219.自由意思を持つ罪人と心得ろ part2
「ススム君の悪人度なんて、全然ちゃっちいよ。スケール小さくてありふれちゃってる。だって選ぶ事が罪なら、私達、今在る全ての物が、罪を背負ってる事になるもん」
「それは、そうかもだけど、そんなにみんなが奪い合って、生き延びて、そうやって何とかやってきた物を、オレがたくさん台無しにしてるわけで」
「だから、それがなんでススム君がやった事になるわけ?」
「だって、オレがやった事、やらなかった事、出来なかった事が、」
「ススム君の周りで人が傷つくの?死ぬの?」
「そ、そうだよ!ずっとそうじゃないか!」
「そんなの、単なる運でしょう?」
「そうは言っても、不幸になってる人がたくさん…!」
「ススム君は——」
——その人達を攻撃した?
「その人達を不幸にしようと、何かした?そうしたかった?」
「そ、そんなこと、するわけが」
「じゃあ、偶々だよ。手も足も魔法も使わない。その意思も無い。ただ寝て起きて、それで色々な生物を、一杯殺してるのが人間だよ?それが偶々、ススム君の見える範囲に集中した。それだけ」
そんな、偶々って、
オレの近くで起こってるのは、オレが原因だからで………
「色んな人が色んな物を捨てて、その重みがどこかで人を潰す。それが、“意識せずに不幸にさせた”、って事。人間以外の因果も、そこに乗っかるんだから、ススム君の影響力なんて、何%も残らないよ。清浄とか阿頼耶とか、下手したら那由他分の一とか、そんなものでしょ」
「オレが、原因じゃ、ないって?」
「ススム君が何の努力も労力も割かず、行動も起こさず、それだけで不幸が呼べるんなら、人間社会なんて簡単に操れちゃうよ。複雑に絡んでる“禍福”って物を、一人で勝手に引き寄せたり出来たら、国を治めたり人を支配したりする側は、もっと楽だったと思うけど」
そんな事言ったって、現に人から奪って、不幸にして、罰せられる人が居て、
「私達が責めれるのは、“法律”とか“責任”とかっていう、『お約束』が発生する範囲だけ。ススム君が自分の意思で何かをして、それをやられた相手が不幸になる、そこまで行って、ススム君はやっとさ、“迷惑を掛けた”とかって言えるんだ」
今みたいに、と、彼女は言った。
「今、って……?」
「ススム君に関わる事が、ススム君の中では悪い事だからって、私達にとってもそうだって、決めようとしてるでしょ」
「それが、迷惑……?」
「ススム君が、ススム君の尺度で、私達に善意の押し付けをして、私達から優先順位を、選ぶ権利を奪おうとしてる。これはススム君から、私達への『攻撃』だよ。私達が何処でリスクを取るか、何がもっと大事と思うか、なんて事まで、ススム君が面倒を見るの?管理するの?そんな権利あるわけないでしょ?」
「ミヨちゃんにとっては、ミヨちゃんの命より、オレが近くに居る方が、大事だって言うの……?」
「少なくとも、“安全”よりは大事かな」
「身近な人の窮地より、危険が怖い性格なら、ディーパーなんてやってないよ」、
オレは、いつの間にか手足の力を抜いていた。
「私達にとって、ススム君と関わる事は、一緒に居れる事は、“好い事”なの。それだけは、ススム君にだって、否定させないからね」
ミヨちゃんが腕を引くと、そのまま壁をずり下がって、ペチャリと水面に尻をついた。
「さっきからゴチャゴチャそれらしい事を言ってるようだがな」
不機嫌そうな声。
顔を上げて見ると、ニークト先輩がスマホのライトで、下から自分の顔を照らしていた。
「オレサマにはお前らの理屈も都合も通用しないからな!お前が一度や二度選ばなかった、棄てた程度で、お前が呪って不幸を呼んだ程度で、オレサマがくたばると思ってるなら、それは大いなる間違いだ!」
オレは、自分を、高く見積もり過ぎていたのか。
「お前の事情なんぞ知った事か!オレサマの許しなくオレサマとの関り方を変え、オレサマから利得を失わせようなんて、増長が過ぎるぞ!お前如きにオレサマの内心まで覆せると思うなよ?大馬鹿者奴!」
確かに、
確かにそうだ。
ニークト先輩やミヨちゃんが、自分の好きなように行動してくれないから、癇癪を起こすなんて、
みんながオレが思った通りに考えて、同じ基準を持ってるなんて、
「プッ、」
バカだ。
オレはバカだった。
「フブ…!ククク……、先輩、それ、お化け屋敷の真似ですか……?クックック……」
ああ~………、笑える。
笑っちゃうほど、バカげた誇大妄想だった。
「先輩」
あと、見てて思ったんだけど、
「もしかして、ちょっと痩せました?」
「え?」
ミヨちゃんが振り返り、
「わ!ほんとだ!」
「今気づいたのか見世物女ァ!?」
「アハハハハハ!」
もお~、
この人達は、本当にさあ……!そういう所だぞー?
そんなんだから、死んで欲しくないってのに。
「おーい、若人共、そろそろ良いか?」
ロクさんがやっと介入してくれた。
って言うか、空気読ませてすいません。
「ごめんなさい、すぐに行けます…!」
「お騒がせしました…!」
「フン!どうでもいい事ばかり考えやがって!」
俺達3人は、今度は並んで歩き始める。
「青春だねえ」
「眩しいですねえ」
八雲さんと六波羅さんが、後ろから揶揄い気味に囃してきた。
少しこっぱずかしいが、俺のやらかしに端を発している為、何も言えなかった。
それより、何より、
「ミヨちゃん、ニークト先輩」
「うん?」
「なんだ勘違い家出チビ」
「ありがとう」
そっちを言う方が、先だろうと思った。
「………いーよ。また私と、学校に通ってくれるなら」
「分かればいいんだ分かれば!」
ああ、ダメだ。ダメダメだよ、コレ。
特大の地雷を抱えてる身で、
隠し事だってしてて、
なのにみんなが迎えに来てくれて、
嬉しい。
俺は、彼らを危ない目に遭わせたくない、筈なのに、
どうしても、喜んでしまう。
全くもう、本当に、
半端者な俺には勿体ない、
困ってしまうくらい、
自慢の友達だ。




