表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第九章:ワルモノ共が、続々と

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

329/984

214.狩り場だと思った?戦場なんだなコレが

「変、変だ、変だよ、これ………」


 ディーズの心配性がまた始まった。

 

「何が変なの?ディーズ」「どこもおかしくないよ?ディーズ」


 二人のドーブルが小心者を嗤うが、彼の震えは収まらない。


 彼らが陰から監視する先、記念碑だか何だかの前で、ターゲットが誰かと話している。

 それ自体に、問題は無いように見えるが、


「スナイパーが居る筈なんだ。そうだよ、撃ってる筈なんだ」


 彼は落ち着きを失い始める。


「仕事仲間の名簿、確認した。凄腕が居る。数キロ先から殺せる奴が居る。あいつは見晴らしの良い場所に立ってるんだから、今が最高、絶好のチャンスだ。なのに、やらない!」

「だからさ、僕からすると、ドカンと一発行きたいけどさ、普通はバレない、目立たない方がいいわけよ」


 シーズが苛立ったように指摘する。


「この国の往来でさ、いきなり魔法とか銃とかさ、撃てないでしょ。デカい魔具の所持だけで違法なのにさ。だから逃走の算段とか」「そういう!」


 ディーズにあるまじき食い気味な、大きな声。


「そういうことを!気にしない奴だって居るんだよ!破壊兵器みたいな奴が!そいつが来てる筈なんだ!なんで何もしないんだよ!おかしいって!」


 彼らが言い争っている間に、ターゲットを含めた二人組が、移動を開始。

 何かしらの案内のもと、建物の合間に隠れてしまう。


「ママ!」

「なあに?ディーズぅ?」


 ウーナがバイクのエンジンを吹かしながら応答。


「やめよう!もう帰ろう!なんかヤバい!このままじゃ失敗する!」

「ディーズちゃんは、そう思うんでちゅねえ?」

「う、うん!そうだと、思う!」


 微妙に自信が無いながらも、それ以上の、何かしらに対する恐れに背を押され、肯くディーズ。それを見てウーナは、スマートフォンを取り出す。


『俺だ。どうした?』

「クワトロちゃん?作戦変更。私達で、一番乗りを貰いまちゅねえ?」

『ディーズか?』

「なあんか、見えない所で、歯車が狂ってるかも、って」

『………分かった。予定を繰り上げる』


「ディーズちゃん?乗りなちゃい?ドーブルちゃんがシーズちゃんと遊んであげてぇ?くれぐれも気を付けてねぇ?」

「はいはあい」「分かりましたあ」

「ちょ、ちょっと!ママ!」

「大丈夫。あなたが気付いてくれた何か、それを見抜けた時点で、危機は回避されてまちゅよお?」

「そんなんじゃ、そんなんじゃないんだよ!もっと、もっと大変な事なんだ!関わるのは危険なんだよ!今すぐ逃げるべきなんだ!」

「ディーズ、ちゅわあん?」


 ウーナは“我が子”の顔を両手で挟んで、落ち着かせるように微笑む。


「これまでだって、あなたが怖がるのを見て、私達が罠に勘付いて、それで勝って来た。今回も、同じよ?」


 既に彼女は、この地に住まう宿無し達の社会を、その手足として使い潰せる立場にある。


 この地における情報戦で、彼らを出し抜ける勢力など無いだろう。


「私達は、アブない世界にいるの。アブない事しないと、生きていけないんでちゅよ~?」


 三手に分かれ、挟み込んで、5人で料理してやる。

 多少の困難では、ローマン一人殺す事を、面倒な仕事まで昇格できない。


 人を破滅させる事に関しては、彼らこそ世界チャンピオンなのだ。




—————————————————————————————————————



 

 静かな部屋だった。

 

 テナントを入れていない、雑居ビルの1フロア。

 今はまだ、何も無い。


 いずれ、何らかの雑誌編集社か、法律相談所のような物が入居するか、ビルごと取り壊され、研究機関の施設が立つか。

 何らかの新興宗教団体の、支部として利用される事も、有り得なくはない。


 しかし今は、此処に居を構えようとする人間は、現れていなかった。


 だが、そこの窓際には何やら、テーブルと、そこに脚を乗せた、前後に長い器具が置かれている。窓の外に細い部分を突き出し、後ろ側は長方形、いや台形に近い。

 この国では、フィクション映像の中でしか見ない、ある用途に特化した道具。


 人の気配もある。

 “道具”の上に置かれた望遠レンズを片目で覗き、右の肩でその後端を押さえ、下についているスイッチらしきパーツに、人差し指を掛けている。


 いいや、よく見ると男は、レンズを覗いていなかった。

 目を血走らせ、一杯に開くその様子は、彼の関心が窓の外でなく、彼自身の異常へと向いている、それを意味していた。


 しかし、何処が不調なのだろうか。

 彼は顔を青くしながらも、体の一部を手で押さえるでもなく、倒れ込むでもなく、ただ苦しげにしているだけ。

 見るからに急を要する崩れ方をしているのに、姿勢はそのまま、微動だにしない。

 何故彼は、楽な体勢を取ろうとしないのか?

 自分の状態を確認し、症状を分析し、悪寒の正体を見定めようとしないのか?


 ちなみに、これは余談だが、


 彼の後ろにもう一人、男が立っていた。

 頭髪を持たない、爬虫類めいた、冷たい人相。

 黒一色のスーツ、皺一つ無いワイシャツ、赤いネクタイ、黒革の手袋。

 グレーのバンド帯があるつば広帽。


 男は何をするでもなく、ただ見ていた。

 呻き声一つ上げずに苦しむ様を、ただ、黙って見ていた。

 男には、窓際の彼が、呼吸すら止めていることも、分かっていた。

 もう助からない、という事も。


 スーツ姿の男はやがて、ポケットの中に手を入れ、入っていた何かの器具のボタンを一回押してから、死人の背から視軸を外し、何の感慨も無く扉から出て行った。


 革靴であると言うのに、音を一切立てず、


 そこは本当に、


 静かな部屋だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ