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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第九章:ワルモノ共が、続々と

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8月25日 慰霊碑前にて part1

「虫?」

「そうだ……虫だ、ロクさん……!虫が這いまわってやがるんだ!顔の中を、虫が」


 ダンボールハウスの中に横たわり、老いた男は苦しげに答えた。


「あの女と、会ってからだ。あの、赤いエナメルの……。それで、みんな、おかしくなっちまった……!」

「エナメルの、女、だって?」

「そうだ…!そうだ…!あの女は、突然現れた…!何の前触れもなく、突然…!」


 顔を掻き毟ろうとする腕を押さえつけながら、「ロク」と呼ばれた、矮躯にみすぼらしい格好の男は、耳を傾け続ける。


「そいつは何を、何をしたんだ?」

「何も?何もないさ!何もしてない!ただ、ナンタラ言って、ジッパーを下げた!ライダーだかキャットだか言う、あの服だよ…!映画とかでよく見る、それの、赤いやつだった…!」

「それで、どうなった?」

「良い匂いが、した……いや、誓って言うが、嗅ごうとしたわけじゃ、ねえ…!確かに、中々見ねえ別嬪で、そりゃ、もよおしは、したさ…!したけどよ…!鈍するたあ言ってもよお……!」

「分かってる。分かってるともさ。あんたは、理性的な人間だ。初対面の相手を無遠慮に嗅いだり、そんな事はしない」

「そう、そうだ……!そうなんだ…!……ウウウウウ……!」

 

 手足は小刻みに震えているのに、肌は鉄板の如く熱され、汗は後から後から、刺し傷から流れ出る血液のように、止まらない。

 話す言葉にとりとめが無くなり、今にも暴れ出したいという衝動が、ジタバタと内骨格を足場に跳ね回っていた。


「みんな……!みんなあれで、ダメになっちまった……!みんな気分が良くなって……!あの女から、離れられなくなっちまって…!それで……!」

「何を、要求された……?」

「写真を、見せられた……!」

「写真?」

「子供だ……!まだ、中学生くらいの……!新聞とかで、見た事ある……!あの顔…!思い出せねえ…!どこで見たのか、思い出せねえんだよぉお……!」

「分かった。分かったから。それはいい。それは良いとして、女だ。女は一人だったのか?」

「いや……いや違う……!でっけえのと、ちっこいのと……二人……」

「そいつらも、女か?」

「違う、ちがうちがう!男だ!男だった!スーツって言うか、あの高そうな、格好で…!」

「丹本人か?」

「たぶん、違う……、ぅぅぅぅぅ……外国人に、見えて……」


 外国人が三人。

 ビジネススーツ姿らしい男二人と、キャットスーツの女一人。

 それが有名人の少年を、探している?

 そして、彼が目の当たりにした、異様な状況。

 それは恐らく、魔法だ。

 魔力のダンジョン外使用という、重罪だ。

 そしてこの症状から、その効果は、想像が正しければ、

 なんて事だ、それは脳を破壊する。

 この男はもう二度と、元に戻れない。


「みんな、携帯、持たされてよ……!見つけたら、『ご褒美』、くれる、って言って……、でもみんな、『また会える』、それしか頭になかった……!」

「それで、見つかったのか?」

「ぁぁぁぁああ……!きのう、この近くで……!」


 この近く。この短期間で。

 こんな事を全国各地で続けていたら、何らかのニュースになっているだろう。

 それが無いという事は、ここが開始点、もしくは初期だ。

 ある程度心当たりがあり、総仕上げとして、この地のホームレスのコミュニティを掌握し、忠実な使い走りにしたか。


 ロクは奥歯を噛み削る。


「そいつら、名前は?呼び合ってなかったか?」

「ママ…」

「なに、ママ?母親がどうした?」

「そう呼んでたんだ……!まままままま、ママ……、それと、ディーズ…とか……あああああああ!アア!アア!」

「大丈夫、大丈夫だ!ここにあんたの敵はいない…!虫もいないよ……!」

「取ってくれ!とってくれよ!アアアアアアア!!」


 それ以降は会話が成立せず、男の体力が尽きるまで、暴れないよう満身の力で押さえるしかなかった。

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