体で、
それぞれの武器を存分に振るい、
目視を許さぬ高速戦闘!
巨人がまた来る!
先輩が女性に押され始める!
穴から増援が来る!
拳銃や魔具で俺を狙う!
考える。
もう、嘆くのはやめにした。
俺がこれを引き起こしたのかもしれない。
でも今はそれを議論する時じゃない。
俺がなんと言おうと、みんなはみんなの意思によって、ここで戦おうとすると分かった。
俺が出来るのは、みんなから逃げる事じゃない。
みんなと並んで、戦う事だ。
どうするか。
それはまだ分からない。
それでも彼らと最後まで行くと、その事だけは決まっている。
考えろ。
諦めるな。
全員生き残るなんて無理、
そういう先入観を捨てろ。
この場じゃほとんど役に立たなくても、やれる事を見つけようと——
(((あれ)))
カンナが、その目が、
壁の先を透かすように、細められた。
(((そろそろお時間ですか)))
時間?
(時間って、何の?)
(((何か、と言えば、)))
彼女は俺の顔を見て、
頬を綻ばせながら言う。
(((あなたの手番が、来ますよ?)))
遠くから、サイレンが鳴り響いた。




