170.沙汰を待つ…、介錯を頼む…
「——っていう感じで、まあ色々端折っちゃいましたけど、要は落第して放校になる瀬戸際、みたいな物だと考えて下さい。その結果が気になって気になって頭を離れなくて、夜も眠れ……いや夜はグッスリ寝たんですけど、つまり、ガクブルしてる、って事です」
〈ギャシィッ!〉
「どうです?皆さんが大企業とかの経営者だとして、問題ばかりで首切ろうとしてた社員が、『大会で結果を残りしてきました!』って言って、『16チームのトーナメント大会で準決勝敗退』、っていう結果を出して来たら、残します?」
〈ニニニィ!〉
〈ニギャッ!〉
〈クヌギェイ!〉
「僕的には、僕的にはなんですけど、結構活躍したと思うんです。ホントですよ?かなり派手に立ち回りましたし、部分部分抜き出したら、MVPハイライトに見えなくもないです。POTGですよPOTG、“プレイ・オブ・ザ・ゲーム”」
〈ギャヌ!〉
〈グィニ!〉
〈ニニニニニニニニニニ……〉
「いやまあそれを言ったら編集次第で幾らでも盛れちゃいますけど、アレです、配信業的な言い方をすれば、“撮れ高”が無かったわけじゃない、くらいの出来栄え、と言いますか……。普通は『良かったね』で終わる話なんですけど、立場が弱過ぎて、それだけじゃ安心材料にならないと言いますか……」
〈ぐ、ググ、グェェェ………〉
「皆さんは、どう思いますか?」
『うんうん』
『そうだね?』
『ところでススム、右手のそれは何だ?』
「え?何って、L型ベジトちゃんですよ?やだなあ、今やお馴染みのモンスターじゃないですか。6層ならちょくちょく出てくるでしょ?あ、初見さんかな?だとしたら大歓迎です!いらっしゃいませ!ご覧ください!こちらの人間の手みたいなのが生えてる草が、“地盤餐”のL型です!」
『だよな?』
『良かった、俺がおかしいんじゃなかった』
『ススム、怖い』
『悩みを吐露しながら殺戮の限りを尽くすのやめて?』
『ススム君!元気出してよ!』
「えー?でも、折角の三連休なのに、最終日しか配信出来ないなんて、損した気分じゃないですか。本当なら皆さんと一緒に、みっちりダンジョン攻略やってた筈なのに、スケジュール的にそれが無理だったわけで……。なので、時間を無駄遣いしたくないんですよ」
ススナーの皆と会話しながら、右手でL型の栄養袋みたいな部分を握り潰す。
「というわけで、マルチタスクで行きます!」
『モンスターを破壊しながらでなきゃ、素直に感動できたかもしれないのにな』
『史上最も猟奇的なマルチタスクやめろ、ススム』
『掴まれてるのがモンスター?掴んでるのがモンスター?』
『ススム特有のR18G初見バイバイ』
『俺の中で今最も男女比が疑わしいチャンネル』
『3割の女性って何を見に来てるんだ・・・?』
『庇護欲とかじゃない?』
『素手でモンスターを潰すイカレ野郎に「庇護欲」?妙な感じだ…』
「いや人の事を狂人みたいに言わないで下さいよ!」
『違うの?』
『ススム、間違ってないだろ』
『ススム、諦めろ』
『お前は今のままでいいんだぞススム、おもろいから』
「違いますって!」
だって、
「素手じゃなくて、ちゃんとグローブ越しに触ってますから!そんな危険行為してません!偏向報道やめてくださーい。遺憾です。そんな事しちゃイカンです」
『は?』
『は?』
『なんて?』
『二度と言うなよ?』
『そっかあ…』
『うん、そうだね…』
『何も言うまい』
『ススム、お前に「普通」は一生無理だ』
『芸人路線も無理だ、ススム』
『殴りたい、このドヤ顔』
何でそんなヒドイ事言うの?
と、言いつつ、強さや行動の突飛さに引かれると言うのは、ここ1、2年で慣れっこに……ごめん嘘。慣れてない。今でも嬉しくなっちゃう。調子乗っちゃう。
だってさあ!
漏魔症になってからずっと、何ならそれ以前から、自分の弱さに打ちひしがれてった人生だったんだよ!?自分の戦闘能力に人がザワつくの見てたら、そりゃ気持ち良くなっちゃうよ!しょうがないじゃん!
(((ススムくん、つよ~い…!)))
カンナはやめろぉ!
(((あれ?どうぞご存分に、気持ち良ぉく、なって頂いて、良いのですよ?)))
お前の場合その後に、「じゃあもっと修行をキツくしても大丈夫ですよね?」、って続くだろうが!
(((大丈夫じゃ、ないんですか?)))
それみろ!
ドレミファソレミロ!
(((それは減点です。「芸人路線」、さては未だ、諦めてませんね?)))
『笑いを取りたいなら「流星返し」を』「もういい加減にそれ味しないだろ!」
ペッしなさい!
嚙み終わったガムはペッ!
「『結構有名になったし、明胤ブランドが無くてもなんとかなるんじゃないか』、ですか?そうですね……」
正直、暮らして行くくらいの稼ぎはある。
配信業も普通に続けられるだろう。
アンチからはまたヤンヤヤンヤ言われるだろうが、まあそれはいつもだ。
ダメージは軽微に見えるけど、
「でも、その、折角友達になれた人達が居て、その、疎遠になっちゃったら、寂しいな、って言うか……」
結局、俺があの場所で手に入れた一番の物は、それなんだと思う。
『ああー……』
『ススム、お前裏切ったな!ボッチ仲間だと思ってたのに!』
『この前のコンロ先輩とかか』
『ススムきゅんの不安顔ソソる~…』
『そう言えば斬月先輩の再登場まだか?ススム』
『ススム君ー!!そんな事で縁は切れないよー!!!!大丈夫だからねー!!!!!!!!』
『ススム、本当に友達なら、相手も明胤生じゃないからって、お前から離れたりしないさ』
『放課後とかにまた集まればいいだろ、ススム』
『パーティー組んで潜行とかしろ、く~ちゃんと斬月先輩を出せ、ススム』
『まるで友達がいたかのように訳知り顔なコメント欄』
「そう、ですかね?」
トクシのみんなの顔を、思い浮かべる。
俺が退学なり除籍なりになっても、変わらず接してくれるだろうか。
いや、
——信じろ
そう決めたばかりだろ。
あの人達なら、きっと、大丈夫だ。
俺の自慢の、友達だ。
と、潜行用端末にインストした、業務用WIREにメッセージが!
いつもは配信中だと通知は切るのだが、今日は特別だ。
「み、皆さん!結果が来ました!」
シャン先生に頼んで、俺の処遇が決まったら、こっちのアカウントにも連絡を頼んでいたからだ。
え?俺が明胤に在留できるか危ういって、シャン先生と星宿先生の話を立ち聞きしてしまったのを、本人に打ち明けたのかって?
あの、何と言うか、
シャン先生、あの時点で俺の気配を察知してました。
なんか、「お前は危機感があった方が、120%を出せたりするからな」、との事です。
あの人、偶にすっごい意地悪になります。
あとそれだったら、鍵閉めないで下さいよ!まだカバンが中だったんですから!
って言ったら、
「お前、忘れ物で戻って来てたのか?何か只ならぬ気配を察したのでなく?しかもカバンを?私物全部じゃねえか?お前逆に何持って出たんだ?」
と、マジレスの嵐で返された。
ちくしょう!
「え、えっと、」
ってそんな事はどうでも良いんだよ!
結果は?
俺はまだ、
みんなと、
一緒に居れるのか?




