表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第八章:さあ夏休み!と言えば!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

290/985

190.外へ part1

「よし、それじゃ、心の準備は?」

「待ってて……」


 目蓋を閉じて、お腹の膨縮ぼうしゅくを感じるくらい、何度か深く吸って、吐くエンリさん。

 俺も名残惜しい気持ちで一杯だ。

 この家は、今日見つけたばかりの、安心出来る場所だった。

 中に居るだけで、暖かな腕の中に居るようにさえ思う。

 それでも、本物の安住の為に、俺達はここを出なければならない。

 柔らかな蛍光灯の下から、外灯も星明りも無い沈んだ通りへと。


「ふう、ばっちり!」


 ぱっちりと目を開け、彼女は真っ直ぐ宣言する。


「行こう!」

「うん、しっかり付いて来て!」


 戸を開け、黒い地面へ、足を出す。

 冬の日に、布団からはみ出てしまったような、寒気と恐ろしさを感じてしまう。

 あれだけ騒がしかった、蝉の音が聞こえないからだろうか。

 煩わしく思っていたのに、今更帰って来て欲しいなんて、それこそ虫が良過ぎる要求かもしれないけど。


 


 俺は暗視ゴーグルもあるし、魔力で地形を見れる。

 暗い場所でも、大きな不自由は無い。

 が、エンリさんはそうはいかない。

 彼女は魔法を発現したてで、魔力感知等の扱いについては素人、いや赤ちゃんと言っていい。だから、俺の何処かに掴まりながら、ゆっくり付いて来て貰おうと思っていたのだが、


「……変だな………?」

「ど、どうしたのぉ?」

「いや、明るいんだ」

「そ、そうなの?目が慣れてきただけ、とかじゃなくて?良い事でしょ?」

「それならそれで良いんだけど……」


 こんな真っ黒の空の下、山道の輪郭までくっきり見える事、あるのか?俺の目は、何の光を拾ってるんだ?

 いや、気にしてる暇は無いか。


「あ、足下が見えづらいし、手、握ってちゃダメ?」

「………そうだね。その方が安心か」


 片手が空いてないのは怖いが、何か危ない物が近づいた時、すぐに彼女を引き寄せられるという利点も捨て難い。

 俺の左手と彼女の右手を繋いで、先を急ぐ事にした。


「………いる」


 町に入る前から、そこを徘徊するイヤな触感を感じる事が出来た。

 全体的に、地の底から湧くような臭気に覆われている。エンリさんも分かるほどに強いらしく、彼女は片手で鼻と口を守っており、目には涙が滲んでいる。

 その中でも、「濃い」と嗅ぎ取れる場所が、幾つもあり、それぞれが移動している。

 さっきの奴等だ。

 この数………、残念ながら、下級モンスターらしい。おいおい、本当に、深級ダンジョンが出来たって言うのか?

 

「足音を立てないように行こう」


 現実になりつつある悪い予測については聞かせず、やって欲しい事だけを端的に告げる。彼女は無言で首肯しゅこうしてくれた。


 壁伝いにソロソロ進む。

 出くわしそうになったら、彼女を抱き上げて近くの塀や生垣を飛び越え、相手の姿が見える前にその後ろに隠れる。

 少々気にし過ぎなくらいに、離れた気配も徹底して避ける。

 エンリさんは、戦闘どころか、身体強化による急な動きにも慣れてない。動く前にサインを送って確認し、それからジャンプしなければ、驚いて悲鳴を出して、モンスターを呼び寄せてしまうかもしれない。


 今立っているのは、見つかるかどうかじゃなく、気付かれるかどうかの次元。

 かくれんぼと違う所は、ここに俺達が居ると、向こうが認識していないだろうという点だ。逆に、俺達を見つけようという意思が奴等にあれば、簡単に炙り出されてしまうだろう。

 俺達が居ること自体を、知られないようにしなきゃいけない。

 だから慎重に、

 なるべく安全に、

 痕跡すら見せないように、

 極度の緊張からか、町の造りのせいか、

 地面が斜めっているような気がして、



 ゴボリ。



「!」

 

 彼女を背に庇うようにして道の脇を見る。

 側溝。

 その中が泡立っただけのようだ。

 弾けたその中から、一際ひときわ酷い臭いが漂遊ひょうゆうする。

 お、おどかすねい。

 俺はまた歩き出そうと


——何が?

 

 泡立ったって、何が?

 幾ら田舎だからって、そんな、ドブが沸いたりしてるものか?

 それに、この悪臭は…


——そんな


 そんな馬鹿な。

 そんな事あるかよ。

 俺は誰かが、目の前の光景が否定してくれるのを待つ。

 が、そうはならない。

 俺が恐れていた通りに、

 暗く満たされた溝から、

 空のように黒く汚れた粘液が湧き出てきて、


「こいつは……!」


 さっきから、俺が嗅いでた、町全体を支配するような、黴とも薬品とも廃水とも付かない、吸うだけで人体を害するような、その大気の元は!


 


 ダンジョンのモンスターには、分類がある。どういった特徴のヤツが、どの階層から現れるのか、全てのダンジョンで共通した法則を持つ。

 第2層から登場するのは、硬く、地を這うタイプのモンスター。

 通称は、V(ヴァンガード)型。

 俺は、さっき戦ったのが、それだと思っていた。

 もしくは、遠距離攻撃担当の、(メイジ)型かも、と。

 けど、違う。

 数が最も多く、ある意味最も繁栄していると言える最多勢力、G(グラーツ)型。

 俺が倒したのは、それだ。もしかしたら、集合体なのかもしれないが、それでもダンジョンで一番弱いタイプの敵だ。

 そして、

 この町の、排水に棲みついてしまった、今俺の前に居るそいつこそが——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ