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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第九章:ワルモノ共が、続々と

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207.困るモンは困る

「問題ありません。何が心配なのかも分かってて、それも覚悟でお願いしてます…!」

「そういう問題じゃなくってですねえ………」


 8月23日、金曜日。

 六波羅は、またしても困っていた。


 丁都を出るまでの、カミザススムの足取りを掴んだのが、20日。

 現在はどの辺りに居るのか、当たりを付けたのが、昨日。

 ただ捜索範囲は未だ広く、人手が欲しくなった所で、同行していた依頼人のニークトが、援軍を呼ぶと言い出した。

 六波羅はてっきり、実家に泣きついてなんとか人員を引き出すのだと思って、それを了承した、のだったが、


「ニークトさん!これは聞いてませんよ!」

「特に質問はされませんでしたから」


 やって来たのは、揃いも揃って学生、と言うより、彼と同教室の生徒達だった。

 

「何です?私がわざわざ足を運んだのですから、時間を無駄にせず、取り掛かるべきだと思いませんか?」

「この人、ほとんどの人間に対してこの対応なんだねぃ」

「ニークトの奴は狼だけじゃなく、猫も被れるみてえだがな」

「おいうるさいぞお前等!特に脳筋!協力者の方に失礼だろうが!」

「に、ニクデブが正論言ってんだけど……」

「ウケるー……」

「ニークト様が言う事はいつでも正しいッス!“しれっと1000倍”ッス!」

「?……セン…?……!“失礼千万”だ八守ィ!」

「それッス!現実見るッス!」


「お、おおう……」


 一連の遣り取りだけで、一癖も二癖もあるメンバーなのが分かる。事前にニークトから聞いていた、「問題児クラス」という情報が、信憑性を帯びて来た。

 何なら疑問だった、ニークトが所属している理由も、何となく分かった。

 彼の「依頼者」としての顔を見た後だと、強烈な落差に驚き呆れるばかり。

 イジられて活き活きしている彼を見ていれば、どちらが素なのか一目瞭然だが——


——いや、それも違うか。


 使い分けが出来るタイプ、なのだろう。

 人間には幾つも側面があり、彼はある程度選択的に、それを表出しているように思える。

 学校内で、粗暴で幼い面を見せているのは、何か理由があるのだろう。

 

——彼よりも、


 六波羅が危険視しているのは、一人の少女。

 彼の学生時代にも、学年やクラスの中心的存在として、こういう人間が居た。

 誠実で、裏表なく、嫌味を見せず、憎ませず、

 同性異性の境なく、好印象を与える生徒。

 彼女もまた、空気に敏感で、自分の役割を演じる、適切な「自分」を器用に出し入れ出来る、だろう、通常ならば。

 

 が、今、その機構の何処かに、深刻な機能不全が、発生しているように見える。

 恐らく、冷却能力。

 見せたくない部分がカバーで閉じられているのに、熱気が六波羅の肌に触れている。

 

 つまり、感情的になっている。


 発火点と言える温度、他者と同じ。

 だからこそ、既にある程度温まっている彼女が、この中で最も激しやすく見える。

 それが甘酸っぱい感傷から来るのか、それとも何かもっと別の情炎なのか、それは分からない。

 ただ六波羅からは、「取り扱い注意」と見えた、と言うだけである。


「ニークトさんが言ってた『心当たり』って、もしかしてこの方々の事ですか?」

「左様です。ランク7が1名、ランク6が3名、ランク4が2名、充分過ぎる戦力でしょう?」

「ダンジョン外の危険に対しては必ずしもプロではないでしょう!?」

「非常時なら、魔力の使用も許可されます。明胤生の判断となれば、警察も頭ごなしに、若者の戯言たわごと扱いはしないでしょう」

「そうかと言って、不意討ちの初撃は対処出来ないでしょう!いえ、飽くまで可能性ですが、しかし大人として、怪しい動きが見える案件に、対人実戦経験の薄い、子どもの介入を許すわけには」

「お願いします!」


 頭を下げたのは、先ほどの要注意女子、詠訵三四。


「さっきも言った通り、私達は、少なくとも私は、やってる事がどれだけ危ないか、っていう認識はあります。ダンジョンの中で、完全装備で、モンスターを相手にするより、難しい、無茶な話だって分かってます。その上で、お願いします」


 「私に、手伝わせて下さい!」、

 最敬礼を超え、90°に届かんという勢いで下がった上体が、そこから固定されたように動かない。

 六波羅は考える。

 彼としては、絶対に反対だ。これは動く事が無い。

 

 だが一方で、彼女達を突っ撥ねたとして、

 

 この辺りをカミザススムが通ったらしい事は、もう知られてしまっている。

 彼女達は、独自で調査しようとするだろう。詠訵の様子を見る限り、彼女だけでも実行する。

 その場合、危険度は更に上がる。六波羅の知らない所で、命の危機に瀕してしまえば、守りようが無い。


 ならばまだ、彼の監督下でやらせた方が、幾分か安全だ。


 彼女を後戻りさせる事は、誰にも出来なくなっている。


「……分かりました」


 同行を認めるのが最善。

 けれど、


「くれぐれも、私の指示に従って下さい。でないと、命の保証はありません」

「ありがとうございます」


 ようやく頭を上げ、友人らしい少女からペットボトル飲料を渡され、マスクを下げて口に含み、気を落ち着けている彼女を見ながら、六波羅は祈るしかない。

 

 全てが取り越し苦労であればいいのに、と。

 彼とニークトの懸念が考え過ぎで、これが単なる家出であれば、それでいいのだが。


 ともあれ、情報さえ入ってしまえば、彼女が突っ走るなんて事は、ニークトには分かっていた筈だ。

 それを知っていて、六波羅が断れなくなる事を狙って、巻き込んだようにも見える。

 半ば責めるつもりで、彼は依頼人を見て、


 青年の横顔が、鬼瓦のように見えた。


 ほんの一瞬、誰の視界からも外れたその時、狩人を前にした狼が如く、口布の端から見える奥歯を立て軋ませ、いかっていた。


 青年はすぐに六波羅の視線に気づき、力を抜きながら顔を向け、


「班を分けましょう。定時連絡をさせて、広範囲を一気に洗うべきです。遅れるほど、足取りは薄れ、奴の命が風前の灯火に近付きます」


 繕うようにそう言った。


 六波羅は、口を開け、


 一度閉じて、逡巡した後、


「そうですね。それぞれ担当エリアを決めましょう。誰かが証言なり手懸りなりを得れたのなら、そこを基点に再出発する形で」


 結局彼の判断を、尊重する事にした。


 ニークトは、決して馬鹿ではない。

 教室所属メンバーも、憎からず思っていると分かる。

 それでも彼は、何か譲れない物の為に、この捜索に友を巻き込んだ。

 己の罪を、重々自覚して。

 であるならば、大人から言う事は、もう特にない。時間の無駄だ。

 

 後は結果が出てから、改めて言い聞かせてやるしかないだろう。


「それでは、現在我々が居る、戌島県砂苗代市——」



 永級ダンジョン、“箴埜筵インプレッシヴ・デプレッシヴ”が現れた地。



「ここを中心に探して行く事になりますので——」



 カミザススムの家族は、

 この地で亡くなった。

 

 彼が目指したのは、乗った路線や目撃情報から言って、


 十中八九この場所だ。

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