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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第八章:さあ夏休み!と言えば!?

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176.あんな事になるなんて…… part2

「俺の前にノコノコ出て来て、政府とかに突き出されるって、考えなかったのか?」

「余程の馬鹿じゃなければ、そんな事はしないよ。だって、きみは彼女を手放したくないだろうし」


 「それに」、

 金色水着の紐を結び直した彼女は、こっちに身体ごと向き直り、サングラスを下にズラす。

 白目は無く、黒い眼球と、マグマのような瞳が見えた。


「それにわたしらがここで暴れれば、とんでもない被害になるって、それくらいは察せるでしょ?」


 くそ。

 カンナを隠している事にしろ、一般市民を巻き込みたくない心理にしろ、俺の弱点を心得ている。

 お互いにここじゃあ、軽い気持ちで手が出せない。

 だからこそ、この場所を接触機会として選んだのか?


「だとしたら、余計に分からない。それ程にリスク管理を考えられるお前らが、交戦する気も無いのに、何だって白昼堂々現れた?」

「決まってるでしょ?」


 「交渉だよ」、

 そいつはいけしゃあしゃあと、思いもしなかった事を口にする。


「はあ?」

「きみと彼女が力を貸してくれるなら、わたしら“環境保全キャプチャラーズ”は、きみらに全面的に協力する。きみの事を守るし、危機があれば報せる。そういう条件でどうかなぁ?」

 

 何を今更、


「今更遅いだろ…!お前達には、過去に殺されかけてるんだ。それをどう信用しろって言うんだよ?」

「あー、やっぱり勘違いしてる。そこが間違い」

 

 間違い?


「“火鬼ローズ”とわたしらは、仲間じゃないんだよ。彼は多分、わたしを殺す為に温められていた切り札でねー?わたし含め、負けるとは誰も思ってなかった。感謝したいくらいだね」

「ど、どういう事だ……?」

「きみらがill(イリーガル)と呼ぶモンスターは、大きく二つの勢力に分かれている」


 イリーガルに、派閥?


「わたしらは、世界の味方だよー?空蝉うつせみを一変させて、元に戻せなくしてしまう、そんな“敵”から、きみらを守っている」

「口から出まかせだな…!」

「そうとも言えないでしょ。先の“火鬼ローズ”との戦いで、きみのタネは割れてるんだ。十文字詠唱は授けられても、“彼女”がこっち側に顕現するには、受肉体が、器が必要だ。けれども、きみの質はかなり悪い。多分、きみから遠くに離れられないとか、きみが見えている景色の中でしか動けないとか、不便が一杯あるんじゃないかな?」


 今俺は、顔色を動かさずに済んだだろうか?

 こういう読み合いに、俺は弱過ぎる。99%確信している敵に、あと一分いちぶを与えてしまったかもしれない。

 たった一度見せただけで、ここまで見通されるなんて。


「だと言うのにわたしらが、寄ってたかってきみ一人の時を狙わないのは、何で?考えてみれば分かる事でしょう?」

「………漁夫の利を狙う、“敵”が居るから…?」

「はい、せいかーい…!下手に触って火傷すると、その傷口に塩を塗り込んで、何なら血管まで破ろうとしてくる。そんな勢いの、敵も敵、不俱戴天の仇が居るから、わたしらは君に手が出せない。敵方も同様だよ」


 「仕掛けるのは、無傷で殺せると、判断した時だけ」、

 それは、簡単ならもう殺してる、という意味で。


「きみの右眼を手に入れて、味方として取り込むか、爆弾として利用するか、それが最善。きみが“彼女”の力と共に、何もせずに消えてくれるのが次善。だったら無理して取りに行くより、楽な方で、相手が火傷するの待ちでいっか。って、そう思ってたんだけどねー」

「……単体なら、“火鬼ローズ”を倒せるくらいだと……思ったより強力だと分かって、話が変わった……?」

「まあ……大体それで合ってる。きみらを無視する事が出来なくなったんだ。きみの右眼は、わたしらの戦局を左右し得る、核兵器みたいな……は、知らないんだっけ?えーと、つまり、“リーサルウェポン”、ってヤツだよ。“簡易特異窟生成弾ドミノボム”とか」


 第二次大戦末期に丹本に落とされ、終戦を決定づけたともオーバーキルとも言われる、悪魔の兵器だ。

 製造法は超の付く極秘事項。

 クリスティアを代表とする“作れる国”が、同盟相手に下げ渡す、という形で流通している。

 現在は弾道弾、つまり長距離ミサイルの形になって、世界の大国がその銃口を、数千個単位で向け合っている。

 撃てば相手を滅ぼせるが、同時に撃ち返され、自分達も滅ぶ、そう言われる。

 撃つに撃てない、その膠着状態こそが、今日の世界平和を作っている、とも。


 イリーガル達の戦場において、カンナという爆弾は、そのレベルの脅威なのだ。


 世界の武の全てを、制圧してしまう程の。

 世界の形を、変えてしまう程の。

 

「だからアプローチを変えてみようと思ってね。きみらを一度、見捨てた事は謝るから。その上で、わたしらに協力してくれないかなぁ?」

「……人を襲うモンスターを、助けろと?」

「それは自然の摂理、なくてはならない習性だよ。モンスターがきみらを殺すのも、きみらがモンスターを殺すのも、もっと言えばきみらが獣や魚、麦や稲なんかを殺すのも、全部同じ事。分かる?」



——“生きる”、って事。



「わたしらは“生きて”いる。きみらと同じようにね?」

「お前達の敵は、そうじゃない、って?」

「彼らは生きる以上を望むんだよ。世界を自分の都合の良いように改変する、それが目的だから」


 「人類との共存共栄を目指すわたしらにとって、天敵なんだよねー」、

 そいつはそう言いながら、縞模様の方が買って来た、たぶんカクテルに口をつける。


「人を殺す割に、人が好きみたいな言い方だな」

「人は好きでも嫌いでもないけど、必要ではあるんだー」

「“敵”の方は?」

「その点では同じだけど、世界の形を保とうとする、適度な距離を保ちたいわたしらに対して、彼らはもっと好き勝手するつもりだ。人類から効率よく搾取するシステムを、作ってしまう、かも?」

「何なんだよ、そいつらは?」


「“転移住民リーパーズ”」


 「あの外来種共は、そう自称してる」、

 その名を言葉にした時、その一時だけ、彼女から悪感情が発された。


「わたしらは、世界の守り人なんだ。善い事かは分からないけれど、必要な事だよ?」


 「どうかなぁ?損にならない話だって、思うけどねぇ?」、

 少なくともそいつは、それを疑っていないように思える。

 自分が守護者だと、自信を持っているように。



 モンスターでありながら、人と同じく、誇りを持っているかのように。

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