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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第九章:ワルモノ共が、続々と

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211.もうなんか始まってた!? part3

「と、そうして5人は、消えてしまいましたの」


 「どう思われます?」、

 連れ込まれたカフェの屋外テーブルで、ゴスロリ女はそう訊いて来る。


 ゴツいマスクみたいなのをつけながら、飲食店に入ったものだから、どうするつもりかと思っていたのだが、なんのことはなく、ストローを差し入れる為の、ギザギザの開口部が作られていた。


「いや、その話、スパイもの?それとも、怪談…?」


 海が柱みたいに立って、人を呑み込んで、どっかに消えた、なんて。

 しかも中に居たのが、オウファの武装部隊、なんてオマケ情報まで。

 

「意味が分からない。その話で、何が言いたいんだ……?」


 女は俺の態度を見て、露骨に失望して見せる。


「お前……、本当につまらない奴ですのね。お姉様の器ならば、もう少し気の利いた返しを、出来ませんこと?」


 呼称はともかく、俺の中のカンナを知っている。

 こいつは単なる変人ではない。

 どこかの組織の回し者。それか、ill(イリーガル)だろう。

 にしては、派手過ぎる、目立ち過ぎる気もするが、能力的に仕方なかったりするのだろうか?


「それなりの事が言えないようでしたら、伝言だけお願いしますの。ワタクシは、お姉様とお話しているんですのよ?」

「………」


(カンナ、どうする?話す?)

(((少しだけ、面白そうです。付き合ってもいいでしょう)))


「……カンナが、少しは話してもいい、ってさ」

「本当ですの!?嗚呼!有難き幸せ!至上の喜びですの!ワタクシの心臓が動いている事にすら感謝したいくらい!」


 立ち上がって両手を組み、天に祈るようなポーズを取る女。

 ちょ、うるさいよ……!

 これでも俺、家出人みたいなものだから、あんまり耳目を集めたくはない。

 もっと穏やかに淡々と話してくれないものだろうか。



「お気付きかもしれませんけれど、その器の破壊命令が出ておりますの」



 座ってから、一転してウィスパーボイスで、彼女は愉快そうにそう言った。


「破壊…っ!?」

「お黙りなさいな。お前の鳴き声は不要と、何度も申し上げおりますのよ?」


 それは、俺の事を殺せって、誰かが言ってるって事か?

 誰が?

 

「沢山いらっしゃっているようですのよ?あっちこっちから、それはもう沢山」


 女はうっとりしたように、鋭い目を吊り上げて、両手で頬を覆いながら、

 俺を、右眼を、覗き込む。


「お姉様には、お見通しですか?それとも、計算には無いけれど、問題はありませんか?」


 もし、何かの形で、邪魔になるようだったら、


「ワタクシが、排除して差し上げましょうか?」


 何が相手であっても、

 全てを。


「………要らない、ってさ……」


 俺は、カンナが言ったままを、そのまま教える。


「『思ったより複雑化して、物騒になっているけれど、このままの方が面白くなるから、このままで良い。下手な干渉はするな』、って言ってる」


 俺の右眼を意識している。

 そこにカンナが入っていると知ってる。

 って事は、この女はモンスターだ。

 俺の手の中で、汗が滲む。

 今の答えが、こいつの意に添わない物だった場合、突然暴れだしたりしても、おかしくはない。


 そうなったら、どうする?

 ダンジョンの外で、こいつを押さえる事が出来るのか?

 今の俺は、ディーパーでないのとほぼ同義、だって言うのに。


 それに、こいつはどっちだ?

 “キャプチャラーズ”と、“リーパーズ”。

 二つあるという派閥の、どちら側だ?

 こいつがカンナに協力すると言うのは、派閥の総意か?こいつの独断か?

 分からない事ばっかりなのに、要求だけは突き返した格好だ。


 息苦しさが、止まらない。


「………お姉様が、そう仰るのなら、それでいいでしょう」


 幸いにも、そいつは素直に引いてくれた。

 

「ですが、お前」


 が、俺を鋭利な爪で指して、声を憎悪に色付かせ、


「お前がどうなろうとどうでもいいですけれど、お姉様が下賤の手に掛かり、どころか虜囚となり、辱めを受けるのは、堪え難き事ですの」


 その瞳孔を縦に尖らせ、


「お前を狙う者達が、もうこの街の、至る所に潜んでいますのよ?その中の何者にも、お姉様を奪われるなど、許しませんの!」


 命じる。


「お姉様をお守りしなさい?器たるお前の、お役目ですの」


 「心するように、ちんちくりん」、

 そう言って、席を立ち、


「いずれワタクシが、こんな粗悪品を忘れるくらいに立派な、極上の器をお持ちしてお見せしますの!ごきげんよう、お姉様!」


 捨て台詞と共に颯爽と去って行った。



 のは良いんだけどさ。

 

「自分の会計くらいは済ませとけよ……」


 イリーガルのお茶代を奢る事になってしまった。

 ふざけやがって。



 でも、

(カンナ、俺の命を狙って、「あっちこっち」から人が来てるって……)

(((どうやらそのようですね。先程から恥ずかしがり屋さんが、チラチラと覗いていますから)))

(言ってよ………)

(((自ずと気付きなさい?気の抜けている証拠ですよ?減点しますね)))


 懸念してなかったと言えば嘘になる。

 漏魔症罹患者であるのに成功した俺を、良く思わない人は多い。

 が、人に「命令」を出せる立場の人間から、結構な人数が送られて来るなんて、ちょっとおかしくないだろうか。


 もしかして、カンナが欲しいのか?

 学園から居なくなったのを、国からの逃亡だと判断して、“可惜夜ナイトライダー”を確保しようとしている?

 でも俺を壊す、殺すって言うのは、カンナを失うリスクだ。

 テロリストとかの手に渡る前に、手に入らないなら消そうって?

 うーん、そんな事あるか?


(今日仕掛けて来るかな?)

(((機があれば、当然、そう運ぶでしょう)))


 命を奪おうとして来るのは、モンスターだと思っていた。

 

 俺は、人間と、殺し合うのか。


 と言うか、殺し合えるのか?


 俺は一度、人間を裏切った身だ。

 他の何もかもを捨てて、カンナを選んでしまってもいる。

 その上、相手は俺を殺しに来てる。



 それで?

 俺に、人が殺せるのか?



(じゃあ、例えばさ)


 悩むのを一度止めて、俺はそっちを見ないようにしながら、


(俺達より後に入店して、さっきからずっとこっち見てる、あそこの女の人は……)

(((あれも、そうでしょうね)))

(やっぱり?)


 最近、経験によって研ぎ澄まされたのか、ダンジョン内程じゃないけど、視線とかの気配に敏感になっている。

 

 物珍しげに見る他の人間とは、温度差のある目。

 それに気付く事が出来た。

 まあ、他にも居るって気付いてなかったから、俺が凄いってより、相手の腕がちょっと未熟なだけ、かもしれないけど。


(とすると、これさあ)


 俺の前に置かれたアイスティー。

 それはまだ、一口も付けられていない。


(飲まない方が良いかな?)


 女がさっき、「お手洗いです」みたいな顔をして席を立ち、これを運んでいた店員さんと、すれ違っていたのを憶えている。

 じっくり見てたわけじゃないから断言はできないけど、その時に毒とか仕込まれてた可能性は、十分あると思う。


(((どうです?試しに一口)))


 勿体ないけど、仕方ないか……。

 俺は何も飲まず、店を出る事にした。


(((挑戦心に欠けますね、十点減点)))

(はいはいどうぞどうぞ持ってけドロボー)

 

 好き勝手に野次を飛ばすカンナをあしらいつつ、考える。


 人を殺しにくい場所って、何処だろう?


 例えば、公的機関の近くとか、良さげかもしれない。

 そうなると、


「………………行ってみるか………」


 丹本唯一の永級ダンジョン、“箴埜筵インプレッシヴ・デプレッシヴ”。


 あの近くなら、国による警備も厳重。

 仮にその「国」が俺を殺そうとしていても、流石に現場の職員全員にまで、命令が行っているとは思えない。何せ人殺し、それも法的には特に問題の無い国民を相手にだ。ほんのごく一部に限って、知らされている筈だ。

 迂闊な真似は出来ない、と思う。たぶんだけど。

 一般市民も少ないから、巻き込まずに済むし。


 それにあそこは、俺の原点みたいなものだ。これから再出発をする、そのスタート地点として、この地を訪れたけど、ちょっと行き詰ってた所だ。どうせなら、()()()()まで行ってみるか。


 しばらくはその付近に滞在して、今後の身の振り方を考えよう。

 カプセルホテルとかあれば、キャリーケースも移して。


 そんな事を考えながら、

 8年前、俺の全部を変えてしまった、奪い去った爆心地、

 それに最も近付ける所にまで、

 向かう事にした。

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